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飼い犬に手を噛まれる

「はーっはっはっは!大したヤツだ!」


「どうも」


 あの唐突に始まった新人いびりの後、廊下の一角でレオノラと二人、あぐらをかいていた。


「気に入った!今晩お前を抱こう!」


「勘弁してください」


 お前みたいな怪力女に抱かれたら壊れる。


「おい、どうしたのだ。先ほどのように口汚く罵ったりはしないのか?」


「倒れるまで個性で殴ってくるんじゃねえ」


 クソ、気に入られたはいいがイカれすぎて手に負えねぇ。


「俺ちょっと用事あるんで部屋戻りますよ」


「そうか!じゃあ夜になったら私の部屋に来い!」


「行かねぇつってんだろ。喉笛かき切るぞ」


「ははははは!」


 もうやだこの砦……








タカ:指揮官が狂気に染まり切っててやばい


ジーク:お似合いじゃん


タカ:ふざけんな


タカ:影が言ってたぞ、俺は狂気を飼いならせてるってな


ジーク:飼い犬に手首から上噛み千切られてそう


ほっぴー:だからあんだけ手の平クルクルしても千切れないのか


ガッテン:自分から手の平を千切っていくのか……


タカ:うちの狂気はしっかりしつけされてるんで


タカ:君らの野生化した狂気とは違うんで


ほっぴー:血統書付きの由緒正しい狂気だもんな


スペルマン:なにそれやばそう


ジーク:タカ一族の呪い


タカ:おい


七色の悪魔:私より悪魔らしい行いするのやめてください


ジーク:草


ほっぴー:草


ガッテン:草


スペルマン:悪魔さんかわいそう


タカ:いやそもそも悪魔さん悪魔っぽい行いやったこと無いし……


ジーク:あっ、それは……


七色の悪魔:貴様は禁忌に踏み入った


スペルマン:禁忌キッズ


ジーク:ほらやっぱり


七色の悪魔:タカさんの部屋にゴキブリばらまきます


タカ:おい待てふざけんな


ほっぴー:悪魔的……っ


紅羽:マジかよ金輪際ぜってぇに近寄らないわ、タカ


タカ:俺自体は別に汚くはならんだろ!?


タカ:ちょっと待って悪魔さん考え直して


七色の悪魔:砂漠の女王さんに言ってきます


ほっぴー:というか今掲示板見てるんじゃね


ほっぴー:どうなの?


砂漠の女王:まあいつでも駆除できますし、仕入れてもいいですわよ


七色の悪魔:ありがとうございます


タカ:おい


ガッテン:かわいそう


タカ:憐れむんじゃねぇ殺すぞ


鳩貴族:やっぱりしつけ出来てませんねこれは……


ガッテン:隙あらば噛みつくとか手に負えねぇな……


お代官:こらこら悪魔君、大人げないぞ


七色の悪魔:あぁ?


お代官:あっれぇそんな態度取るタイプだっけな君ぃ!?


ガッテン:やっぱ十傑で常識人は俺とお代官さんだけなのか……


タカ:あと俺な


ほっぴー:常識人を名乗るならまずは横に連れてる狂気を山に返してこいよ


七色の悪魔:タカさんはいつこちらに帰ってくるんですか?


タカ:ん


タカ:あと一週間もすりゃいけるんじゃね


七色の悪魔:じゃあサプライズ用意して待ってるので


タカ:誰かーーー!!!!!誰か悪魔さん止めてーーーー!!!!!


スペルマン:止まるんじゃねぇぞ……











「さ、流石に誰かしら止めてくれるだろ……」


「どうかしたかい?タカ」


 急に現れるのやめろ。

 ちょっとビクってなっただろ。


 俺の前で薄い笑みを浮かべる影を見て、思わず溜め息をつく。


「……レオノラ、やべぇな」


「やばいでしょ?」


「ああいうの見ると分かるわ。やっぱ俺って常識人だよな」


「……?」


「おい」


 賛同しろよ。


「いや、ちょっと無理があるかな……」


「ただいまー」


 俺が影と揉めている間にモータルがタオルで汗を拭きつつ部屋に入ってきた。


 モータルはタオルを乱雑にベッドの上に放ると、こちらに歩いてきた。


「誰と話してたの?」


「あ?いや見ろよ。コイツ、コイツ」


「気配はするけど見えないよ」


 はあ?


