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主人公を差し置いて、僕が親善大使に任命されました。

「ハロルドよ。カペティエン王国との親善、全力で務めるのだ」


 オルソン大臣に了承の返事をした途端、エイバル王に呼び出され、正式に親善大使を任命されてしまったよ。

 というか、ちょっと準備がよすぎじゃない?


「なお、今回の使節団はハロルドを責任者とするが、ウィルフレッドも補佐役として同行させる」

「えっ!?」

「はっ!」


 ええー……まさかウィルフレッドも、一緒に連れて行かないといけないの? メッチャ嫌なんだけど。


「陛下、お待ちください。今回の使節団は、ハロルド殿下お一人で充分です。ウィルフレッド殿下のお力添えは必要ありません」

「何を言うか。聖王国にも顔が利くウィルフレッドがいれば、交渉を有利に進めることができるのだぞ。向こうとて、聖王国とは懇意にしたいであろうしな」


 オルソン大臣がウィルフレッドを拒絶しようとするけど、エイバル王はそう言って聞かない。

 エイバル王の言葉は理にかなっているように思えるかもしれないけど、そもそも聖女のクリスティアや教皇と繋がっているのは、実は僕のほうなんだよね。言わないけど。


 なので、ウィルフレッドの奴に聖王国に対してのメリットは何一つないよ。むしろマイナスだ。


僭越(せんえつ)ながら、この私もオルソン大臣の意見に賛成です。そもそも今回のカペティエン王国訪問に、王子殿下は二人も必要ありません。逆に王子殿下が二人もいることで、向こうはどう接するべきか頭を抱え、結果的にまとまる話もまとまらなくなってしまいます」

「むう……」


 意外なことに、宰相もオルソン大臣を支持したため、エイバル王は顔をしかめて(うな)った。

 エイバル王は何としてもウィルフレッドを使節団の一員としてねじ込みたいようだけど、さすがに宰相と外務大臣から反対されれば、いくら国王でも無碍(むげ)にはできないか。


「……相分かった。あとはその(ほう)達に任せる」


 憮然(ぶぜん)とした表情で立ち上がり、エイバル王は謁見の間から出て行ってしまった。


「フン……ハロルドにこのような大役、務まるとは思えんがな」

「まあまあ」


 鼻を鳴らしてそう呟くカーディスを、ラファエルが苦笑してなだめる。

 だけど、ラファエルが僕のほうをチラリ、と見やって笑っていたことから、少なくとも彼は僕が親善大使を務めることに反対はしていないみたいだ。というか、どこかこの状況を楽しんでいるようにも見えるんだけど。


 などと二人を遠い目で眺めていると。


「ハロルド兄上」


 そんな予感はしてたけど、案の定ウィルフレッドが(から)んできたよ。


「……なんだ?」

「聖王国の使節団のホストを務めた時にも、役目を全て俺に押し付けて、兄上は何もしておられませんでしたが、本当に大丈夫ですか? 今からでも、俺を同行させるように宰相や外務大臣に進言したほうが……」

