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パーティーの招待状が(執拗に)届きました。

「はふう……相棒は、こんなに美味しいものを食べているのかあ……」


 用意された魚料理を食べ終え、ご満悦のキャスパリーグ……今では、“キャス”と呼んでいる。

 何でも、『あ、相棒なんだから、愛称で呼び合うのは当然だよね!』ってことで、キャスの要望に応えることとなった。


 僕の愛称? 僕は前世の名前である“ハル”って呼ばせているよ。

 なんだかんだで、馴染みがあるからね。


 ただ、そのことがお気に召さなかった……というか、最初に僕のことを愛称で呼びたかったらしいアレクサンドラ……“サンドラ”が、思いっきり()ねてしまったんだ。

 いやもう、その時のサンドラの可愛さときたら、思い出すだけで胸がメッチャ苦しくなるんだけど、それは僕だけの特権なので、誰にも(特に男には)教えるわけにはいかない。


 とにかく、僕と彼女もお互いに“ハル”、“サンドラ”の愛称で呼び合うことになったのだ。


「キャス、美味いか?」

「うん!」


 聞いたところによると、魔獣はマナを主食としているらしい。

 ただ、そのマナの供給方法は様々で、キャスみたいに自然や大地から吸収する魔獣もいれば、直接口に……つまり、マナを保有する生き物を摂取する者もいるとのこと。


 もちろん、その生き物には人間も含まれる。


 そういう意味では、被害が出る前にヘンウェンを討伐できたのは不幸中の幸いだった。

 モーン島にヘンウェンが捕食できる生き物はほとんどいないし、すぐ隣のバンガーの街を襲うことは目に見えていたからね。


 などと考えていると。


「ハロルド殿下」

「ん? モニカ、どうしたの?」


 やって来たモニカが、どこか困ったような様子を見せる。

 僕やサンドラを揶揄(からか)いはするものの、基本的にあまり感情を表に出さない彼女にしては珍しい。


「実は……」


 モニカが言うには、僕達が不在にしていたこの一か月の間に、パーティーの招待状が連日届いていたらしい。

 しかも、たった一人の人物から。


「えーと、差出人は?」

「……マーシャル公爵家です」


 さて、困ったぞ。

 マーシャル公爵家といえば、先々代国王の弟が臣籍に降って興した貴族家だったよね。


 サンドラの実家であるシュヴァリエ公爵家には及ばないものの、ルーツをたどれば元王族。失礼な真似はできない。いや、招待状を一か月も放ったらかしにしているんだから、充分失礼か。どうしよう。


 何より……マーシャル公爵家の長女フレデリカは、第一王子であるカーディスの婚約者でもある。


 そんなマーシャル家のパーティーになんて出席したら、カーディスと顔を合わせることになっちゃうじゃないか。是非ともお断りしたい。


「いかがなさいますか?」

「……このまま返事をしない、っていうのは駄目かなあ」

「さすがにそれは難しいかと」

「だよねえ……」


 いや、断ったら断ったで角が立つし、のこのこ顔を出したらカーディスに遭遇。宙ぶらりんにするのが最善策なのに、それも許されない。はい詰んだ。

 とはいえ、これって身から出た(さび)なんだよなあ……。


 ハロルドはカーディスの実の弟だし、全力で()びを売っていたから、向こうが気を遣ってくれているということは分かる。実際、これまでもマーシャル家のパーティーには必ず出席していたし。


 でも、僕は以前のハロルドじゃない。カーディスの腰巾着なんて続けるつもりはないどころか、全力で距離を置きたいのだから。


「それに、いくらハロルド殿下が以前から懇意にされていたからとはいえ、このように執拗に招待状を送られるのには、何か理由があると思われます。保留のままにするのは、むしろ危険かと」

「ウーン……」


 さて、どうしようか。

 行きたくないのはやまやまだけど、こんなに招待状を送ってきた理由も知りたい。


「もうすぐお嬢様がいらっしゃいますので、その時にご相談されてはいかがですか?」

「そうだね」


 僕じゃアイデアが浮かばなくても、聡明なサンドラなら良い答えを言ってくれるかもしれない。


 ということで。


「マーシャル家のパーティー、ですか」

「は、はいいいいいいいッッッ!?」

「ニャハハ、頑張れー」


 訓練場で僕を見守るサンドラに、早速相談してみた。

 なお、当然ながら僕は今、訓練の真っ最中であり、ちょうど彼女の剣の切っ先が間一髪(かわ)した僕の頬をかすめたところである。呑気に応援しているキャスが憎い。


「実は、私も同じく招待を受けておりまして、どうやら婚約した私達に会いたいようです。その……しょ、将来の弟妹に」

「ゲフッ!? ……あ、あー……そういうことですか……」


 なるほど。フレデリカにとっては、これから王宮で一緒に生活する身内になるわけだから、人となりを見たいってところかな。

 だけど、『無能の悪童王子』って呼ばれてる僕に会っても、何のメリットもないと思うけど。


「サ、サンドラ殿はどう……」

「ハル様。私のことは、ただ“サンドラ”とお呼びください。『殿』などという敬称は不要です」

「あ、あははー……すみません。それで、サンドラはどうしたらいいと思いますか?」

「もちろん、出席したほうがよろしいかと。私も、フレデリカ様がどのような御方か、直接お会いして確認したいですし」


 そういうことなら、答えは決まった。


「で、では、そのパーティー、婚約者としてサンドラをエスコートさせていただいてもよろしいですか?」

「はい……喜んで」


 強烈な一撃をお腹に食らって息絶え絶えの僕は、彼女の前で(ひざまず)いてお願いすると、サンドラは(とろ)けるような微笑みを見せてくれた。

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