異世界八ヶ月。
久しぶりに方向音痴の能力が発動しました……。
まず事の次第はゴブリンのスタンピードが発生したことだった。
前に言った気がするが、この世界に魔物はいるが結構少ない。
しかし稀に大量発生することがある。
大量発生の理由は様々だが大抵の場合スタンピードと呼ばれる食糧難やらで近場の村や町に次々と侵略を行おうとする。
それが僕の住んでる町の近くで起きてしまった。
なので対処しようと町に住むハンターや兵士が総動員された訳だが、そこで最近箒で空を飛べることが知られていた僕に上空からスタンピードの規模やスタンピードの周囲への被害の確認の依頼が出た。
勿論断る気も無かったので受けて、しばらくはずっと上空からの監視をしていた。
飛び回って監視をして、一定時間毎に町の砦に降りて定期報告をして休憩する。
休憩を終えたらまた飛んで監視に戻る。
スタンピードへの攻撃は十分な人数がいたので問題無かった。
スタンピードの群れから逃げそうなのが入れば上空から魔術で狙い撃ち、裏をかこうとする群れが入れば砦に伝えて対処してもらう。
そんな感じで一週間活動していた。
因みに箒の攻撃手段はブラシ部分の中心に三本杖を仕込む事で両手を使って箒に乗りながら魔術には使えるようになった。
一週間経つ頃にはこっちは特に問題は無く、ゴブリンの群れは壊滅と言っていい状態になっていた。
運良くゴブリンキングなどといった上位個体がいなかったこともあり、人的被害も重傷者が数人出た程度で死者はいなかった。
それにホッとしながらも上空で監視を行っていた時だった。
遠くから何かの視線を感じたと思った瞬間、僕は箒ごと空を百メートルは吹き飛ばされていた。
何があったかと言えばワイバーンの突撃を受けたのだ。
しかし本来は落下時に使う風魔術の魔道具を反射的に使ったおかげで怪我はしなかったものの、魔術の範囲内に含まれなかった箒は大破したため僕は落下していた。
そこを再度ワイバーンが突っ込んで来たので今度は自分で風魔術を全力で、魔道具よりより大きく「発生」させて受ける。
そして壊れた箒を念の為回収して、予備の箒を出して風魔術を維持したまま全力で逃げた。
だが車程度の速度では電車並(恐らく)のワイバーンから逃げ切ることが出来ず、何度か魔術を当てて「覚醒」なら何とか通用する事を確認した僕は一か八かの案に出た。
先ずは速度に緩急と上下左右の動きを入れて何とか距離を作る。
ワイバーンは直線ではかなりの速度を出せるが小回りは比較的苦手なようなので距離を作るのは何とかなった。
とは言え比較的であり、姿を隠せるほどの余裕は無かった。
距離をとったらワイバーンと正面から向き合う。
後は正面の火属性魔術を広範囲に「発生」させて目隠しを作りつつ全力で下に落ちる。
直後箒の先にギリギリ掠る速度で突っ込んで来たワイバーンは僕のいた場所にある、僕の瞳サイズまで「覚醒」の風魔術で圧縮した最大規模で「強化」した水魔術に頭からぶち当たり通り過ぎた。
掠った衝撃で風魔術と箒での飛行が乱れ落下していた僕は失敗したかと一瞬思ったが、よく見るとワイバーンの頭には穴が空いていてそのまま高速で飛びながら落ちていった。
それを確認した僕はすぐに予備の魔道具を出して着地したものの途方に暮れていた。
何せ魔力がすっからかんになってしまったのだから。
方向音痴回避の靴底も箒も魔力が無ければ使えず、この世界にはMPポーションのような便利な飲み物は無い。
なので魔力が回復するまで大人しくする必要がある。
なのに不幸なことにゴブリン達のスタンピードで食料を奪われた狼の群れが、近くにいるのを落ちる途中で見かけていた。
であるならば最後の手段に出るしか無かった。
という訳で狼が来る前に全力疾走して方向音痴を使わざるを得なかったのだ。
そう、例えその結果犯罪者として捕まったとしても!