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怪物の押し付け合い


「ボクが知りうる限り、魔王討伐のメンバーは六人」


 そう言って影がかかげた手の指を一つずつたたんでいく。


「一人目、環境操作のギフトを持った男。ボクが思うに、コイツは領域に引きずりこんでしまえば……魔王軍幹部程度までは弱体化するんじゃないかな?」


 俺は無言で掲示板魔法を起動し、得た情報を書き込んだ。


「二人目は」


「二人目は破砕の魔術師。彼女にかかれば魔王城の門は一瞬で瓦解するだろうね」


 なんでそいつ前線にぶっこまねぇんだ。


「欠点として、味方もその砦も見境無く壊れる。まぁ魔王城に送り込む分には関係ないだろうという判断だろうね。ただ壊すだけだし、魔王を倒すという観点で見ればあまり役には立ちそうにない」


 ならソイツは魔王の方に処理してもらうか。


「三人目は高名な老魔導師だ。自らに禁呪を施している疑惑がある。というか使ってるけど、その用途が国への貢献だから黙認されてるって感じかな」


 なんかロクでもねぇやつしかいない気がしてきた。


「四人目は」


「勇者と呼ばれている男だね。膨大な魔力を宿した呪剣……おっと、聖剣を扱う男だね」


 俺はその聖剣とやらから漂う地雷臭に顔をしかめつつ、続きを促した。


「……五人目は」


「五人目は……ごめん、実はここから情報があやふやになるんだ。ヘビのような男、だとか何とか言われてるけど、どういう戦法をとるのかは分からない。というか彼の戦う姿を見た者は殺されるそうだ」


 そいつ大丈夫なの?

 魔王倒した後に仲間に斬りかかったりするんじゃない?


「敵の心配かい?」


「心配じゃなくてツッコミなんだよなぁ……」


「タカー、なんか全部相手にしたくないってほっぴーが」


「うるせぇ、クソの中でも比較的マシなクソを選ぶのはゲーマーの必須スキルだ。甘えてんじゃねぇ」


 しっかし五人目以降があやふやか……半数以上の詳細が分かっただけマシ、なのか?


「一応、六人目も」


「ごめんね、六人目に関してはさっぱり。当日には会えるんだろうけど」


 クソ、どうするか……


 勇者と魔王は何となくだがカチ合わせたら不味いような……ああいや、これはリアルだ。そんな良く分からん偏見を持ち出すべきではない。

 純粋に戦力分析を……


「うん、その辺は俺の領分じゃねぇわ。ほっぴーに丸投げ安定」



タカ:ほっぴーくぅううううん、選んだぁ?


ほっぴー:とりあえず環境操作はこっちで殺す


タカ:まぁ、そうだな


タカ:カーリアちゃんとその眷属に殺してもらおうぜ


ほっぴー:そうだな


ほっぴー:まぁそこは追々詰めるとして


ほっぴー:3対3で分けるとしてあと二人


ほっぴー:ぶっちゃけ勇者はそっちで殺って欲しいんだけど、どう?


魔王:勇者と銘打っているからにはソイツは彼らにとって魔王への切り札という認識のはずだ。とあれば、その戦闘能力も対魔王のはず。出来ればそちらで処理して欲しいものだが


ほっぴー:なーんか、国民駆り立てるための偶像っぽさがなぁ。呪剣なんだろ?




「おい、影。聖剣について情報」


 俺に言われた影の口元が釣りあがる。


「さあ?でもあんなモノを作るのにいったいどんなモノを犠牲にしたのかは気になる所かな」


 はいはい、なるほど?




タカ:生贄捧げて作った系っぽい


ほっぴー:はい絶対俺の説当たってるー。強いは強いけど別に対魔王って訳ではないやつー。


魔王:うぅむ


タカ:なぁ、ちょっと待ってくれ


ほっぴー:ん?


タカ:なんで魔王いんの


魔王:厳密には私は魔王の伝令役です。貴方ごときが、この通信魔法越しとはいえ魔王様と話せるとお思いですか?ハッ。恥を知りなさい


タカ:隙あらば自分語りやめろ


砂漠の女王:魔王の伝令役、という名前でよろしいですか?と問うたら、いや「魔王」にしてくれ。その方が嬉しい、と


魔王:おい


魔王:バラすな


タカ:魔王のファン的にはどうなの?ワンチャン四人くらいそっちに送りつけてもいい?


