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はたらくまぞく

「ここだ。お前に言われて大量に買い付けておいた食料を保管してある」


 ソリコミくんに案内され、倉庫に到着する。


「じゃあ頼んだぞ運び屋」


「はいよ」


 ガラガラと音を立て扉が開かれる。


「はあ……」


 溜め息をつきながら倉庫に入っていった運び屋が積まれた食料を次々と亜空間へと飲み込んでいく。


 どういう縛りがあるのかまでは把握していないが、今のだけで充分驚異的な能力だ。


「よし。全部収納したぞ。で?これをどこに運ぶんだ?」


「それはこれから案内する」


「……嫌な予感しかしねぇが、その辺の事情をある程度聞いた上で了承しちまった訳だしな……」


「しかも半額」


「お前の依頼はこれ以降受けねぇからな」


 それは困るな。


「じゃあ次回から報酬金を二倍にしてやろう」


「それ元に戻っただけだろうが!?」


 流石にバレる?


「分かったよ。受ける気になるような条件を提示してやっから」


「……」


 無言で歩き出した運び屋にモータルとシャノンを連れ追従する。


「とりあえず街の外に出る、ってので合ってたよな?いいのか?馬車を用意できなくもないが」


「そこまで遠くない。ここを出て数時間で着く」


「森の魔物に餌でもやる気か?」


 そう言ってハッ、と笑う運び屋。


 まぁ実際魔物みたいなもんでしょ。

 魔物というか獣か。


 世界終わりかけてるのに性欲優先したりするらしいっすよアイツら。こわいねー。








「この森の奥だ」


「……なあ。お前ら、この森がどういう場所か分かってんのか?」


 え?


