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幕間:忘却の十傑


ガッテン:ヘリで移動なう


ガッテン:あの


ガッテン:反応なし……?


ガッテン:忙しいのかな?






「泣きそう」


 ヘリの中、震え声でそう呟いた、がたいの良い大男。

 その男の傍らには、病的なほど白い肌をした少女が、長い銀髪を散乱させつつすうすうと寝息を立てている。


「……やっと寝たのに起こすのも悪いしな」


 寂しげな様子を見かねたのか、ヘリのパイロットが見た目にそぐわぬ流暢な日本語で男――ガッテンに、話しかけた。


「その娘、空から見る景色にえらくご執心だったな。はしゃぎすぎてヘリが墜落するかと思ったよ」


「あ、あはは……すんません……」


 その言葉を最後に黙ってしまうガッテン。

 

 訪れる沈黙の時間。


 居心地の悪さを感じたのか、もぞもぞと椅子に座り直し、そう興味があるでもない空からの景色を眺める……フリをする。


「……あー、っと、えらく身体つきがガッシリしてるけど、なにかスポーツでも?」


 同じく気まずさを感じたのか、パイロットが再び話しかける。


「あ、一応ラグビーを……」


「ラグビーか!道理でそこまでガタイが良いわけだ」


 共通の話題を見つけたと思ったのか、少し食い気味に反応を示すパイロット。


「まあ下手くそだったんで数ヶ月でやめたというかやめさせられたというか……」


 だが、ガッテンから漂う負のオーラから、パイロットは自分が地雷を踏んだ事を察した。


「そ、そうなのかい?そんな風には見えないけどね」


「筋トレは運動音痴でもやれるんで……」


「そう、だな……うん」




 ……


「あー、あの。ちょっと寝ます。着いたら起こして下さい」


「了解」


 気まずさがピークに達したのか、ガッテンは目を閉じ寝る体勢に入った。


 








 ズンという音、少し遅れて衝撃が身を襲う。


「うおっ!?」


 窓から見えた黒煙。

 その瞬間、考えるよりも先に身体が動いた。


 傍らで眠っていた少女。駄々をこねて結局シートベルトをしないまま眠ってしまっていたその少女を抱き寄せ、必死にその身を守る。


「う、おおおおおおおお!!?」


 バチバチと火花の散る音と共に、周囲の景色がくるりと逆さに変わる。


「げふッ!?」


 シートベルトで固定した身体がめちゃくちゃに引っ張られ、ガッテンの口から呻き声がもれる。


「く、うぅっ!?」


 ぐい、と何かに引っかかったような感覚。

 その隙を逃すまいと割れた窓から少女を抱えたまま飛び出す。


「レインアロウ!」


 抱えられた少女――ヴァンプレディがガッテンの後方に向け大量の矢を放つ。


 その矢が放たれた方向から粗暴な声で怒鳴りがあげられる。


「何すんだクソアマ!相手をよく見ろ、俺ぁ魔族だっつーの!」


「ガッテン、あいつドラゴノイド」


「はあ!?」


 驚愕の声をあげつつ綺麗に地面に着地を決めるガッテン。


「運動音痴、とは」


「聞いてたのかよ!?いやそれはこの災害が起こる前の話でだな……」


「何ごちゃごちゃ話してんだ」


 地面に激突したヘリ。そこから生じた煙の向こう側から、襲撃者が姿を現す。


「おい、そこのヴァンパイア。せっかく助けてやったのに何故攻撃した」


「助ける?意味不明。お前はただの襲撃者」


「あぁ……?」


 怪訝な顔をするドラゴノイド。


「お前こそ誰なんだ」


「人間ごときが俺に口を利くんじゃねぇ」


 ぶわりと殺気を帯びたヴァンプレディを手で制しつつ、ガッテンが再び口を開く。


「どうも行き違いが生じてるみたいでな。状況を整理したいから、そう言わずに教えてくれや、ドラゴノイドさんよ」


「……俺は負け戦から逃げてきたクチでな。一緒に逃亡する仲間が欲しいと思ってたところに、ヴァンパイアを攫ってる最中のお前ら……ああいや、一人はもう死んだか。とにかく、お前達に出くわしたワケだ。そりゃ助けるよな?」


