猛襲、撤退、誘拐
「ブゴォオオオオオオオオオ!!!!」
順調にオークを屠っていると、奥の方から冒険者達の悲鳴と、オークキングらしき咆哮が響いた。
「一級保持者とタカ君、モータル君は前に!」
グレイゼルのソプラノボイスが軍勢を突き抜け、俺の耳へ届く。
「……よし、行くか」
「十分な損害は与えました!オークキングは我々に任せて、他の皆さんは後退の準備を!」
え?倒さないの?
ああいや、もしかして倒せなさそう?
……まぁどっちでも良い……訳ではないが、一旦良しとしておこう。
「悪い、ちょっと肩借りるわ!」
そう言いながら眼前の冒険者一人を踏み台に、前線へと駆け込む。
「タカ!」
見れば俺と同じように人を踏ん付け進むモータルの姿。
「モータルは取り巻き処理に回ってくれ!」
「了解!」
そう言うと再びモータルが人とオークの中へと沈んでいった。
さて、そろそろか。
「こーんにーちはー!死ね!」
挨拶代わりの通常攻撃!
「ブゴォ!?」
俺の一撃を片腕で防いだオークキング。
だが威力が予想以上だったのだろう、鈍い声をあげ後ずさった。
「来ましたか。タカ君」
「勝てなそうな感じ?」
「いえ。やれなくもないですが……」
犠牲が出る、ってか。
「何だよ!殺せるなら殺そうぜ!」
フォウムか……
「あとで素材集め手伝ってやっから黙って指示に従え!」
「ひゃっふぅ!言質取ったぞぉ!」
後でぶっ殺しとこうかな……
「ブグォォオオオ!グガァッ!」
うおっ!?
ブォン!と音を立て俺の横をオークキングの腕が通過する。
うおダメージ入った!?衝撃スキルか!?
「やるじゃねぇか……」
「おい!?当たってなかったのに何で血吐いてんだお前!?」
へへっ、やるじゃねぇかオークキング……
というかお前衝撃スキルとか持ってなかったはずじゃんか……
「タカ君、下がってください」
「はいよ」
クソが。
「これは予想よりも早めに撤退した方が良さそうですね。フォウムさん」
「はぁ?……チッ、しょうがねぇな」
フォウムが腕を空へバッと上げる。
すると、袖口からロケット花火のような物が飛び出し上空に青色の煙を噴出した。
袖の中で盛大に爆発して死ねば良かったのに。
「おい!今てめぇから殺意感じたぞ!」
「鈍いな!常に出してたぜ!」
「何でだよ!?」
そら昨晩あんだけ説得しんどかったし殺意くらい湧くわ。
「下がれ、下がれー!」
冒険者達が一斉に退いて行く。
「グレイゼルぅ!俺らの役割って何だったっけなぁ!?」
「我々は殿です。ある程度まで下がったらもう一度爆弾を使って一気に撤退します」
この期に及んで作戦を理解していないフォウムに呆れた様子すら見せず丁寧に答えるグレイゼル。
すげぇよな。あんな世紀末な見た目でこんなに礼節弁えてるんだぜ。
「了解ぃ!」「了解!」
バックステップをかましつつも近付いてきたオークを処理する。
フォウムも同様な動きで順調に下がっていく。
「もう充分じゃないか!?これ以上粘ると本隊と分断されかねない!」
「分かりました!ではフォウムさん!」
グレイゼルがハンマーで地を揺らし、周囲のオークを無理やり下がらせる。
「っしゃぁあ!爆弾一丁!」
そう叫びながら、最高に楽しそうな表情でフォウムが爆弾をぶん投げた。
警戒し下がるオークキングに、こちら側へ必死に駆けてくるグレイゼル。
そんな光景の数瞬後。爆風が俺達を吹き飛ばした。
「うぉおおおおあああああああ!!!?」
「ぐぅうッ!?」
「やっべぇ種類間違え……ぐえっ!」
色々と杜撰過ぎる。
「クッソがぁああ!フォウムてめぇ後でぶっ飛ばす!」
「実験に失敗は付き物だっつーの!」
「フォウムさん!後でギルドの待合室に来るように!」
そんな言葉を交わしつつオークの集落から撤退していく。
俺達の仕事はこのぐらいで終わりだ。
門もぶっ壊れて戦闘要員もかなり減らした。
後はこの国の軍部とやらが頑張ってくれる……はず。
そんな事を考える……というよりも祈りながら俺は、俺達は撤退していった。
「こちら、今回の報酬金です」
「どうも」
担当のギルド員から報酬を受け取り、懐に入れる。
「おら!モータル!行くぞ!」
街に帰ってきても、一息つく暇は無い。
ぼーっと突っ立っていたモータルを引き連れギルドから出ようとすると、眼前に小さな影が飛び込んできた。
「タカ!この子どこで拾ってきたんだよ!?」
あぁん?……うわやっべ預けたまんま放置してたシャノンとチンピラに串ぶっ刺したガキじゃん。
「つーか子供拾ってはエリーさんのとこに預けるのやめろよ!?どういう趣味してんだ!?」
……エリー?
「まさか名前覚えてないのか!?いっつも資料室に居るギルド員さんだよ!」
覚えるというか聞いてないというか……
「いやホラ。ちゃんと保育費用払ってるから……」
「育児放棄ってレベルじゃねぇぞ!?拾ったんならちゃんと世話しろぉ!」
「しろー!」
うっ……
「タカ、なんか前に弟子作った時も放置してなかった?」
「うっせぇ!」
分かってらぁ!お祭りで手に入れた金魚とか全く世話せずに結局他の家族に世話やらせちゃうタイプの人間だって事はよ!
「でも金魚欲しいもん!」
「なんで急に金魚の話?」
「うるせぇ!分かったよ!コイツら連れて帰る!」
連れて帰ればいいんでしょ連れて帰れば!
「お礼、したら、私は、勝手に帰る」
「……ん?」
おい、俺の聞き間違いか?
「勝手に帰る……?どこに?」
「私の、家」
へー、そっかぁ……家あるんだぁ……ふーん……
じゃあ俺のやった事、普通に誘拐じゃん?
「助けてくれモータル」
「え?何から?」
「俺の罪を代わりに被ってくれ……」
「嫌」
シンプルな答えだ。
「クソッ、おいガキ。お前の家は何処だ」
「教えちゃいけないって言ってた」
「そうだなぁ!知らない人に住所とか教えちゃ良くないなぁ!」
……ああいや、待てよ。
「お礼!お礼したいつってたよなぁ?」
「タカ、あんまり詰めよると衛兵呼ばれるよ」
黙ってろ。
「君の家、教えて貰えるかな?」
「衛兵さーん!」
「おい誰だ今衛兵呼んだ奴!ぶっ殺すぞ!俺は迷子の女の子を家に送り届ける正義の味方だぞ!尊敬しろ!」
尊敬だけは有り得ない……って小声で呟いたヤツ居たな?後で特定してやっからなァ……?
「んー、じゃあ案内する、付いてきて!」
「おお、助かる」
良し、親御さんに会ったらチンピラに捕まってたから取り返してきてあげましたよ、と恩を押し売る。勢いと笑顔で誤魔化すぞ。
「タカー、なんか色々考えてるっぽいけど多分思い通りには行かないと思うよ」
モータルの言葉に、横に居るシャノンがうんうんと頷く。
ふざけんな。俺はガチャ引けない代わりにこういうとこに運を全振りした男だぞ。
いけねぇはずがねぇ。絶対に穏便に済ましてみせる。
……絶対にだ!