魔王:ファンじゃない伝令役だ


魔王:いや待て。ファンでもある


タカ:あの、こっちも遊びでやってるわけじゃないんで


タカ:ふざけるようなら別の人と交代してもらっていいですか


魔王:砂漠の女王、名称を伝令役に


砂漠の女王:はあ。いいですけど


魔王の伝令役:すいませんでした


ほっぴー:草


ジーク:ちゃんと名前を伝令役にしてから謝るファンの鑑


ほっぴー:おい、一旦俺と女王と伝令以外黙っとけつったろ


ほっぴー:あ、あとタカとモータル


ジーク:ゆるして


Mortal:黙らせたの英断だと思うよ


ほっぴー:だよな?


タカ:隙あらば脱線してんじゃねぇよ




「タカ、決まったかい?」


 唐突に声をかけられ慌てて掲示板の魔法陣から顔をあげる。


「……とりあえず環境操作のやつは領域で殺す」


「だろうね」




ほっぴー:よし、視点を変えよう


ほっぴー:勇者、ヘビのような男、正体不明の六人目。嫌なのはどーれだ


砂漠の女王:ヘビのような男、少し心当たりがあるかもしれませんわ


ほっぴー:お。なら領域で殺るか?


砂漠の女王:わたくしの推測が当たっているなら、特に問題なく殺せますわ


砂漠の女王:少し、ハニートラップを仕掛ければ


ほっぴー:分かった。そのハニトラの概要は後で聞く。おい、伝令役はどうだ


魔王の伝令役:では勇者をこちらで殺しましょうか


ほっぴー:けっ、両方、六人目だけは勘弁ってか


ほっぴー:どうするよ


タカ:ハニトラ仕掛けるんだろ?


タカ:ちょっくら一芝居うっちまえよ


タカ:その隙に女王が解析すれば


ほっぴー:なるほど


砂漠の女王:いえ、ヘビ男を引っ掛けるにはわたくしがやる必要があるので


砂漠の女王:流石に同時並行で解析は……


ほっぴー:んー


ほっぴー:じゃあ魔王、よろしく


魔王の伝令役:嫌ですが


ほっぴー:こっちはもう手一杯なんだっての!


魔王の伝令役:勇者を引き受けただけ感謝してください


ほっぴー:あぁあ!?こっちの見立てじゃ勇者は大した事ねぇんだよ!


魔王の伝令役:は、あの程度の情報から立てた憶測……当てになるとでも?



 荒れ始めた掲示板。

 はあ、と溜め息をつきつつ影に問う。


「勇者は強いか?」


「そりゃあ特級だから。化け物だよ」


「他のヤツと比べて、どうだ?」


「君はパッと見ただけで五千兆個と五千百兆個のコインの山を見分けられるかい?ああ、どちらも多いなぁ、と思うのが関の山だろう?」


 お前も特級なの忘れてない?


「正直、相性の問題だと思うね。思うに、勇者と老魔導師は合されば良い感じに足を引っ張り合いそうだけどねぇ……」


 ……そういう情報ははやく言え。


「聞かれれば言うさ」




タカ:老魔導師と勇者は相性が悪いらしい。もし殺すならこの二人はセットの方がお得だ


ほっぴー:クーポンみたいな言い方やめろ


魔王の伝令役:ならこちらで引き受けよう


ほっぴー:じゃあ残りは六人目のやつで


魔王の伝令役:嫌だ


ほっぴー:いやだいやだで世の中渡ってけると思うなよタコがゴルァ!


タカ:キレんなよ


タカ:おい、ぶっちゃけ俺はまだお前らの事信用してないんだわ


タカ:今の状況だって、まだ前科一個の侵略者と、前科大量の侵略者のどっちがいい?なんていうクソみてぇな二択選ばされた結果だ


タカ:俺らに裏切られたり、潰れられたりしたら困るんだろうが


魔王の伝令役:それはそうだが


タカ:ならちっとはこっちの要求のめや


タカ:正直大して変わりゃしねぇだろうが


魔王の伝令役:そうだな


魔王の伝令役:承知した。勇者、老魔導師、及び六人目はこちらが引き受ける


タカ:よし





「おい影」


「決まったかい?」


「ああ、領域で相手すんのは環境操作の男、破砕の魔術師、ヘビ男だ……さて、一段落したところで、だ」


 俺は影の方へぐいと寄り、その胸倉をつかんだ。


「色々と質問、させて貰うからな。聞けば言うんだろ?」


「……あ、はは。お手柔らかに」


 手心なんか加えるわけねぇだろ、こちとら世界の存続がかかってんだ。




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