作戦強制決行
一話抜かして投稿していました!すみません!
出来れば前話に戻って、それからもう一度こっちを読み返していただけると幸いです……
影に情報を吐かせた後、俺達は何をするでもなくただただベッドに座っていた。
「なぁ、モータル」
「なに?」
「正直俺らがやれる事ってもう無くないか」
下手したらもう帰っていいんじゃない?ってレベルなんだが。
「影が裏切るかもよ」
「そうなったらもうおしまいだな」
その負け筋は無いと仮定して勝ち筋掴みにいったんだ。
もしもの時の覚悟は……出来てる。
「まぁヤバくなったら逃げよう」
「……ああ、モータルはそうすればいい」
俺はそう言うとベッドに横たわった。
「じゃあそうするけど、タカはいいの?」
「俺はいい」
「うーん。まあいいか」
隣で同じようにベッドに横たわったモータルを眺めた後、俺は目蓋を閉じた。
『おそらくこのまま行けば君達の作戦はつつがなく成功する』
『でもそれじゃ君が輝かないじゃないか』
『影が存在できない』
『その為なら死んでも構わない』
不快な夢だ。
うっすらとした意識の中、身を起こすべくベッドの手すりを探す。
だがその手すりを探す手が掴んだものは。
「……土?」
室内としては異質なその感触に、意識が急速に覚醒していく。
「おい、モータル!起きろ!」
満天の星の下、俺は隣に横たわるモータルを揺すり起こした。
「ん、あ……何ここ」
「知るか!」
周囲を見渡しても、ひたすらに赤茶の不毛な大地が広がるばかりで、その他の何も見受けられない。
「掲示板魔法……」
慌てていつもの魔法陣を地面に描く。
魔力を流した途端にふわりと輝いた模様に安心をおぼえつつ、操作を続けようと指を伸ばし――
「通信系の魔法か。それもかなり高位」
聞き覚えのある声。
俺は慌ててその場から飛びのいた。
「そう怖がらずとも良い――それとも何か?このレオノラに対して後ろめたいことでもあるのか?ん?」
眼前に立っていたのはあのイカれ聖女だった。
「……状況が状況だからな。少し過敏に反応した。気分を害したなら謝ろう」
「いや、構わんとも。むしろ抜刀しなかっただけ上出来と言える」
風に乗って届いた聖女の体臭に思わず顔をしかめる。
「……」
「どうした?」
死臭だ。
腐った死体のような臭いが、この女からする。
「この状況について心当たりは?」
「さぁて、な。まあどうせアイツのせいだろう……分かるだろ?影だ」
だろうな。
問題は、アイツが何を意図してこんな状況を作り出したか、だ。
「ふん。そんな事だろうとは思っていたがな。そもそもがヤツは“奉仕種族”だ。ギフトで膨大な魔力を得たとて、性根は変わらん」
「……これからどうする?」
「さて、どうするか――裏切り者の処分でもやるか」
「影か。でもどうする?そもそもここが何処かすら分からな 「お前達だよ」 ……何だと?」
レオノラがすっとモータルを指差す。
「モータルと言ったか。私の子に見覚えがあるはずだ」
ずるり。
そんな音と共にレオノラの鎧から這い出た白い人……の形をした化け物。
顔にはぽっかりと三つの穴が空いており、その白い人型はその空ろな顔でこちらをぼんやりと眺めていた。
「私が丹精を込めて産んだ。この救世の兵は本来は人間に寄生……いや、益を与えているのだから共生と言うべきか……そう、人間と共生させているのだがな」
ずるり、ずるり。
同じような白い人型が次々にレオノラから這い出てくる。
「私単体で君達二人と戦えば、僅かだが負ける可能性があると判断した。喜ぶがいい。君達二人は優秀だ。既にある程度、採取はさせてもらっているが――その魂、材料として迎え入れよう」
色々と言いたい事はあるがここは――
「モータル!あの白いのやばいか!?」
「うん。勝てないと思うよ」
「了解!逃げるぞ!」
逃げないんじゃなかったの、って?
馬鹿野郎、それとこれとは話が別だろ!
