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第一王子の婚約者とエンカウントしました。

 貴族達の隙間から見えた、赤のドレスを着た見覚えのある令嬢と、その隣にいる髪の色と同じ白銀のタキシードを着た少年。


 間違いない。あれは――。


 ――『エンゲージ・ハザード』の主人公、ウィルフレッド=ウェル=デハウバルズ。


 ゲームにおける主人公は、一言で言ってしまえばチーレムだ。

『エンハザ』の公式サイトによれば、彼の属性は『無属性』……つまり、何色にも染まっていない。

 このことは、こちらの(・・・・)世界(・・)ではウィルフレッドが見下される原因の一つとなっている。

 誰しもが恩恵を受けているはずの属性を持ち合わせていない、『神に見放された者』として。


 だけど、本当は()だからこそ何色にも染まることができ、全ての属性スキルを使用可能。

 オマケに、通常であれば属性間で、有利不利というものが存在する(火属性は水属性に弱く、木属性に強いなど)が、無属性に弱点は存在しない。

 ただ、相手の属性に合わせて有利な属性スキルを使えばいいのだ。


 加えて、そのスキルも武器スキルによる固有スキルのほか、ヒロインと恋愛状態になることでヒロインだけが持つ強力スキルを使用可能になる。

 もちろん、スキル枠は他のキャラと同様、最大で八つしかないものの、戦術に応じていつでも入れ替えが可能だ。


 ステータス? 主人公なんだから、上限なんてないよ。


 だけど、会場に入っても、いつもなら貴族達が僕に対して嫌悪感を丸出しにした視線を向けたりしてくるのに、今日に限ってそういったものをあまり感じなかったから、不思議だったんだよね。

 僕の代わりに、ウィルフレッドが侮蔑の視線を受けていたってことか。


「……ハル様、いかがなさいますか?」


 同じく、ウィルフレッドに気づいたサンドラが、上目遣いで尋ねる。

 正直に言って、カーディスにすら会いたくないっていうのに、どうして主人公にまで遭遇しなくちゃいけないんだよ。


 あれかな? ラノベあるあるの『強制力』っていうのが働いて、無理やりにでもウィルフレッドと敵対する構図を作りたいのかな?

 こっちからしたら、願い下げなんだけど。


「もちろん、相手にするつもりはありません」

「かしこまりました」


 僕が吐き捨てるように告げると、サンドラは静かに頷いた。

 彼女だってわざわざ『(けが)れた王子』なんかと関わり合いになったら、シュヴァリエ家の家門に傷がついてしまうだろうしね。


 もちろん、ウィルフレッドの境遇については可哀想だと思う。

 国王と愛人の間に生まれたウィルフレッドが、本人の意思に関係なく王位継承権を得てしまったのだから、周囲も色々と思うところがあるのも当然だ。


 それに、ウィルフレッドの実の母親であるサマンサがメッチャ酷い。

 エイバル王の寵愛を受けていることをいいことに、王宮内でも好き放題。少しでも弁えていれば、ここまで波風も立たなかったのにね。


 何より……エイバル王におねだりして、ウィルフレッドに王位継承権を与えた張本人なのだから。


 まあ、結果的にその王位継承権を持っているからこそ、『エンハザ』において王への道が開かれ、主人公として活躍することができるのだけど。


 ただ。


「……ウィルフレッドは、どうしてこの場に……」

「? ハル様?」

「ああ、いえ……気になったものですから」


 不思議そうに僕の顔を(のぞ)き込むサンドラに、僕は苦笑して軽くかぶりを振った。


 ただ、今日のパーティーに参加しているということは、主催者であるマーシャル家から招待を受けたということ。

 今まで一度もパーティーの場に参加したところを見たことがないのに、今回に限ってマーシャル家は、どうしてあの男を招待したのだろうか。


 僕はサンドラとともにウィルフレッドから距離を取りつつ、そんなことを考えていると。


「カーディス第一王子殿下、フレデリカ様のご入場です!」


 会場内にあるバルコニーの扉から、今日の主役、フレデリカ=オブ=マーシャルが入場する。

 エスコートするのは、もちろん婚約者であるカーディスだ。


「へえ……」


 だけど、フレデリカも『エンハザ』のヒロインの一人だけあって、綺麗だなあ。

 シャンデリアの光の反射で紫にも見える艶やかな黒髪に、アメジストを思わせる淡い紫の瞳。

 僕よりも二つ年上だけど、発育のよい身体はスタイル抜群だ……って。


「……ハル様は、あのような女性がお好みですか?」

「っ!? とと、とんでもない!」


 フレデリカと自分の胸を交互に見た後、サファイアの瞳を僕に向けたサンドラに、思わず全力で否定した。

 というか怖い! メッチャ怖い!


「そ、そもそも、僕が婚約者であるサンドラ以外の女性に、目移りすることなどあり得ません! これだけは自信を持って言えます!」

「ふあ!?」


 そうだとも。前世では数多くのヒロインがいる中、たったスチル一枚の無表情のサンドラに本気で惚れ込んだ僕だよ? こんなにもたくさんの表情を見せてくれるのに、他のヒロインなんて見ている暇は一切ありませんので。


 ちなみに、フレデリカに関しては『エンハザ』本編でカーディスに正式に婚約破棄された後、彼女の父であるマーシャル家当主から勘当を言い渡されるのだが、それを主人公のウィルフレッドが助け、逆にフレデリカとマーシャル家の裏の顔が明らかになり、それに関連した事件へと発展するシナリオに突入する。


 そのシナリオを全クリすると、晴れてフレデリカと恋愛状態となれるのだ。

 よくよく考えたら、フレデリカはヒロインの中でも攻略難易度は低かったよなあ……と、くだらないことを考えていると。


「本日は、ようこそお越しくださいました」

「っ!?」


 ええー……どうしてフレデリカが、僕のところに挨拶に来るんだよ……。

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