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89、勇者アリス・ハイト・ルーク VS 魔王デスト・ルーク

アリス視点になります!

魔王城、玉座の間にて。


「ペレーサの魔力が消えた。これで七魔将の全員が敗れたな」

「そうね。後はあなただけねお父様。いや、魔王」

「アリスよ。何をしに来たのだ?お前はこの魔王城を追放したのだぞ」

「ええ、そうね。だから今は娘ではなく、魔王を倒す新たな勇者としてここに来たの」

「何だと!」


魔王であるお父様が玉座に座り、私が立ちながら会話をしている。

私がお父様を倒しに来たと伝えると、お父様は顔が険しくなり、重たい空気が流れ始める。

不機嫌そうな表情を浮かべるお父様に対して、私は作り笑いで返す。


「こらアリス!それじゃあの日と同じようにまた喧嘩になるでしょ!あなたもすぐ怒らないの!ほんとに二人とも素直じゃないんだから!」


その重い空気を壊したのが私と一緒に魔王城に来ていたお母様だった。

お母様は私の頭を軽く叩いて話の流れを遮り、同時にお父様にも一喝した。


「いったー!ちょっとお母様邪魔しないでよ!今いいところなんだから!」


「まったく、念のために付いてきて正解だったわ!アリス、今日は喧嘩しに来たんじゃないでしょ?お父さんに聞きたいことがあって来たんじゃないの?」


「そうだけど、お父様を倒しに来たのも嘘じゃないっていうか………」


「そうなの?私は初耳だけど、他にも理由があるのね?わかったわ。それは私にも聞かせて」

「うん」


そこから、誕生日の日にお父様が私に魔王の座を継がせたかったのかと、魔王城から出すつもりが無かったのかの二つの質問をした。

その答えはすぐに返って来た。


「その二つの質問の答えは一つだ。お前を守るためだよアリス」


「………そっか、ありがと。私ね、この数ヶ月間の冒険を通して実はそうなんじゃないかと半信半疑だったから、お父様の口からその言葉を直接聞けて安心したわ。でも、正直に言えばその言葉をあの日に聞きたかったわ。今までずっと私はお父様にわかって貰えてないと思ってたから………」


「そんなふうに思っていたのか。すまなかったな。実はあの日、我の中ではお前が魔王の座を拒否するとは思っていなくてな。世界情勢などの事はお前が魔王の座を継いでから話そうと思っていたのだ」


「そんなの先に言ってくれなきゃわかんないよ………」

「そうだな。実はお前が魔王城を飛び出して行った後、アリシアに同じことを言われたよ」

「だろうね~お父様全然人の話聞かないもん!」

「ガハハハハッ」

「フフフフフッ」

「アハハハハッ」


気づけば私たちは3人で笑いあっていた。

話を切り出す前は緊張していたけれど、実際に話してみるとそんなことは無かった。

何より、自分がセレナさんや、ローダちゃんとロリーナ姉妹のように両親から守られていて、愛されているんだと思えたからだと思う。

今笑えているのはそのおかげだ。


「それで、我を倒しに来た理由を聞こうかアリス」


笑いが収まると話を切り出したのはお父様だった。


今なら遠慮なく何でも言えそうな気がするわね………


「私は混血の王になろうと思ってるの。冒険を通して様々な混血の人達を見てきて、その人達が安心して平和に暮らせる場所を作って、いずれは差別を無くしたいの!だからそのために元凶である魔王を倒してその一歩を踏み出したいの」


お父様に目線を合わせて力強く言えたと思う。


「魔王ではなく、混血の王か………なぜ、アリスなんだ?混血の者なら誰でもいいのではないか?」

「いいえ、この役目は勇者と魔王の娘である私にしかできない事なの。他種族をまとめる時にこれ以上優秀な出自の人はいないでしょ?」


「確かにな」

「お父様を倒したら私の出自を全世界に発表するわ!」

「そこまで考えているのか………分かった」


お父様はそう言って玉座からゆっくりと立ち上がり、側に置いてあった真っ黒い刀身の破壊の魔剣カタストロフィを手に取った。


「ならばアリスよ。我に一撃でも当てられたらお前の勝ちとし、この玉座を譲ると約束しよう。かかってくるがいい!」


「ありがとうお父様!もちろん自分の居場所は自分で作るわ!皆の平和のためにね」

「こい、勇者アリスよ!」

「ええ!」


ここで私も聖剣ミステリオと鏡の魔剣スぺクルムを召喚して構える。


「行くわよ!鏡よ鏡、分身して全ての魔剣で総攻撃しなさい!」

「任せてアリスちゃん!」


私が指示を出すと鏡の魔剣は陽気な返事をして、すぐに十数本に分身してからそれぞれ異なる魔剣に変化して一斉に斬撃を放つ。

色とりどりの斬撃が飛び交って花火のように部屋が明るくなる。


「複数の魔剣による総攻撃だと!鏡の魔剣にこんな能力があったとは………面白い!」


お父様はそう言って、破壊の魔剣カタストロフィを縦方向と横方向にそれぞれ一回ずつ振り抜いて、十字の斬撃を放って応戦してきた。

破壊の魔剣カタストロフィの斬撃はあらゆるものを破壊する能力を持っているため、基本的にどんな魔剣や魔法を使っても防ぐことや無力化することはできず、唯一対抗出来たのがお母様の持つ聖剣だった。

私の複数の魔剣の斬撃と破壊の魔剣の十字の斬撃が衝突して、玉座の間に大爆発が起こり、その影響で視界が煙で塞がれる。

その隙に転移魔法を使って一気にお父様の懐に詰め寄る。


今のはただの目くらましに過ぎないわ………

本番はここからよ!


そう思いながら、今度は超近距離で鏡の魔剣スぺクルムでお父様に斬りかかる。


「甘いぞアリス!」


お父様は私の速度にすぐに対応して、破壊の魔剣の斬撃を放ってきた。

とっさに、聖剣ミステリオで斬撃を放って、破壊の魔剣の斬撃を消滅させる。


「ぐあっ!」


破壊の魔剣の斬撃が消滅すると同時に、お父様が体勢を崩した。

お父様の背中には幻影の魔剣が刺さっていた。


「なんだ………剣だと!いつの間に?」

「隙ありよお父様!やぁっ!」

「くっ………」


私はお父様が体勢を崩した一瞬の隙に、聖剣ミステリをで切り伏せた。


「我の負けだな。しかしアリスよ、さっき我の背中に刺さった剣はなんだ?まったく気配を感じなかったぞ」


「あれは幻影の魔剣と言って、魔剣自体が存在を消せる能力があるの。最初に魔剣同士の斬撃が衝突してこの部屋が煙でいっぱいになった時にお父様の背後の仕掛けておいたの。あの魔剣は感知系のスキルでも見つけることができないから奇襲には最適なのよ」


「そういうことか。なるほどな。世界には不思議な能力を持つ魔剣がまだまだあるのだな」

「そうでしょ!」


「アリス、これからお前が実現しようとしていることは一朝一夕でできるものではない。だが、アリスなら必ずできると信じているぞ!楽しみにしている」


「それに関しては私も応援してるからね」

「お父様、お母様ありがとう!見てて!」

「ああ」

「ええ」


こうして、私はお父様と和解して戦いに勝利し、改めて混血の王になることを意識したのだった。

ご覧いただきありがとうございます!

次回で最終回です!

次回更新は3月10日です!

それまでまたしばらくお待ちください。

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