黒幕を追い詰めてやりました。
「く……っ! 皆の者、怯むな! 我々はカペティエンの騎士なのだ! デハウバルズの雑魚どもに、負けるはずなどないッッッ!」
騎士団長が
だけど、さすがに多勢に無勢。ただでさえ狭い空間の上、常に二対一の状況を作られてしまい、カペティエンの騎士達は次々と倒されていく。
「サンドラ」
「はい」
僕は相棒の『漆黒盾キャスパリーグ』を手に、サンドラと一緒にジャンのもとへと向かう。
モニカには、声を張って鼓舞? しているリゼットの護衛をお願いして。
「うおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」
「邪魔です」
「へぶっ!?」
大声を上げて突っかかってきた騎士だったが、サンドラが無造作に振るった『バルムンク』によって宙を舞う。通常、モブの扱いってこんなものだよね。
念のためサンドラを見るけど……うん、聖女クリスティアの時みたいに瞳の色は赤くなっていないぞ。安心した。
一歩ずつ近づく僕達に、騎士達が一人、また一人とかかってくるけど、そのほとんどがサンドラの剣の餌食になるか、かろうじて攻撃できても、それらは全て僕とキャスが防ぐ。
というか、相棒と『称号』を得た僕は、それまでの紙装甲から、今では『エンハザ』最高クラスの防御力を誇っているんだ。モブ騎士の攻撃なんか、食らうものか。
そして。
「ジャン殿下……いや、ジャン=クリストフ=ド=カペティエン。もう貴様の王位
「ハ、ハハハ……まさか、『無能の悪童王子』ごときに、この俺の計画をぶち壊しにされるとはな」
両手で顔を押さえ、ジャンが乾いた笑みを浮かべる。
「それで……どうして俺が、クーデターを企てていることが分かった」
「いや、親善大使である僕の横で、サロモン陛下にあれだけぎらついた視線を向けていたら、丸わかりでしょ。むしろ、どうして気づかないと思ったのか、そっちのほうが不思議だよ」
本気で分からなかったらしいジャンの問いかけに、僕はあえて呆れた様子で答えた。
といっても、本当は
「それより、僕達もそろそろデハウバルズ王国に帰らないといけないんだから、いい加減諦めてくれないかなあ」
面倒くさそうに言ってみるものの、この男がそう簡単に大人しくするはずがない。
『エンハザ』でも、主人公によってクーデターを阻止された時、最後まで悪あがきしたからね……って。
「ジャン殿下ああああああああああああッッッ!」
ジャンを救いにやって来た騎士団長が、剣を振り回して突撃してきた。
見上げた忠義……ってことでいいのかな? とにかくあの男は、ジャンと最後を共にする気みたいだ。
「まだ……まだ負けてはおりません! 殿下さえおられれば、いずれこの国を導くことができます!」
「そうか……そうだな……」
オイオイ、簡単に乗せられないでよ。
ここで逃げ切れたところで、そんな未来はやって来ないんだから。
だけど、まあ……そうなるよね。
「ハル様。露払いは、この私が」
「サンドラ……気をつけてください」
ジャンを守るように立つ騎士団長に向け、サンドラは『バルムンク』の切っ先を向ける。
おそらく瞬殺だってことは分かっているんだけど、それでも、心配してしまうのはしょうがないよね。
「ハロルド殿下……いや、俺の覇道の邪魔をする目障りな男よ! その血をもって償うがいい!」
「はいはい」
大層に吠え、ジャンは細く長い剣を抜いた。
おそらく、『エンハザ』でイベントボスであるジャンを倒した時に入手できる、SR武器の『アラミスの剣』だろう……って!?
「そ、それは……っ!」
「ほう、知っているか。そうだ、この剣こそはあの伝説の剣……『陽光聖剣デュランダル』だ」
いやいやいやいや!? どうしてジャンが、UR武器を持っているんだよ!?
というか、本来は別のヒロインの専用武器なんだぞ!? 勝手に使うな!
「ハハハ……見たところ、貴様の盾もなかなか優れたもののようだが、さすがにこの剣の切れ味には敵うまい」
「…………………………」
いや、それに関しては心配してないんだけど、よりによってコイツがUR武器をなあ……。
一応、イベントボスのジャンは、『聖女誘拐事件』で戦ったロレンツォと同じレベルの強さなので、こう言っては何だが大したことはない。
遠距離攻撃を主体とした火属性スキルしかないので、対処も難しくないし。というか、『陽光聖剣デュランダル』は近接特化の武器だし、その固有スキルの【ファンファーレ】は、剣に聖なる光をまとわせて攻撃力を三倍に底上げするというもの。
なので、近接戦闘タイプのキャラでなければ、大して役には立たないんだけど。
まあいいや。楽に倒せるのなら、それに越したことはないからね。
「いいよ、かかってこい」
「ほう……余裕だな。だが、これでもそれを貫けるかッッッ!」
地面を蹴り、一気に詰め寄るジャン。
それに。
「っ!? なにっ!?」
剣撃をあっさり受け止めてやると、ジャンが驚愕の表情を浮かべた。
というか、ジャンの属性は火属性。一方で、『陽光聖剣デュランダル』は光属性なんだから、まともに扱えるはずがないじゃないか。
「くそっ! くそっ!」
それでも懲りずに何度も斬りつけてくるけど、通用するわけがない。
まさに宝の持ち腐れだよ……って。
「ハル様! 頑張ってください!」
既に虫の息の騎士団長を足蹴にし、サンドラが笑顔で応援してくれている。
やっぱり僕の最推しの婚約者、最強じゃない? 一応、相手は一国の騎士団長なんだけど。
「えーと……どうする? もう結果は見えてると思うんだけど」
ようやく剣を止め、息を切らすジャンに声をかけた。
もうこれ以上やっても、弱い者いじめにしかならないんだけど。
「っ! まだだ! まだ終わってはいない!」
「いや、終わったよ。騎士団長はサンドラに瞬殺され、他の騎士達の制圧も完了している。残るは、オマエだけだ」
今もなお諦めきれずに吠えるジャンに、僕は
僕達からすればとんでもない暴挙だけど、この男にとっては、王として世界に覇を唱えることが夢だったんだよなあ。
その夢が破れたことを、受け入れられないんだろう。
すると。
「……やはり、
「っ!? みんな! 今すぐここから離れろおおおおおおおおおおおッッッ!」
ジャンが懐から取り出したもの……液体に浮かぶ眼球の入った瓶を見て、思わず叫ぶ。
それと同時に、ジャンは……その眼球を吞み込んだ。
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