「モータル!着てるシャツ脱いで掲示板の魔法陣描け!走りながら救援要請しろ!」
「分かった!」
「逃がすか」
チラリと後方を見ればうじゃうじゃと群がってくる白い人型――救世の兵。
「モータルぅうううう!すっげぇきめぇぞ!なんだあいつら!」
「分かんないよそんなの!」
輝く星々の下、地獄の鬼ごっこが始まった。
Mortal:たすけて
砂漠の女王:モータルさん、状況は
Mortal:にげてる
砂漠の女王:分かりました。こちらは侵入者が三人。なんとか捌いていますが劣勢です
Mortal:しぬ
砂漠の女王:カーリアとアルザの助太刀で少しですが余裕が。他の十傑メンバーをそちらに送りたいのですが
Mortal:まわりなにもなし
Mortal:つちあかちゃいろ
Mortal:しろいやついっぱい
砂漠の女王:少々お待ちを
砂漠の女王:繋ぎます
砂漠の女王:ご武運を
「タカぁああああ!!!」
雄たけびが荒野にこだまする。
見れば、お代官さんを除いた十傑のメンバーがそこには居た。
出来れば俺とモータルを領域に入れて欲しかったんだが……どこかに送るより招く方が手間がかかるっつー事か?
「タカぁああああ!」
「おいなんだあの後ろのきめぇ魔物」
「さあ?」
ガッテンが叫びながらこちらに駆け寄る中、ほっぴーとスペルマンがそうやって呑気に会話を交わす。
「本体はそこまで強くない!ただ取り巻きがめっちゃ湧く上に割と強いらしい!以上!」
俺は口早に敵の詳細を告げるとレオノラの方向へと向き直った。
「ほっぴー!指示!」
「手始めに紅羽!レッサードラブレぶっぱ!」
「了解!レッサードラゴンブレス!」
前に躍り出た紅羽が暴力的なほどの火炎を撒き散らす。
当然のごとく俺は余波で吹き飛んだ。
「俺が撤退するまで待てやゴルァ!」
「うっせぇ!避けられたんだから良いだろ!」
その火炎でできた煙の先には……変わらずの救世の兵の群れ。
「はい無能乙」
「ああ!?違うって!おいほっぴー、あいつら……」
それを眺めていたほっぴーがはあ、と溜め息をつく。
「前衛職の脳筋共ォ!出番だ!やっちまえ!……紅羽は単体処理がやれねぇか試せ!」
「分かった」「了解」「あいよ!」
ガッテンと七色の悪魔が前線へと突っ込む。
それに乗じ俺とモータルも前線へ突っ込んだ。
「スペルマン!」
「ほい。プロテクト!アクセラレーション!」
スペルマンの持つ杖が輝き、俺達を照らす。
「おい!ジーク!」
「はいよ」
ジークがバッグを漁り何かを探し始める。
「そっからかよ!?」
「うるせぇ。すぐ準備すっから見てろ」
「なぁこの白い奴ら個体によって動きちげぇぞ!!!!!」
俺が群れからはみ出てきた少し速めの個体を両断しつつ後方へ向け叫ぶ。
「鳩貴族さん!」
「はいはい。防御魔法使うっぽい個体に妨害投げておきますよ」
時折味方陣営から飛んでくる火の玉を避けつつ、うまく釣り出した個体を撃破していく四人。
「ガッテン!お前もうちょいヘイト稼げや!俺の方に来てるぞ!」
「タカがやりすぎなんだよ!下がれ!」
「チッ、了解!」
瞬間、タカが退いた戦線の穴めがけ爆弾が投げ込まれた。
タカを追うべく身を乗り出してきていた救世の兵が一撃死とは言わずとも、それなりの傷を負った。
「ナイス、ジーク!」
「はははは!爆殺最高!」
「でも余波でヤバいんで回復頼む」
「えぇ……」
口から血をたらしていたタカを回復の光が包む。
鳩貴族のハイ・ヒールだ。
傷が癒えたタカが中指を立て、レオノラがいるであろう方向に吼える。
「おいおい!意外と何とかなっちまいそうだぞ!どうした特級のイカれ女!」
「紙装甲がヘイト稼いでんじゃねぇ!」
ガッテンの叫びの直後に、レオノラの声が届く。
「……は、いいだろう!先ほど採取したばかりの魂を使った特注の子を見せてやる!」
「なんかヤバいのくるらしいわ!ごめんな!」
「「「「「ふざけんな!!!!!」」」」」
戦場は、ある意味日常的風景――混沌そのものといった状態だった。