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照らす狂気

「モータル。どうだった」


「すぺるま!だってさ」


「ほーん、喧嘩売ってるつーことかそれ」


「あ、それと、一週間くらいは様子見が必要かも、って」


 そのくらい誰でも分かっとるわ。どういう話題の結果すぺるま!に辿り着いたか知らんが、あの異常者共め……モータルの話そっちのけで雑談しやがったな。


「ふむ」


 とりあえず知り合いでも作りに行くか。


「モータル。なんか剣の素振りやるとこあるらしいからそこの奴らと仲良くなっとけ」


「どうせ後で殺すのに?」


 ド直球が過ぎるな。


「モータル。この砦の中でそういう発言はするな。誰に聞かれるか分からん」


「いやでも今は気配しないし」


 ……今?


「タカ!じゃあ俺素振りしてくるから!」


「お、おう」


 俺は釈然としないまま、去っていくモータルを見送った。










 さて、どうするかな。


 俺はブーザーからパクっていた酒を懐に忍ばせつつ、兵士の娯楽部屋へと入室した。


「失礼します、本日付けで入隊しました駆除区分二級のタカです」


 部屋にいた兵士達から剣呑な雰囲気が漂う。


「新入り、ねぇ……いきなり来る場所じゃあねぇぞ、ここは」


「それは重々承知だったのですが……」


 俺はそう言いつつ扉をそっと閉めた。


 そして懐から酒を取り出しニッと笑う。


「少々、プレゼントがあったものですから」


 一瞬の沈黙。


 やがてこの部屋の中では一番地位が高いらしい壮年の兵士がこちらに歩み寄ってきた。


「分かってんじゃねぇかよ新入り。ちなみにあと何本ある?」


「あと3本ほど。お気に召したようでしたら残りもいかがです?」


「……はははは!いいねぇ!最高だぁ!おいお前ら!この気の利く後輩の歓迎会だぁ!」


 娯楽室が一気に歓声で包まれる。


 そこには、先ほどの剣呑な空気は毛ほども感じられなかった。





「……っと、新入りぃ、一本は残しとけよ?後で俺が、ここで媚を売るべき相手を教えといてやる」


 ……ほう。


「ありがとうございます、分かりました」


 どうやら味方ガチャで当たりを引いたようだ。

 ガチャ代は酒瓶一本、って感じか?










