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準備フェーズ

「まあとりあえず求人漁るわ」


「求人?」


「ああ」


 戦争やってんだから兵士募集くらいあるだろ。


 ……とはいえそれだけじゃ弱いか。

 ちょっくら嘘八百並べ立ててくるかな。


「モータル、トラブル起こさない範囲で散歩してこい」


「了解」


 大丈夫……だよな。











Mortal:暇になった


ほっぴー:タカはどうした?


Mortal:求人漁りにいった


砂漠の女王:兵士の募集でも探すのでしょう


ほっぴー:うーん


Mortal:嘘八百並べ立てるとかブツブツ言ってた


ジーク:一個のほつれから一気に崩壊しそう


ほっぴー:わかる


Mortal:いざとなったら暴れ回って一級何人かと刺し違えるようにする


Mortal:特級は無理


ほっぴー:出来る事なら逃げてくれよ……


ほっぴー:一応外交で何とかなるかもしれんし


スペルマン:最初から外交的手段で何とかできないの


ほっぴー:敵の主戦力潰してからの方が優位に交渉できるだろうが


スペルマン:アッハイ


Mortal:じゃあなるべく逃げる


砂漠の女王:その際は全力でアシストしますので


お代官:その際以外も全力でアシストしてあげなさい


砂漠の女王:わかりましたわ














「なるほど、ね」


「これは信用の証だ。俺はあんたらを信用したからこそ、この話をした」


 キプロスが専用の椅子に座ったままこちらをじっと見ている。

 そんなキプロスにアイサインを送ったソリコミくんが、再びこちらに視線をよこした。


「つまり、特級が暴れ回ってるようなやべぇ戦場に派遣してやりゃいいんだな?」


「そうなる」


「……へっ、イカれたヤツもいた「やめろ」……すいやせん、キプロスさん」


 見れば、いつの間にかキプロスがソリコミくんのすぐ横に移動していた。

 はー、その巨体でその速度かよ。チートか?


「種族の文化を嘲るような発言は」


「いや、いい。気にしてない。俺はある程度外の文化に触れてるし、時代によっちゃ曲げるべき信仰なんだろうな、って自覚はある。モータルは完全に盲信しちまってるけどよ」


 そこまで言うと俺はスッと席を立つ。


「じゃあ、よろしく頼む。明日また来たほうが良いか?」


「いや、今日中にギルドに話を通す。ああ、隠れ里・・・についてどこまで話していい?」


「怪しまれて変な探り方をされても困る。俺が言った事まるまる話しておいてくれ」


「分かった」


 俺は一礼すると、キプロスの部屋から退出した。










「全然疑ってねぇな……」


 俺の作った設定は、こうだ。


 俺とモータルはとある隠れ里に住む戦闘民族の一人。

 その民族の文化で、「近親交配が進まぬよう、時折、数人を里から外の世界へ送り出し、強者を見繕い民族へと連れてくる」というものがある。

 その強者を見繕いたいが、現在は戦争中。強い者はほとんど戦地へ引っ張り込まれている。

 だから俺達を戦地、それも特級クラスが暴れ回る“地獄の戦場”に連れていって欲しい。そこからの事は俺達で何とかする。



 俺達とキプロス達の間に色々ないざこざがなければ、この嘘は軽く一笑に付されていただろう。


 だが、屋敷で見せたモータルの異常なほどの強さ。

 人里など無いはずの方向への食料の運搬。


 これらから何となくつけていたソリコミくんの予想と、俺の設定の(部分的ではあったが)合致。


 これらが後押しとなり、ソリコミくんは俺の嘘を疑うそぶりすら見せなかった。


「は、ははは!だから言ったろう。俺はガチャ運がねぇ代わりにこういうとこに運振ってんだよ!」


 俺は一人路地裏で高笑いをきめた。









タカ:はーーーっはっはっは!


鳩貴族:ほう、タカ笑いですか


タカ:特級に会えそうだぜ!


ほっぴー:!?


鳩貴族:!?


Mortal:あ、タカ。運び屋にしょうかんに誘われたんだけどさ


タカ:運び屋半殺しにしていいよ


Mortal:分かった


砂漠の女王:タカさん、もう少し詳しくお話を


タカ:特級が居る戦場に兵士として行く。魔族側に手加減するように……なんて言うなよ?


タカ:嘘がバレる元だ。生き残ってみせるから本気で殺しにこい


タカ:あ、でも命乞い始めたら助けてあげて


ジーク:手の平壊れてそう


砂漠の女王:積極的に殺すよう言っておきます


タカ:言わないで


タカ:ああいや、待てよ?ピンチなところを特級に救ってもらって、そっから……ってのも有りか


ジーク:怪しまれはしそう


タカ:じゃあ何も言わない方がいいか。ちょっとでも不自然な点があるとそっから嘘がドミノ状に崩れるかもしんないし


ほっぴー:どんだけ嘘重ねたんだお前


タカ:出自をイチから作った


ほっぴー:お前なぁ……


タカ:話術はないから嘘と運でカバー


タカ:さぁてモータル、設定の擦り合わせだ。運び屋も呼べ。あの個室のコース料理の店で飯食うぞ


Mortal:おk


ほっぴー:うまい飯食ってんのは腹立つけどそれ相応の働きしてっからな……


お代官:何故帰ってきた途端サボり魔になるのだろうな……













「いっただっきまーす」


「いただきます」


「いたただき、ます!」


「やっぱここの料理はうまい」


 俺は食前の挨拶もなしに料理にがっつき始めた運び屋にアイアンクローをかましつつ、しっかり食前の挨拶が言えた運び屋の連れのガキを撫でてやる。


「ほーら、運び屋さん、挨拶もできないの?って言ってごらん?」


「運び屋、挨拶はしなきゃ、ダメ!」


「ぐふぅ!?」


 運び屋の精神にクリティカルをかましたところで満足した俺は、優雅に食事を始めた。


「んー、うまい。あ、お前ら。今日の「おいしー!」……そうか、そうか。そりゃ良かった」


 横ではしゃぐガキを適当にいなしつつ、視線は他の二人に向ける。


「設定の擦り合わせだ。ボロ出したり、裏切ってバラしたりしたら身体をバラす。いいな?特に運び屋」


「裏切らねぇよ。つーか俺ぁそもそも魔族だしな」


「なら良い。設定はまとめてモータルの個チャに送っといたはずだから、モータルは把握してるとして……把握してるよな?ちょっと運び屋に説明してみ?」


 俺の指摘を受けたモータルが慌てて口の中の物を咀嚼し飲み込む。


「えと、俺らは戦闘民族で、魔女の子捨て場の一角に魔除けの術式を組んで小さな集落を作ってる」


「まぁそれだけおさえてりゃいいか。おい運び屋、分かったか?」


「ああ……まあそこだけだと、ある意味嘘は言ってねぇ気もするが」


「戦闘民族はモータルだけだ。というか戦闘民族よりは狂戦士に近い」


「狂人と狂戦士のコンビか……」


 俺は無言で運び屋にアイアンクローをかました。



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