 えーと……確か資料室で読んだ情報だと……


「魔女の子捨て場?だっけか?」


「分かってんじゃねぇか!?……おい、やめろ剣を向けるな。分かった、分かった!行けばいいんだろ行けば!」


 なんかこの森だけ極端に情報が少なかったんだよな。


 だから砂漠の女王がゲートとやらをバレずに開けたのかもしれないが。


「急いでるし走るか」


「馬鹿か!?杭撃ち蟻を刺激でもしようなら一瞬でハチの巣だっての!」


 蟻なのにハチの巣なのか……


「いやでも意外と何とかなったぞ」


「一回やらかしてんのかよ!?」


 やらかしたというか、うん。

 不可抗力だ。アレは。


「他にも色々いるらしいし、そいつらとエンカウントする前にさっさと到着してぇんだよ」


 というか一体、見覚えのある魔物も資料に載ってたし。


 ゲームの方でも一日だけだが登場したクソ強レイドボス。名前は狼としか表示されてなかったが……


「まあアレに関しては出現情報の一つがここってだけらしいが」


「ん?どうした?」


「いや、独り言だ」


 後ろにしっかりとモータルとシャノンが付いてきているのを確認した後、再び前方の警戒に戻る。


「というか運び屋、道分かってんのか」


「……おい。そもそも何を目印にすんだ」


「タカ。俺が先導するよ。シャノンのお守りよろしく」


 モータルが地図を構えつつ先頭に立つ。


 確か一つ目印となる木を見つけたらそっからは石畳の道があるはず。


「……なあ」


 ひそひそ声で俺に話しかけてきたのは運び屋だ。


「何だ」


「お前ら、何者だ」


 着けば分かる、と答えようとしてふと思い直し、再び口を開く。


「十傑だ」


「はぁ?何だそれ」


 俺は、ここでこの話は終わりだ、と言わんばかりにシャノンを連れずんずんと進んでいく。


 全く、元は自虐交じりの蔑称だったってのにな。











「なぁ、この石畳の道をギルドに報告するだけで大金が手に入るって分かってる……みてぇだな」


 いや知らんかった。


 まあ報告するはずもないが。


「お前ら、魔族の俺に対して特に恐れる様子もねぇし……魔女の関係者か?」


 だいたい魔女ってなんなんだ。


 俺が資料漁った限りじゃ都市伝説に近いみたいだけどよ……


「……」


 俺達が何も言葉を返さない事でようやく諦めたのか、運び屋は質問するのを止めた。









 石畳の道を進んでどれだけの時間が経っただろうか。


 ようやく俺達の目的地が見えてきた。


「ここまで歩いて蟻以外と出くわさない……魔避けの陣……しかもかなりの……」


 ブツブツと呟いている運び屋の背をポンと叩く。


「うお!?……どうした。休憩か?」


「いんや?……着いたぞ?」


 俺の言葉に怪訝な顔で返す運び屋。


「あのな。あんまり俺をからかうようならこっちだって考えが……あ……」


 おそらく既にこっちを見ていたのであろう。


 バチバチと音を立てながらゲートが開き――カーリアが出てきた。


「お疲れ様です」


 ペコリと頭を下げるカーリアちゃん。

 いやー、カーリアちゃんやっぱかわいいなぁ。


「じゃ、俺らの拠点まで一旦来て貰おうか」


「……は、はは……ゲート、だと……」


 よほど衝撃的だったのか、呆然自失となった運び屋を無理やり引きずってゲートの奥へ放り込んだ。


 そして俺がビクつくシャノンを抱え、運び屋に続く。


 その後モータルとカーリアも俺に続き、ゲートは閉じた。








タカ:俺の持ち帰った食料の味はどうだ?


紅羽:マジでうめぇ


ほっぴー:やるなぁお前。砂漠の女王がすげぇ便利な駒を拾ってきたつってはしゃいでたぜ


タカ:運び屋くん……ご愁傷様だな……


ガッテン:いいなぁ


鳩貴族:いやー、あまり見ない種類の果実ですがなかなか美味しいですね。


ガッテン:あれ?鳩貴族さんそっちいんの?


鳩貴族:はい。食料が来た日にバラした方が煽れる、と皆さんが言うので隠していました。


タカ:マ?後で俺んとこ来てよ。バンシー見せるから


鳩貴族:それは助かります。どうも警戒されてお腹を触らせてくれなくて……


タカ:見せるだけで触らせるとは言ってない


鳩貴族:天の石一つ


タカ:おいで


鳩貴族:ふふ


ジーク:ノータイムで値段交渉は草


ガッテン:というかマジで俺だけハブられてんじゃん……


ほっぴー:お前だけ九州なのが最高にめんどくせぇんだよなぁ


ほっぴー:まぁいいか。近々何とかして回収してやっから


ガッテン:頼むわ……


タカ:お迎えのヘリはカプコン製でいい?


ガッテン:墜落確定じゃねぇか


七色の悪魔:やたら新鮮ですねこのフルーツ


タカ:だろ?


スペルマン:ところでタカ氏


タカ:ん?


スペルマン:ちょいと、撮影の件で相談が


タカ:了解


Mortal:あの運び屋とちょっとガチ勝負やりたい


タカ:幸せな空気壊すなや


ガッテン:幸せな空気とは……


ジーク:ナチュラルなガッテンハブり


タカ:というかモータル、お前今回の旅で強くなりすぎだろ……何したんだ一体


Mortal:魔族に勝てるようになりたい。ただカーリアちゃんに切りかかるのは気が乗らないから


ガッテン:バーサーク度が上がってんじゃねぇか


Mortal:キプロスの屋敷で暴れたとき、結構神経が研ぎ澄まされた


Mortal:でもキプロスに勝てなかった


Mortal:悔しい


タカ:勝たれてたら今の状況は無いんだよなぁ……


Mortal:とにかく。運び屋と戦いたい。領域内なら上手い事やれるんじゃないの?


ほっぴー:面白そうじゃん。ちょっとかけあってみるわ。


スペルマン:じゃあ賭場のセッティングは俺がやるね。


ガッテン:おい。悪だくみへの組み込みが早すぎるだろ。


七色の悪魔:止めるべきか、貴重な息抜きとして許容すべきか……


タカ:おいそれ俺も一枚噛ませろ


ほっぴー:お前ぜってぇえげつない事にするから駄目


タカ:あぁ?コラ。喧嘩か?買うぞ?


ジーク:モータルと運び屋の戦いの後にタカとほっぴーがやりあうとこまで見えた。



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