「大きなお世話だ。むしろオマエと一緒にいるほうが、問題が起きそうで面倒だよ」


 コイツ、前回のことが全部自分一人で仕事したみたいに言っているけど、大丈夫かな。

 文官達はみんな、オマエのことを嫌っているっていうのに、


「ハロルド兄上。もう少し現実を見たほうがいい。俺はもう、以前のような『(けが)れた王子』ではない。いつまでもそうやって()ねていては、みっともないですよ」

「はいはい」


 これ以上相手をしていられないので、僕は鬱陶(うっとう)しそうに手をひらひらとさせて謁見の間を出ようとして。


「あ、そうそう」

「?」

「僕達はただの(・・・)王子に過ぎないし、宰相閣下もオルソン閣下も、僕達の部下でも何でもない。せめて敬称くらいちゃんとつけろ」


 振り向きざまにそう言い放ち、僕は今度こそ退室した。


 視界に入ったウィルフレッドは、メッチャ顔を歪めていたよ。


 ◇


「……ということで、僕は正式にカペティエン王国へ親善大使として赴くことが決定しました」


 いつものように王宮を訪れたサンドラに、僕は詳細を説明した。


「ですので、僕は二か月ほど不在にすることになるのですが……」

「そ、そんな……」


 そう告げると、サンドラが絶望の表情を浮かべる。

 僕もできればサンドラと一緒に行きたいけど、さすがに婚約者を連れて親善大使を務めたら、『何をしに来たのか』と、糾弾(きゅうだん)されるに違いない。


 特に、カーディスとウィルフレッドから。


「も、もちろんボクは一緒に行くからね! 駄目だって言っても、絶対についていくんだから!」

「ハロルド殿下の身の回りのお世話ができるのは、このモニカをおいて他にはおりません」

「うわっ!?」


 食い気味に来る相棒と専属侍女に、僕は思わずたじろいてしまった。

 だけど、キャスならミニチュアサイズの盾になればポケットの中に普通に入れられるし、モニカだって僕の専属侍女だから同行しても違和感はない。


 というか。


「あははっ。キャスとモニカには、最初から一緒に来てもらうつもりだったよ」

「! そ、そうだよね! ボクとハルは相棒なんだから、当然だよね!」

「お任せください。カペティエン王国滞在中も、ハロルド殿下には王宮と変わらぬ生活をお約束いたします」


 満面の笑みで嬉しそうに飛び跳ねるキャスと、胸に手を当てて(うやうや)しくお辞儀をするものの、どこかドヤ顔のモニカ。

 そんな中、サンドラ一人だけが蚊帳の外で、今にも泣き出しそうな表情で、キュ、と唇を噛んでいる。


 ……何とかして、彼女も一緒に連れて行きたいな。


 そう考えた僕は。


「ごめん。ちょっと用事を思い出したので、席を外すよ」

「え? は、はい……」


 僕は席を立ち、キョトン、とするモニカに見送られて部屋を出ようとした……んだけど。


「おお、これはこれは……ハロルド殿下、少々よろしいでしょうか?」


 ばったりと、部屋を訪れたオルソン大臣と出くわした。


「ちょうどよかった。実はハロルド殿下に、お願いしたいことがあったのです」

「そうなんですか。実は僕も、閣下にお話しがあったんです」


 ということで、僕はオルソン大臣を部屋の中へ招き入れる。

 サンドラやモニカ、キャスは出て行ったはずの僕がすぐに戻ってきたため、何事かって顔をしているよ。


「それで、まずは殿下のお願いからお聞かせいただけますでしょうか?」

「はい」


 先を譲ってくれたオルソン大臣を見つめ、僕は意を決すると。


「今回のカペティエン王国への訪問ですが、僕の婚約者を連れて行ってもよろしいでしょうか」

「っ! ハ、ハル様!」


 そう言って深々と頭を下げる僕を見て、サンドラは一瞬だけ花が咲いたように嬉しそうな表情を見せたけど、すぐに申し訳なさそうに顔を伏せてしまった。


 でも。


「それは好都合でした。実は私のほうも、婚約者であらせられるサンドラ嬢にご同行をお願いしたかったのです」

「ええっ!?」


 オルソン大臣の意外な言葉に、僕は思わず驚きの声を上げた。


「親善大使ともなれば、先方が催す晩餐会にも出席することとなりますが、通常は親善大使ともなればパートナーと一緒に参加するものです。ご結婚もなされておらず、婚約者がおられないのであればお一人でも差し支えありませんが、殿下にはこのように素敵な令嬢がいらっしゃいますので」

「あ……」


 そ、そうか……僕はサンドラを、遠慮することなく連れて行くことができるんだ。

 僕の、自慢の婚約者として、堂々と。


「サンドラ!」

「はい!」


 これでもう、誰にも(はばか)らずに彼女を連れて行ける。

 それが嬉しくて、オルソン大臣が目の前にいるっていうのに、最高の笑顔で胸に飛び込んできたサンドラを、思いっきり抱きしめちゃったよ。


 もちろん、みんなから生温かい視線を向けられたけどね。

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