 唖然とする俺と目が合った影がにっこりと笑う。


「ボクは君だけの影だ」


 こいつ早く殺さないとなぁ……









「さて、と」


 影、モータル、俺。三人で一つの小さなテーブルを囲う。


「情報交換だ。つっても大半の情報は影から聞けるだろうが……実際に見て、体験しなきゃ分からん事もある」


「そうだね、レオノラとか、ね」


 いやもうほんと何なんアイツ。思い返せば思い返すほど恐怖心が高まるんだけど。


「指揮官の人だっけ。あの人のギフトのお陰でこの戦線が維持できてるって言ってたよ」


「ギフトって何だ」


「なんかこっちが知ってる前提で話してきたから一旦話合わせといた。だからどういうモノかはよく分からなかった」


 そりゃ英断だな。


「おい影」


「ギフトは読んで名の通り、贈り物だよ。聖樹からのね」


 聖樹……ゲームタイトルにもあったよな。


「……つーか英語通じるのか」


「英語?あー、大陸を跨げば使ってる国はあるよ」


 この世界どうなってんだ。

 資料室を漁ってたときにも思ったが、歴史に関する記述がめちゃくちゃなんだよ。


「異世界と混じりすぎた弊害か」


「?……英語がどうかしたの」


「いや、もういい。俺が考えることじゃない」


 こういうのは鳩貴族さんかほっぴーにでも丸投げしちまえばいい。


 俺は、どうやって罠にかけて、なるべく楽に特級を殺すか。それだけ考えてりゃいい。


「で?その贈り物は具体的にはどんなもんなんだ?」


「ボクみたいな感じ。固有の能力って言えば分かりやすいかな?」


 はいはい出た出たチートの定番ね。


「俺達がギフトを得る可能性は?」


「流石に無いかなー。というか君達には独自の法っていう最高のアドバンテージがあるじゃない」


 独自の法?……法……法則、システム……


「スキルか」


「才能の意図的な選択、可視化、そして敵を倒すと強くなるっていうとびきりのチート。まあ世界が混じりつつあるからこっちにもそのシステムが組み込まれつつあるけど」


 そんなシステム、元々俺らの世界には無いんだがな。


「……ふふ」


「そろそろいい?」


 妙なタイミングで笑い声をもらした影を睨みつけつつ、モータルに話をするようあごで促す。


「おっけ。レオノラのギフトのお陰で兵士一人一人の戦闘能力が二倍近く上がってるらしいね。当人もかなり強いみたいだけど、本人だけの実力だけを見れば駆除区分一級数人でかかれば倒せる範囲だってさ」


 そりゃいい話を聞いたな。


「おい影、レオノラは魔王討伐の精鋭には組み込まれてない。そうだろう?」


「うん、そうだよ」


 ここは完全にレオノラ一人に任せる訳か。

 他の砦がどうなってるのかは知らないが、レオノラ一人を殺せばどうとでもなるここの砦は、比較的落としやすい部類かもしれん。


「レオノラを転移に巻き込めないか?」


「まぁ別にできるけど……もしかして君らだけで普通に倒そうとしてる?」


 ……けっ、裏があるって感じだな。


「領域に引きずり込みたいが、どうせなら別のヤツを殺った方が良いよな……」


「ボクもそう思うよ」


「俺も」


 はあ。


 俺は掲示板魔法を起動し、いつものグループチャットを開いた。


「精鋭の詳細を話せ、影」


「りょーかーい」


 食人やってた奴らにビビってた頃に比べりゃ俺もタフになったもんだな。


 俺は心中でそう自嘲気味に呟きつつ、影の言葉に耳を傾けた。




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