悪女系ヒロインとエンカウントしました。
「ハル様、風が気持ちいいですね」
大陸へと渡る船の甲板の上で、微笑むサンドラがプラチナブロンドの髪を耳にかける。
デハウバルズ王国は島国なので、他国を訪問する際は必ず海路を利用するのだ。
そのおかげで、王国では海軍が発達しており、これから向かうカペティエン王国とも、まさにこの海で戦を繰り広げた歴史がある。
「それにしても、出発の際のあの
「ええ……」
カペティエン王国へ向けた使節団の出発の日の朝、僕達を見送る王宮の者達の中に、ウィルフレッドの姿があった。
ただアイツは、まるで僕がいなくなることを喜んでいるかのような、そんな表情をしていたんだ。
これ、絶対に何かやらかすつもりだよね。
「念のため、ハロルド殿下が留守をされている間は、お兄様に王宮内を監視するようお願いしておりますので、何かあってもすぐに対処できるとは思いますが……」
ありがたいことに、不在にしている間の僕達にかかる一切のことを、セドリックが引き受けてくれた。
最初は渋っていたけど、サンドラが上目遣いでお願いしたら、二つ返事で首を縦に振ったとも。あのシスコンチョロイ。
「いずれにせよ、僕がすべきことはカペティエン王国との親善を図り、デハウバルズ王国が戦争のない平和な日々をできる限り送れるようにすること。アイツのことは、今は二の次です」
「ふふ……やはりあなた様は、誰よりも素晴らしい御方です。利己的なカーディス殿下や、自尊心と虚栄心の塊であるあの
あははー。相変わらず僕の婚約者は、辛辣だなあ。
でも、その評価は正しいんだけどね。
「そういえば、その中にラファエル兄上が含まれておりませんが、サンドラはどのように評価されているのですか?」
「そうですね……」
僕の問いかけに、サンドラは顎に手を当てて思案すると。
「……ある意味、私の兄様に似ているところがあります。妙に特定の人物に、執着しているというか。それ以外に対しては、まるで興味を示さないのですが」
「へ、へえー……」
サンドラの言葉に、僕は何て返したらいいのか分からなくなり、曖昧な返事をした。
確かにラファエルは重度のマザコンなので、その評価は正しいんだけど……ある意味サンドラもブーメランなんじゃないのかなあ……。
いや、嬉しくはあるんだけどね。
だって、最推しの婚約者がここまで僕に執着してくれるなんて、最高じゃないか。
とはいえ。
「……いつか、ちゃんと言わないとね」
「? ハル様?」
「あ、ああいえ、なんでもありません。そろそろ寒くなってきましたので、船内に戻りましょう」
「は、はあ……」
僕の呟きを拾って不思議そうに尋ねるサンドラに、僕は慌てて取り
◇
「うわあああ……!」
僕達使節団はデハウバルズ王国を出発し、海を渡ってカペティエン王国に上陸して陸路を進むこと、およそ二週間。
目的地である王都“サン=ジュヌ”に到着した僕達は、その街並みに圧倒されていた。
「さすがは歴史ある街ですね。整然と立ち並ぶ建物は歴史があって美しいです」
サンドラが僕の手を握り、肩を寄せてささやいた。
そういえば……『エンゲージ・ハザード』では、この国のヒロインと『恋愛状態』になると、いつの間にかサン=ジュヌの中央にある大きな教会を勝手に予約され、結婚式を挙げられそうになるっていうドタバタエピソードがあったなあ。
まあ、デハウバルズ王国の第三王子である僕と、最大貴族であるサンドラが、ここで挙式をするなんてことは絶対にあり得ないんだけどね。
そう思っていたんだけど。
「素敵な教会ですね……」
おっと、サンドラがあの教会をうっとりした表情で眺めているぞ。
となれば、何とかしてここで結婚式ができるように、宰相やオルソン大臣にちょっとお願いしてみようかな。
ただ、そんなことをしたらオルソン大臣が、ここぞとばかりに僕を担ぎ上げてきそう。それだけは絶対に嫌だなあ……。
などと考えていると、大通りの正面にある巨大な白い建物が眼前に迫っていた。
もちろん、訪問先であるカペティエン王国の王宮ですとも。
「ハロルド殿下、カペティエン王国へようこそお越しくださいました」
王宮の入り口で屈強な騎士達とともに出迎えてくれたのは、この国の王太子であり後の
もう一人は、亜麻色の髪をチョココロネのようにサイドテールの縦ロールにし、カペティエン王族を象徴するアメジストの瞳。
身長はサンドラと同じくらいで一四〇センチ前後と低いにもかかわらず、その圧倒的な胸は他のヒロインの追随を許さない。
そう……『エンハザ』の押しも押されぬメインヒロインの一人であり、カペティエン王国の第一王女。
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