「さてさて」


 俺は酔って口が軽くなった兵士達から色々と情報を頂くと、早々に部屋から退散した。


「言ってたアルノーとは既に良好な関係築けてるし、案外使えねぇなあのおっさん」


 酒で懐柔できるのはアルノーぐらい、ってどうすりゃいいんだ。


 ……レオノラともっと親密になっておきたいが、接点が無さ過ぎる。

 聖女を自称するわりには性に奔放、とかなんとかいう噂もあったが……まぁ面白半分で流してるガセだろうな。


「あ、そうだ」


 その噂教えてきた兵士の名前でもチクりに行くか。


 うん、いいかもしれない。そうしよう。


 俺はその足をレオノラの部屋へと向けた。








「タカくぅん」


「うわっきめぇ」


「酷くなーい?」


 酷くねぇよ。


「つーかアンタの本名未だに知らねぇんだが」


「影って呼んでね」


 呼ばないつってんだろ。


「かg……いや、傭兵。何の用だ」


「えー……」


 そんな残念そうな顔されても無理なもんは無理だからな。


「はーあ。影って呼んでくれたら色々と手助けしてあげるのに」


「……手助け?何の事かさっぱりだな」


 傭兵の唇が弧を描く。


「とぼけないでよ。通すんだよね、信念を。復讐を。ボクの種族と同じ目に遭ったんだろう?そうなんだろう?」


 復讐?……何言ってんだコイツ。


「こういうのはな、復讐とは言わない。ただの生存競争だ」


「……」


 一瞬虚をつかれたような表情になった傭兵だったが、次第に笑みを深め俺にしなだれかかってきた。

 おい。ふざけんな。


「良いね、良いよ……あの期待外れの聖女サマとは大違いだ……」


 しゅるりと、黒い触手のようなモノが俺の頬を撫でる。


「ここで正義やら悪やら生温い事を言うようなら殺すつもりだったんだけど」


 触手が俺の首を軽く絞める。


「ぐっ……お前、何がしたいんだ」


「光が欲しいんだ。ボクは、いやボク達は光を当てられないと存在できない。もっと強い光で、もっと鮮明に輪郭を描いて欲しい」


 まさしく影、だが……


 コイツの種族は何だ……クソ、ゲーム時代の情報にも、ギルドの資料にも思い当たる節がない。


「手助け、ってのは具体的に?」


「ボクなら聖女に進言・・が出来る」


 ……


「分かった。ちょっと計画を練るから下がれ」


「ボクを照らしてくれるかい?」


「……ああ、やってやるよ」


 俺がそう答えた瞬間、俺と影の間に妙な魔法陣が浮かび上がった。


 しまった。明言は避けるべきだったか。


 いやでも、ここは頷きでもしない限り殺される可能性が……


「狂わないでね」


「喧嘩売ってんのか?」


「違うよ、君は狂ってる。でもね、聖女みたいに完全に狂気に沈んでいるんじゃない、冷静に、狂気を飼い慣らしてる」


 狂気なんてもんウチで飼うつもりはありませんッ!

 元居た所に返してきなさいッ!


「じゃあ、決まったら呼んでね」


 そう言うと影は沈むようにして消えていった。


 ……はー、チート野郎だなやっぱ……利用するだけしたらさっさと砂漠の女王に殺して貰おう。


 










タカ:やべぇヤツと契約っぽいの交わしてしまった


タカ:利用するだけしてサクっと殺して貰うんでシクヨロ


砂漠の女王:契約ですか


タカ:なあ、影とかいうのに聞き覚えない?


砂漠の女王:いえ、ありませんわ


砂漠の女王:少し調べ物をしてきます


タカ:あいよ


スペルマン:契約?


スペルマン:魔法少女にでもなるの?


ジーク:草


ガッテン:邪悪すぎる


タカ:ぶっ飛ばすぞ


ほっぴー:でも男の魔法少女ってもうそこまで珍しくもねぇだろ


ガッテン:言葉の並びが意味不明すぎる


ジーク:男の魔法少女(哲学)


スペルマン:性別こわれる


紅羽:魔法少女かぁ


ジーク:魔法ぶっぱ少女さんオッスオッス


紅羽:その呼び名、意外に悪い気はしないな


ジーク:えぇ……


タカ:すぐに話を脱線させるな


タカ:なんか凄腕の傭兵らしいんだが、自分の種族は滅ぼされただとかなんとか言っててな


タカ:お前も同じ境遇だろ、復讐をやるんだろ、みたいな事言ってきやがったから


タカ:俺らがやってんのはただの生存競争だって言ってやったんだよ


ほっぴー:そうだな。復讐だったら矛先は魔族に向けるべきだし


タカ:そしたら壁ドンした挙句触手で首絞めてきやがった。ちなそいつ男


ほっぴー:草


ジーク:草


紅羽:キッツ


ガッテン:えぇ……


スペルマン:ちょっと興奮した


タカ:するな


タカ:しかもその後俺を狂人呼ばわりしてきやがった


ジーク:意外と常識人そう


ほっぴー:正常な判断能力はあるな


紅羽:でもその狂人と契約したんだろ?


タカ:おう


ほっぴー:もしかして異世界ってキチガイばっかりなの?


タカ:かもしれん


タカ:まあ結構有能っぽいしなぁ。今からもっかい会ってちょっと色々と作戦練ってくるわ


ガッテン:壁ドン&触手責めしてきたヤツと契約した挙句、平然と作戦会議の人員に組み込む神経よ


スペルマン:もう何も怖くなさそう




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