廃材アート
「もう二度とやらねぇ!」
びしょ濡れになった衣服を床に脱ぎ捨てながら、俺はそう叫んだ。
「頭おかしいヤツしかいねぇじゃねぇか!?どうなってんだこの街はッ!」
俺はブーザーとかいう酔っ払い野郎の後も、二名ほどの駆除区分一級保持者の説得に向かった……というか向かわされたのだが、その二名もまぁ滅茶苦茶な奴らで、最後の一人に至っては水をぶっ掛けられた。あいつマジで許さん。
「はぁああ……」
ここまでやったんだ。明日のオーク討伐をサボろうもんなら目に物を見せてやる。
というかちょっと脅しただけで素直に従ったあの酔っ払いはかなりマシな部類だった。
だからといってあの酔っ払いに対してプラスのイメージを持つなんて事は絶対に無いが。
「晩飯奢る暇もねぇ……」
俺は身体についた水を布で拭い終えたところでベッドに飛び込み、そのまま眠りに落ちた。
部屋に朝日が入り込み、俺の意識が次第に目覚めていく。
「あぁー……そうか。今日か」
身体的にも精神的にもしんどい。
だがやると明言した以上サボる訳には……あぁ畜生やっぱしんどいなぁ。
「サクっと終わらせる……なんてのが出来る面子でもねぇか」
昨晩雑に床に放っておいた衣服がそれなりに乾いているのを確認した後、不快な思いをしつつもそれを着用する。
そして荷物をまとめた鞄を背負い、モータルを起こすべく部屋を出た。
「タカ、あれじゃね?」
「えぇ……またあの決起集会みたいなのやるのか?」
どこかデジャヴを覚えるその光景。
群がる冒険者達に、台の上に乗った……グレイゼルさんか、アレは。
「おお、タカ君にモータル君。君達には期待していますよ」
わざわざ声とかかけなくていいんで。
「さて君達。今回は二級以上の者だけで集まって貰った訳ですが……実は、既に駆除区分三級パーティー数組と、二級のパーティー一組がオークの集落へ向かっています。目指しているのは集落の裏手の山からの奇襲です」
なるほど。挟み撃ちの形にする訳か。
つっても裏手の戦力が妙にしょぼいな。
「おっと、言い忘れていました。我々は、今回で全てのオークを倒そうなどとは思っていません。裏手の戦力は有る程度集落を混乱させたら後退するよう指示してありますよ。正面から突入する我々も、優勢の内に撤退します」
「おうおう、天下のギルドサマがやけに弱気じゃねぇかよぉ……ひっ、へへ……」
人ごみの前方から明らかに泥酔した様子の声が聞こえてくる。
アイツ……依頼当日に酒飲んでやがるのか……
「良いんです。残りは国の軍部がやる手筈になっています」
「あぁ!?いつからギルドは国の犬になったんだァ!?」
前方から今度は若い男の怒声が聞こえてきた。
アイツは昨日の……
「……優勢の内に撤退、と言いました。ですがもし、貴方方が危なげなくオークを全滅させられる、というのなら撤退の必要は無くなるかもしれませんね」
「は、はは!だよなぁ!?聞いたかてめぇら!軍部なんか必要ねぇ!俺らでオークを全滅させてやろう!」
そう言って台の上によじ登り、観衆に向け叫ぶその男。
俺が昨晩会った内の一人……駆除区分一級、そして研究区分一級の危険人物。フォウムである。
先ほどのやり取りの一部は、ヤツの用意した台本だ。
見ての通り、妙に国家やら政府というものに反抗心を抱いており、この茶番を許容する事を条件として、ようやく討伐隊に参加して貰うことになったのだが……
「周りドン引きだぞ……後々、不和を招く原因にならなきゃいいが」
そこで、ふと気になり背伸びをし前方を確認しようとするが、人に阻まれ上手く見えなかった。
「あともう一人……来てる、よな?」
そんな一抹の不安を抱いたまま、集団は次第に街の外へと動き始めた。
「なあ」
「どうしたアルド」
「どうしたっつーか、え?俺さ、普通裏手の方の奇襲組に配属されるんじゃないの?」
「俺も思う」
「お前も思うの!?じゃあなんで!?」
忖度が招いた不幸な結果、かなぁ。
「なんだよその哀れむような顔は……」
「まぁ後ろの方でわいわいやってりゃ一体くらい掠め取れるかもよ」
「いやまぁ、初回はそういうの狙ってたけどよ……今回に限ってはガチな感じじゃねぇか……俺空気読んで後ろで置き物になっとくからな……?」
まぁその辺はアルドの自由だし俺は特に何も言わんぞ。
……
「前も思ったけど、移動中暇だな……」
「いや俺ばっかに構ってねぇで他の奴らとも繋がり持っとけよ」
「なんか避けられてんだよ」
「……じゃあホラ、あの前方の一級保持者と」
「そんなに言うんだったらアルドが先に行ってこい」
俺がそう言うと、アルドは、冗談キツいぜ、みたいな顔で俺を見た。
こっちだって冗談キツいぜ。
「ま、まぁ仕方ないな。移動中は適当にくっちゃべっとこう」
「いやぁアルドくん話が分かるぅ」
そうやって俺はアルドくんとくっちゃべり、到着まで時間を潰した。
前方から何やら伝令が届いた。
「集落が近い。集落の方が騒ぎ出すまで息を潜めてじりじり前進する……ね」
チラリと横を見ると、緊張したような硬い表情のアルド。
「……いざとなったらズラかりゃいい話じゃねぇか。もっと自然体で行け」
「お前な……」
俺の言葉に、アルドが呆れたような視線を返した後、ふう、と深く息を吐いた。
「まぁ、俺なりに頑張るさ」
良きパワーレベリングを。
俺はニヤリと笑ってサムズアップした。
「ブゴォオオオオオオオオ!!!」
十傑にとっては聞き慣れたその咆哮。
その咆哮に怯む程度の実力の者は……
「よし!行こう!タカ!」
居なかった。
冒険者達が動き出す、それと同時に前方で爆破音が響く。
「はっはー!特製の爆弾だ豚野郎共ォ!」
前方で何やら自慢げに叫ぶ人物がいる。おそらくフォウムだろう。
やっぱ危険極まりないわアイツ。
「行け行け行けぇ!ぶっ殺せぇ!」
「ブゴォオオオオオ!」
最前線の冒険者達が壊れた柵を踏みつけ、飛び越え、オークの集落へ突入する。
「ひーっ、ひゃひゃ、はは!」
時折聞こえる不快な笑い声は、ブーザーか。
「……アイツ、酒瓶で戦ってねぇか」
嘘だろ。
いややっぱ酒瓶じゃねぇか!?はぁ!?アホなのあいつ!?
というか何で普通に戦えてんの!?もしかして酒瓶型の特注武器……ああいや、割れて別の瓶に持ち変えた。
「ひゅー!ブーザーさんの無限の酒瓶だァ!」
「え?何?有名なの?」
思わず、付近の冒険者に聞く。
すると呆れたような様子でこう返して来た。
「知らねぇのか!?あのブーザーさんのバッグにゃこれまで飲んできた酒の瓶が大量に詰まってるって話だぜ!」
……ちょっと待て。大量に酒瓶が詰まってる?そんな風には見えないぞ、あのバッグ。
いや、まさか、な。
だって魔族つってたし。
あの飲んだくれが運び屋?……な訳、ない、よな?
え、そうだったらかなり困るんだが?