「ああ、そういう……」


「不快。ガッテン、あいつ殺そう」


「落ち着け」


 大人しそうに見えるその容姿からは想像も付かないほどの殺意を漲らせるヴァンプレディを何とか制す。


「あ、悪ぃ、もしかして眷属だったか。一人殺しちまったな。そういや俺のドラゴンブレス避けたもんなぁ。流石にただの下等生物にゃ出来ない芸当だよな。納得、納得。あー……そうだな、その辺で良さそうなのさらってくっから勘弁してくれや」


「砂漠の女王って分かるか?」


「ああ?……んだよ、主人は喋らず眷属に喋らす系か」


 ドラゴノイドはそう言うと、ニヤリと頬を歪めながら続けた。


「そりゃもう。俺が戦場からここまで逃げ出せたのは、その砂漠の女王とやらが領域を放棄した影響で出来た歪みのお陰だからなぁ。俺ぁつくづく運が良い。で?その女王とやらがなんだって?」


「ガッテン。聞くべき情報はもう聞いたのでは」


「そうだな」


「ブロードウェポン」


 その言葉と同時にガッテンの身体を深紅の鎧が包む。

 そして右手に長剣、左手に盾が生成される。


「助かる」


「はやく、殺せ」


「分かった」


 ガッテンがスッと剣を構える。


「あ?何だ急に」


「まずは俺を倒してみろトカゲ野郎」


「はっ、そういう事ね……いくら眷属って分かってても下等生物にんな事言われると、流石に」


 ドラゴノイドが一瞬にしてガッテンへと肉薄する。


「瞬殺したくなっちま……がふッ!?」


 それを見越していたかのように盾を構えなおしていたガッテンが、迫ってきたドラゴノイドの鳩尾を盾で突き飛ばす。

 姿勢を崩したドラゴノイドにそのまま剣の一突きを食らわそうとするが、間一髪で回避される。


「あ、ぶねッ!てめぇ!」


 突き出された剣を爪で掴みぐいと引っ張る。


「!?」


 するとすぽん、と剣がガッテンの手から抜ける。


 あまりの手応えのなさに体勢を崩したドラゴノイドにガッテンがタックルを食らわす。


「がッ!?てめぇ、インファイトで俺に勝て、ぐふっ!?」


 ドラゴノイドが倒れ込んだところにガッテンが馬乗りになり頭突きをかます。


「やめろッ!ああ、クソ!死ねッ!」


 ドラゴノイドがガッテンの脇腹に爪を突きたてる。

 ザックリと刺さったその爪に深紅の鎧が絡みつく。


「な、なんだよコレッ、ふざけんな!」


 血を吐きつつもガッテンがドラゴノイドの翼に手を伸ばす。


「お、おい。嘘だろ。やめろ。やめろって。なあ、おい。やめろ……やめろやめろーーーーーッ!!!」


 ドラゴノイドがもう片方の腕をあげようとするも、剣だったモノが絡みつき、その腕をキッチリと地面に固定していた。


 そしてガッテンはそんなドラゴノイドに構う様子もなく、淡々と翼を破壊・・し始めた。


「が、ああッ!やめ、ろ……やめろ……」


「悪いな、一瞬で殺せるほどの火力がなくて。スキルで作ったのは武器判定に入らんみたいでな、武器系のスキルが使えない。だから、このままなぶり殺すしか手段が無い」


「は、あッ、やめて、くれ……なあ、オイ……」


「ごめんな。でもお前、俺ら殺すつもりできたんだもんな?」


 ドラゴノイドが完全に破壊され、魔石を残して消滅するまで、その行為は続けられた。












ガッテン:徒歩なう


ガッテン:反応なしか……


ガッテン:すいませーーーん!!!!俺の事忘れてませんかーーーーー!!!!


ガッテン:泣くけどーーーーー!!!!?





(十傑の中では)常識人枠

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