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義務にされるとサボりたくなるやつ










「さあ、アルド。遠慮なく好きな剣を持って行くといい」


 モータルの部屋。

 そこにズラリと並べられた業物の数々を前に、アルドは呆然と立ち尽くしていた。


「あ、ああ……どんどんズブズブの関係に……逃げられねぇ……」


「人聞きが悪いなぁ。俺はお前の才能と将来性に期待してるんだよ」


 まぁもしこの世界が聖樹の国の魔物使いの世界に準拠しているのなら、戦闘に関する才能という点においては皆が平等なはずだが。


「タカ、マジでオーク討伐こねぇの?」


「ん?ああ。だって駆除区分一級とかいうのが数人来るらしいじゃねぇか」


「確実じゃない上に指示にしっかり従うか謎だってさ」


「俺らも一緒じゃん」


 そもそもの話、俺は駆除区分が二級になれば色々と厄介事が省けるな、と思ったから二級になりたかったんだ。

 厄介事避ける為に厄介事に巻き込まれてりゃ世話ないだろ。


「グレイゼルさんにはどう話すつもりなんだ?」


「そりゃあ、アレだよ。意味深な感じで、アイツ、嫌な予感がするとか何とか言って一人で勝手に……みたいな?」


「俺らが話す側かよ!?」


「そらそうだろ。中身ペラッペラな嘘なんだから、渡す情報もペラい方が良い」


「流石に手馴れてんな……」


「おや?アルド君は錆びついた剣をご所望かな?」


「勘弁してくれ!」


 慌てて剣選びに戻ったアルドを満足げに眺める。


「よし。じゃあモータル任せたぞ」


「何を?」


「ん?ほら、オーク討伐とか、俺に関する事とか色々。俺はちょっと今晩の飯屋の下見だ」


 じゃあ、と俺は二人に向け片手をあげた後、意気揚々と扉を開けた。


 そして扉を開けた俺の眼前には宿の廊下、という風景が広がる――はず、だったのだが。


「……ぐ、グレイゼルさん……どうも……」


「急ぎの用ですか?」


「え、ええ、まあ」


「もしかして……砦に向かうのですか?」


 砦!?


 なんでコイツが知ってるんだ!?


「いやいや。止めはしませんよ。明日のオーク討伐にしっかり・・・・来るのなら」


 うっげぇ!?釘刺された!


「嫌だなぁグレイゼルさん。俺がそんな事する訳ないじゃないですか。よほどの事態じゃなきゃしっかり行きますって」


「それは良かった。タカさんが、嫌な予感がどうたらと言ってギルドからの強制参加依頼を蹴るほどいい加減な人間ではなくて」


「言われてるぞタカ」


「言われてねぇよ」


 つーかモータル。ぬっと出てくんじゃねぇよ。びっくりしただろうが。


「……はあ。まあこの分なら貴方方は来ていただけるでしょうけど……問題は他、ですね」


「どういう事だ?」


 俺の問いに、グレイゼルが眉間にしわを寄せながら、深く溜め息をついた。


「そうですね……まあ、話しましょうか。この国……というか人族の国全てが魔族の国との戦争状態にある事はご存知ですよね?」


「ああ」


「これに当たり、要人保護の依頼中である者を除き、駆除区分二級以上……特に一級以上に関してはほぼ強制的に戦地へ行かされているのです」


「おいおい、そんな事してここの防衛は大丈夫なのか?」


「ええ。一人、駆除区分特級の男が残って居ますから。多少の軍隊が来たところでビクともしません・・・・・・・・よ」


 何だ、そりゃ……


「一人いるだけで軍隊を?グレイゼルさん、そりゃ流石に……」


「出来るんですよ。出来る。出来ないはずがない」


 そう断言して譲らないグレイゼルに、思わず押し黙る。


「鍛錬して強くなるだとか、そういう次元の強さではないのですよ。彼らは。区分はどうあれ、特級という存在は決して、ただ一級の一つ上、というような単純なランク付けではない。数値に表せないほどの力、または叡智、はたまた――唯一無二のスキル。それらを持つ者だけが特級になる。いずれにせよ言える事は、特級の連中は――」


 そこでグレイゼルがチラリと、虚空に、畏怖の篭った視線を送りながら、言葉を吐いた。


「逸している。常軌を」


「言われてるぞタカ」


「言われてねぇっつってんだろ!?」


 だいたい俺は二級ですしぃ!?

 俺みたいな常識人が常軌を逸するような事なんてありませんしぃ!?


「ははは……本題に戻りましょうか」


「ノーコメントか!?なぁ!?俺には言ってないだろ!?だって俺常識人だもんなぁ!?」


「かなり脇道に逸れましたが、私が言いたかった事は、駆除区分一級ならば、普通は戦地に赴いているという事なんです」


 えーと……するってぇとつまり?


「素行悪いのしか残ってない、みたいな?」


「そういう事になります」


「良かったなタカ。友達になれそうじゃん」


 俺はモータルの口を塞ぎつつ、顔を引き攣らせる。


「て事は、さっきみたいな説得を他の一級の奴らにもやる、と?」


「はい。それでその、非常に申し訳ないのですが……説得を手伝って頂けますか。勿論、成功失敗に関わらず報酬はあります」


 報酬はあります、なんて言われてもねぇ。


「いったいいくらだ?」


「いえ、金ではなく……資料室の本の貸し出しの権利、でどうでしょう」


 ……へぇ、いいね。









 スラム街にギリ入るか入らないかの絶妙なラインに、そいつの家はあった。


「アレですか」


「ええ」


「随分ボロいな……一級って意外と儲からねぇのか?」


「依頼をやらなければ報酬は出ませんから」


 世知がらいねぇ。

 国から補助金のひとつやふたつ、くれても良いんじゃないの。


「実力主義ですからね。さて……ブーザー!五秒以内にそこから出てこなければ家をハンマーで砕きますよ!」


 それと同時にブォン、と風切り音をたてながらグレイゼルがハンマーを構えた。


「あ、粗いな……」


 そう言って横を見れば、剣を構えたモータル……お前は構えなくていいから。早く武器をおろせ。


「んだぁテメェ!この俺を誰だと思ってやがるゥ!」


 ドカーン!と派手に扉を蹴飛ばし、あの家の住人らしき男がグレイゼルの前に躍り出る。

 というか自分から家を破壊していくのか……


「相変わらず悪酔いが目につきますね」


「あぁ!?……っけ、グレイゼルか。何の用だ」


「明日はオーク討伐ですが。分かっていますよね?来なければまた……」


「げっ……ちょ、ま、勘弁してくれよグレイゼルさぁん……」


 途端に態度を豹変させ、くねくねと腰を動かしながらグレイゼルに擦り寄る――赤ら顔の中年男。


「……おい、アレ本当に戦力になんのか?」


「さあ?」


 勘弁してくれ……


「よし、この男はこれで良いでしょう。次行きますよ」


「へ、へへっ、靴お舐め致しましょうかグレイゼルさぁん……」


「頭蓋を踏み砕かれたくなければさっさと家に戻って、明日の準備をして寝なさい」


「あいあいさー!……うっへへぇ」


 千鳥足でオンボロハウスへと帰っていった男――確か、「ブーザー」だったか――の背中を見て、グレイゼルが特大の溜め息をつく。


「次、行きましょうか」


「あー……グレイゼルさん。もしかして次もさっきと同レベル?」


「そうならもっと手早く済むんですがねぇ」


 ひゅー!最低だぜ!帰りてぇ!




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