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隙あらば撮影

「……うっ」


 身体中からピシピシと異音を発しながら無理やり起き上がる。


「タカさん、すみません、つい反射的に迎撃を……」


 え?あ、うん。おっけー。ばるんばるん。


「あ、あの……」


「大丈夫。ぶっちゃけ十割俺らが悪い」


 あのおっぱい動画がばるん……じゃないわバレるとまずい。

 さっさと話題を変えないとな。


「あーそうだ。他の十傑の皆を呼んでくれないか。しなきゃいけない話がある」


「……あの、その件についてはタカさんが気絶している間にもう話が着きました……」


 えぇ……


 一応、発案者なんだが……


「すみません……」


 まあしかたねぇか。


「で?どうなった?」


「はい、何とか渡りをつけてみせます――アルザさんと」












タカ:おいてめぇら


ほっぴー:ようやくお目覚めか


スペルマン:動画鑑賞会やるからおいで


ガッテン:やらないで


ガッテン:ちゃんと会議して……


タカ:会議は昨日の晩やっただろ


ガッテン:あれで終わり!?


タカ:会議やりてぇなら議題を持ってきな坊や


ガッテン:いやホラ、魔王軍と連携取るんだろ……?


ガッテン:仲間に加えるんだろ……?


タカ:いや俺は侵攻してきた人間共ぶっ殺した後に魔王だけでもぶっ殺したい


ガッテン:殺意が高すぎる


タカ:は?こっちが何人死んだと思ってんだてめぇ


タカ:いずれにせよ落とし前はキッチリつけさせる


ほっぴー:ヤクザかな


スペルマン:おっぱいでも見て落ち着こう


タカ:うん


ガッテン:うん、じゃねぇよ


タカ:おっぱいは平和の象徴


スペルマン:鳩はおっぱいだった……?


ジーク:お っ ぱ い 貴 族


鳩貴族:いいですね


七色の悪魔:ああ、鳩胸ってそういう……


紅羽:なんでお前らはおっぱいの話になるとIQが2くらいまで下がるんだ


ジーク:IQ2は草


タカ:おっぱいの前に人類は無力


タカ:そしてお前のおっぱいは無


紅羽:とりあえずお前の部屋の方向にドラゴンブレス撃つわ


タカ:いやごめんて


紅羽:絶対に許さないし妹にキッチリ報告する


ガッテン:無乳は無乳でいいものやぞ


紅羽:あぁ?ガッテンてめぇ殺すぞ


ガッテン:なんで!?


ほっぴー:そういうフォローが一番腹立つんやぞ


スペルマン:鑑賞会始めるからはやく来て


鳩貴族:はい


七色の悪魔:今から向かうので少々お待ちを


ジーク:行くわ


タカ:行きたい


紅羽:おい


紅羽:干し肉


タカ:手持ち全部あげるんで……一箱分……


紅羽:しょうがねぇな。じゃあ鑑賞会行ってきていいぞ


タカ:わーい!


ガッテン:ぐすん。俺もう突っ込まないからな……









「揃いましたので、これより鑑賞会を開始いたします」


 スペルマンのかしこまった声の直後、部屋の壁がパッと輝き、やがて像を映し出した。



『タカさん!?し、しっかりしてください!だ、誰かヒールを!』


 目を閉じぐったりした俺の身体を必死に揺するカーリアちゃん。


 無論、ふわふわとしたパジャマの生地がその暴力的な質量をもった振り子に耐えられるはずもなく。


「あっ、ああっ!見えそう!」


「こぼれる!こぼれる!」


「お前らうるせぇ!」


 今にも生地を突き破り零れ落ちんとするその果実を前に、その映像を見る誰もが手に汗を握る。


 

