90、黄金の午後
最終回です!
お父様との戦いから6ヶ月がすぎた。
あの後、私の目指す理想のために色々と変革を始めた。
まずはヘンリーさんの協力もあって、世界中のギルドを中心に映像を映すことのできる鏡の魔道具を配った。
その他には、混血の人達が安心して暮らせる場所を作るために、魔王領を混血の人達も住める場所として開放したり、魔王城を増築してお母様とお父様が一緒に暮らせるようにしたり、七魔将を解体して私の側近に新生勇者パーティーのメンバーを任命した。
今日は、魔王領の大規模な改築が終わり、そのお披露目と私が勇者と魔王の娘であることを鏡の魔道具を通して世界に向けて演説する日だ。
魔王城、アリスの部屋にて。
私は真新しい水色を基調としたドレスに身を包み、自分の部屋で演説の時間になるまで椅子に座りながら待機していた。
「アリス、はいりますよ」
「ええ、どうぞー」
演説の5分前になると、部屋の扉がノックされ外から声をかけられた。
その声はイーディスだった。
私は明るく返事をしてイーディスを部屋に招き入れる。
「アリス、演説の5分前です。準備はいいですか?」
「ありがとうイーディス。今行くわ!」
イーディスにそう返事をして部屋を出ていき、演説の会場となる魔王城のバルコニーへ向かう。
バルコニーは昔お父様が魔王軍に演説するために使われた場所だ。
「予言通りになりましたね。魚人族の女王は今日という日を見据えていたのですね」
バルコニーへ向かう途中、イーディスが話しかけてきた。
予言というのは、魚人族の王国をマグスの手から救った時に女王様から言い渡されたものだ。
「そうね。自分でも驚いているわ。まさか、あの時の予言が本当に現実になるなんて」
「妖精の森に行ったときにローダさんの両親の予言も見事に当たっていましたからね」
「フフフッ私ね、あの時自分が演説をするようになるなんて思ってなくて、楽しみでもあり、不安でもあったの」
「今はどうですか?」
「ワクワクしてるわ!すっごく楽しみよ!」
「それは良かったです!」
イーディスとそんなやり取りをしながらバルコニーへと着いた。
時間は昼下がりで、太陽が燦燦と私たちを照らしていて、まるで今日という日を祝福しているように感じた。
バルコニーの扉は閉まっているけれど、外の広場には大勢の混血の人達が集まっていて歓声を上げている。
「あーアリスお姉ちゃんやっと来たー!」
「ローダしっかりしなさい!私たちも前に立つのですから恥ずかしくないように!」
「はーい!」
バルコニーへ着くとローダちゃんやロリーナを始めとして、幹部のメンバーが全員揃っていた。
ローダちゃんは元気よく右手を振りながら私を出迎えてくれた。
「アリスさん、そのドレスとてもお似合いです!」
次にセレナさんが笑顔で声をかけてくれた。
セレナさんは水色のドレスを着て首に真珠のネックレスを付けている。
「ありがとう。セレナさんのドレスも真珠のネックレスも素敵よ!よく似合ってるわ!」
「ありがとうございます!」
私とセレナさんはお互いに笑い合う。
「お楽しみのところ恐縮ですが、時間ですよアリス」
「あぁ、そう?ありがとうイーディス」
演説の時間が来たところでイーディスが知らせてくれた。
バルコニーの扉を開けて広場を見渡す。
そこには角や植物が生えた様々な容姿をした人達が大勢集まっていた。
私が顔を出すと、歓声が先程よりも大きくなり、拍手や口笛などをして出迎えてくれる人達の姿もあった。
ここに集まっている人達は皆笑顔だ。
皆笑顔だ!嬉しいな!………
私はこれからこの人達を守っていくんだ………
今日は平和のための第一歩だ!
よし、行こう!
大勢の人の笑顔を見て勇気づけられた。
私は声量を大きくする魔法を使って話し始める。
「混血の皆さん今日は新しい魔王領のお披露目の場に来てくれてありがとう!そして、この様子を鏡の魔道具を使って見てくれている人達もありがとう!私はアリス・ハイト・ルーク。勇者アリシア・ハイトと魔王デスト・ルークの娘です。私は見ての通り人間と魔族の混血です!私は今日、この魔王領を支配の場所から平和の場所へと生まれ変わらせます。今日からこの場所は混血の人達が暮らす場所になります。人間も、魔族も、魚人族も、妖精族も、鬼族も、小人族も、他の全ての種族の人達も皆が暮らせる場所です!差別はありません!そのような様子が見受けられた時は私の名のもとに厳重に取り締まります!」
ここまで言ったところで大歓声が巻き起こり、混血の人達が大喜びしていた。
その様子を見て続ける。
「私は混血という言葉の意味を「差別の証」から「平和の証」へとかえることを目指しています!今多くの混血は魔王軍と戦って敗北して生まれた存在のような印象がありますが、私は混血の人たちこそ平和の象徴だと思っています!私の両親は勇者と魔王という敵同士でしたがお互い愛し合っていて、私も両親から愛されて育ちました。人間と魔族という敵対していた種族の間に生まれたのが私です!私は平和の象徴として在り続けます!容姿を気にしている人もいると思います。動物の耳が生えていようと植物が生えていようと、それは欠点ではなく、あなたにしかない素晴らしい個性なんです!あなたは両親の愛の形なんです!世界に一人しかいない宝物なんです!すべてのものは自分の捉え方次第です!自由でいいんです!価値観は一つじゃないです!皆さん自信を持って生きてください!」
「ワーーーッ!」
私が演説を終えると、歓声と共に大きな拍手が巻き起こった。
その光景は、昼下がりの太陽の光に照らされて黄金のように輝いて見えた。
この日の事を私は一生忘れない。
今日という日にもし名前を付けるとしたらどんなのがいいかしらね………
昼下がりの午後………
黄金のような太陽の光………
あっそうだ!
タイトルは「黄金の午後」にしよう!
私はこの日、混血の王として、平和の象徴として、新たな時代が幕を開けたのだった。
ご覧いただきありがとうございました!
「勇者と魔王のサラブレッド〜魔王城を追放されたので、夢だった冒険者になります〜 」はこれにて完結となります。
この物語にお付き合い頂きありがとうございました!
書いてみての感想は活動報告に載せます。
よろしければ見てください!
勝羅 勝斗