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目的地。そして魔法陣

 

「……これは」


「んだよコレ」


 思わず立ち止まり、頭を押さえる。


「魔法陣、か……!?魔法陣の情報が無理やり頭に……ッ!?」


 俺と時を同じくして地面に座り込む紅羽。

 脳に刻み込むようにして魔法陣の構造を知らされる。

 体感にして数時間とも思える苦痛の時間が終わり、俺達はようやく解放された。


「はぁッ、はぁッ」


「あー、クソ、まだ頭がガンガンする」


「お前、割と余裕そうだな……あぁクソ、気分悪ぃ!」


 悪態をつく紅羽を尻目に今の現象について考える。

 俺はこれと似たような経験を既にしている。合成や練成の魔法陣を描いた時だ。

 だが、その時は今のような激痛は伴っていなかった。まるで、思い出したかのような自然さだった。

 両者の違いは一体何だ?

 合成と練成の魔法陣にあって、今の魔法陣にないモノ……まさか。


「なあ、今の魔法陣、聖樹の国の魔物使いの中では存在しなかったモノだったから俺らでもこんなに苦痛だったんじゃないかって考察したんだけど、どう?」


 俺が自らの考察を語ってやると、紅羽は驚いたような顔をした後、すぐに口を開いた。


「お前、ゲームやってる時から薄々感じてたけど、頭おかしいだろ」


 なんで?


「ホラ、お前さ、女の子がよ、こう……何か他にかける言葉があるだろ普通は!?」


 は?あのね、紅羽さん。こういう言葉知ってる?貴方の常識、他人の非常識。


「……もういいよお前……」


「ブモ……」


 なんで俺ミノタウロスにまで憐憫の念のこもった目を向けられなきゃなんないの?








 

 暫く二人と二匹でえっちらおっちらゴブリンを狩りながら進んでいる道すがらに、俺は今まであえて触れなかった事に言及する事にした。


「なあ、ふと思ったんだが」


 俺の言葉に怪訝な顔を返す紅羽。


「何だよ?」


「俺と、お前の会いたがってる人って、同じなんじゃないのか?」


 おい。露骨にうわあ、みたいな顔をするな。


「そんな訳ねぇよ。あんな良い娘が頼りにしてる兄ってのがお前みたいなろくでなしな筈がねぇ」


 語るに落ちてるじゃねえか。俺は妹とは一言も言ってないぞ。


「言ったぞ」


 あれ、そうだっけ。


「お前記憶ガバガバじゃねえか」


「女の子がそんな言葉使っちゃいけません」


「キモ……」


 おい素直な反応やめろ。傷つくから。割と深めに。


 で、実際どうなんだよ。


「いやまあ、あたしも薄々感じてたけどよ。クソ、マジか……あんな健気で良い娘を洗脳しやがって……」


「言いがかりやめろや」


「あたしだったらタカみてえなイカれポンチにゃ死んでも頼らねえぞ。むしろ殺す」


 殺すな。

 お前な、一応俺は家族のピンチとあらば可能な範囲内で駆けつける人情味溢れた男だぞ。しかもお茶目で親しみやすい。


「自分で言うなや。つうかお茶目ってなんだよ」


「いっけなーい、じばくじばく~」


「大惨事じゃねえか。お前な!今となっちゃあの事件は笑いの種だけどな!一時期マジでギスギスした空気になってたのあたしは忘れてないからな!?それを何で本人が持ちネタみてえに扱ってんだよ!?」


「短剣芸人のさがだ。諦めろ」


「うるせえ!もっと真面目に戦え!」


 



 そんな風にギャーギャーと言い争っている間に、俺は、いや、俺達は目的地に着いていた。

 ミノタウロスとザントマンがこそこそと路地裏に隠れていくのを見届けつつ、紅羽は口を開いた。


「おい、タカ」


「何だよ」


「ここで一旦お別れだな」


「いや俺の目的t「ここでお別れだな」……」


「そうだな!ここで一旦お別れだな!じゃ、お前も無事目的地に辿り着けよ!」


「あ?てめえの目的地はここじゃねぇよ。失せろ」


「なんでお前に決められなきゃなんねぇんだ?あぁん!?」


 俺と紅羽がある・・家の前で互いにメンチを切り、言い争いを繰り広げていると、唐突にその家のドアが開いた。


「主殿!無事でしたか!?」


「うっわ。ぬいぐるみおじさんじゃん」


「ぐはぁ!?」


 運営の安易なキャラ付けとパワーバランスが祟り、完全にヘイト&弄り要員とみなされている蝙蝠屋敷の主に紅羽が軽めの煽りジャブを繰り出した。モロ顎にアッパー食らったみたいな顔してるけどまだここからだからな?


 それじゃあ俺も本腰を入れて煽るか……と思っていると、更に奥から人が出てきた。


「ゆうちゃん!!それに、お兄ちゃん!?何でいるの!?」


「よう、ゆうちゃん」


「タカてめえ……!」


 本名バレしたらそれで煽るのは最早マナーみたいなもんだ。やったねゆうちゃん!話の種が増えたよ!


「おいやめろ」


「……お兄ちゃん、何でそんなにゆうちゃんと仲良いの?」


「「良くない」」


 クソっ、ハモった……。








「自衛隊の人達が倒してくれたんだ……」


 真っ赤な嘘である。“紅”羽だけに。

 ……はっ!?鳩貴族さん!?


 という馬鹿丸出しな思考は置いといて。

 現状、俺らがベンケイを倒したと知られると色々と面倒臭い上に、妹に問題が飛び火する可能性があるので、アイツの討伐は自衛隊がやってくれたという事にした。

 いやあ、日本の軍備は優秀ですね!


「ところで紅羽、どっか部屋空いてないか?」


「あー。それなら外に物置があるだろ?」


「ほーん。まあいいか。使わせてくれ」


「お兄ちゃん、その紅羽って呼び名何?」


「あー、実はゲーム友達でな。そん時のハンネだよ」


「ハンネ?」


「ハンドルネーム。まあ、偽名みたいなもんか」


「おい、タカ。あんまゲーム上での事喋るなよ。さっさと倉庫に行け。そして二度と出るな」


「それ普通に死ぬんだが」


 まあいいか。やりたい事もあるし。


「倉庫はどのくらいのスペースがある?」


「ちょっと前に中身を一斉に処分したからな。このくらいのスペースはあるぜ」


 紅羽はニヤリと笑うと指で大きめの円を宙に描いた。

 コイツ、分かってやがるな。


「充分だ。出来れば毛布もくれ」


「……え?マジでお前そこで生活すんのか?死ぬぞ?」


「夜行性のおっさんが見張るから平気平気」


 というか妹の中でコイツってどういう位置づけなんだ?……まあいいか。とりあえず今は魔方陣の制作だ。


 紅羽に小声で「妹を頼む」と伝えると、俺は外の倉庫へ向かった。








 



 暗い倉庫の中。ふわりと魔法陣が光り、俺を照らす。


「……なるほど、な」


 数十分による調査。それで分かった、この魔法陣の効果。


 

 それは――――



「これ掲示板だわ」


 そう、この魔方陣は、掲示板にアクセスする為のモノだった。

 いやー、これでネットが無くなっても掲示板で連携が取れるね!


 ……どうなっちまうんだろうな。どこに向かってるんだろうか。この世界は。

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