 かがんだ事により出来た胸元の空間をぶるりぶるりと揺れ続けるソレをただただ眺める。



 だがある時、一人の漢が気付く。


「へ、へそだ。へそが見えてる!」


 はげしい動きと、胸によるずり上げ。


 それにより、少しずつではあるものの、カーリアの衣服がはだけつつあった。


 チラリと覗くしなやかな腰とちょこんと控えめな主張をしているおへそ。


『ちょっと、ほっぴーさん!眺めてないでタカさんにヒールを!』


『いやカーリアちゃんが肩揺する方が効くから。はやく。もっと激しくッ!』


『効く訳ないですよね!?』


「いいや、効く」


「タカ、これ映像だから返答は意味無いぞ……」


 いやもうこんなん言っちゃうだろ。


 エリクサーを鼻で笑えるレベルの癒し力やぞ。


『チッ……分かった。砂漠の女王!見てるだろ!?助けてやれ!』


『ほっぴーさん!タカさんが、血を……血が……止まらなくて……』


 えっ。


「おいほっぴー、そんなヤバい状況だったの俺」


「黙って見ろ」


「おい」


『あ、ああ……血の気が……』


 おい。


 顔色が引くほど青くなってんじゃねぇか。


 シュレックが指さして笑うレベルだぞ。


『ほっぴー、流石にこれ以上は……』


『……そうだな。よし、カメラ一旦止めろ』










「では動画の二つ目……」


「まだあんの!?」


 終わりの雰囲気だったじゃん!?


『これが正装……なんですよね?』


『ああ。怪我人に刺激を与えないようにこの白い服を着るのが人間の慣わしだ』


 パッと映されたのは、白衣を纏ったカーリア。


 いいね!


 ……あれ?俺が目覚めたときはあの格好じゃなかったはずだが……


『じゃあちょっとポーズ取ってみようか』


『は、はい!』


 カーリアがえへん!といった風に胸を張り、「あれこれ3D映像だっけ」という程に二つのバレーボールが飛び出る。


『えーと次はね、ベットに両手乗せて、そうそう。でちょっと手の方に体重を……あーナイスでーす』


 正面アングル。


 そこから垣間見えた渓谷。もはや語るまでもあるまい。


「さあこっからスペルマンの名采配」


 ん?


『タカに見せるのムカつくし、上手い事言いくるめて普通の格好に戻しとこうぜ』


「おい」


「あぁ!?肩揺さぶられたとき、近距離であの振り子を見たんだろォ!?それで充分だろが!」


「そうだそうだ!動画で我慢しろー!」


 ぐっ、そう言われると弱い。


「ちょっと待って下さい。タカさん、あのとき意識が?」


「最初の方だけだ。二振りぐらいしか見てねぇ」


「これは戦争ですね……表に出て貰えますか」


 七色の悪魔さん!?


「七色の悪魔さんにドライフルーツ一個!」


「じゃあ俺はタカ氏に駄菓子三つ!」


「おう待て待て集計すっから」


 流れるようにギャンブルの算段つけんじゃねぇ!



 映像も終わり、次第に騒がしくなり始めた部屋。

 その扉が突如、バタン!と開けられた。


「うおっ、まぶしっ……」


「誰だ!」






「……僕だよ。アルザだ。いったい何をしているんだい君達」


 ……


「「「「え?」」」」


「皆様、お楽しみのところ邪魔して申し訳ないですけど、何故わたくしではなくカーリアを頼ったのですか?わたくしならホラこの通り一瞬……とは言えずともすぐに連れてこれたんですのよ」


「はあ、非常に不本意だけど、僕らはかなり危機的状況にあってね。共闘については魔王様もやぶさかではないそうだ」


「やったな皆、新たな被写体だ」


「タカとは個人的にお話・・する必要があるかな……?」


 俺を止めようともほっぴーとスペルマンは止まらねぇ……!というか撮影に関しては俺が居る必要はないしな!

 そして仮に撮影班を全滅させようと、必ず第二第三の撮影班が現れる!


 あんたがやろうとしてるのは無駄な事だぜアルザさんよぉ!がははははははッ!


「魔族よりも魔族らしい笑みを浮かべるのはやめてもらえるかな」


 アホ共を前に、アルザはただただ頬を引き攣らせ、嘆息した。



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