お礼
「お礼、させろー」
「ええい鬱陶しいッ!」
あれから数十分後。
早々に対話を諦めた俺は、未だにカタコト赤髪少女から粘着されていた。
「要らん世話だっつってんだろ!?」
「やられたらやりかえすのは鉄則」
用法間違ってるしさぁ……
「……はあ」
駄目だこりゃ。
あのギルド員さんに丸投げしよう。
「お礼ー!」
「分かった、分かった。じゃあお礼をして貰おうか」
それからとりあえずボスの屋敷の門番にお礼の言伝を頼んだ俺は、少女に、お礼として「資料室で寂しげにしてる女の人の気を紛らわせてあげる」事を提示し、体よくギルド員さんにお守りをさせるべくギルドの資料室に来ていた。
「これなにー?」
「えぇと、それは……」
「魔狼だなそいつは」
どうも資料室専属らしいギルド員と俺で先ほどの少女の両隣の席を埋めつつ、少女の質問に答えていく。
少女は字が読めないのか、盛んにイラストを指差し、説明をせがんでくる。
「あ!じゃあこれ!」
「これは……レプラコーンですね。数十年前の記録を最後に、1匹たりとも見つかっていません」
「レプラコーンかぁ……見かけたら高火力ぶっぱか拘束してチクチクやってたなぁ」
「……?」
「ああいや、ちょっとこっちの話……というか伝承というか」
ギルド員さんに訝しげな視線を投げかけられ、慌てて誤魔化す。
それにしても懐かしい。
レプラコーン。
ゲーム時代では有用な金づるモンスターとして人気だった。
人気、というかプレイヤー10人しかいないんだから人気も人気もねぇだろというツッコミはさておき。
レプラコーンは殴る度に金を落とし、倒した際にも金を落とす。
だがその倒した際に出る額は、戦闘中の攻撃を平均した際の、一発の火力の大きさに比例していた。
その為、レプラコーンでの金稼ぎは二通りに分かれる。
逃走されないようスタン系のスキルをかけつつ、火力の低い攻撃でチクチクとやるか、出会い頭に最高火力をぶつけるか。
理論上はチクチクやる方が儲けられるのだが、そこにかかる労力を考えると、やはり出会い頭に火力ぶっぱの方が効率が良いようにも思える。
「……タカ、さん?」
「っと、ボーっとしてた。ん?まだレプラコーンのページ見てんのか」
「知り合いと似てる!」
「……へぇ」
て事はその知り合いイケメンかよ。クソが。
……ああ、そうだ。後回しにする予定だったが、今の内に済ませておこう。
「ギルド員さん、昨晩頼んだ、この街の外にある廃墟となった砦についての資料の話なんだが」
「あっ、そうでした!えぇと確か……」
俺の言葉に、ギルド員がわたわたと資料室を出て行く。
自分のロッカーにでも確保しておいたのだろうか?……いいのかそれ。
「とりで……?」
「ん?あー、お前には関係無い話だな」
「んーん!だめ!」
そう言うと少女は頬をぷくっと膨らませ俺に串を刺そうとしてきた。
「危ねぇ!?ってかまだその串持ってたのかよ!?」
「ぜったい、だめ!」
「……何が駄目なんだよ」
「とりでは行っちゃ、めっ!」
なるほどね。
「分かった、分かった」
少し機嫌が悪くなった少女を適当にあやしてやっていると、ばたばたと慌しい足取りでギルド員さんが戻ってきた。
「す、すみません!遅れました!こちらです!」
「助かる」
タイトルすらない質素な冊子のページをめくる。
どうも砦がまだ使われていた頃の地図のようだ。
「アンデッドの発生が原因で放棄されたんだったか」
「はい」
「……これは借りて行っても?」
「あ、はい。廃棄処分される物を私が引き取っただけなので」
有能かよ。
「なるべく傷つけないようにする。じゃあ、ちょっと用事があるんで俺はこれで」
さあて、何となく思い立って……というかほっぴーの話を聞いてオークキング討伐のモチベが減退した俺が考えた「逃げの一手」な訳だが……
また別の厄介なモノと相手取るはめになる気がプンプンする。
「いや、流石に無いだろ……」
俺の運が悪いのはガチャの時だけだ。
多分。
いやだってそうじゃないと色々と割に合わない。
「一旦宿に戻るか」
タカ:一旦挨拶まわり終わり
ほっぴー:おつ
ガッテン:お、ほっぴー居たのか。ちょうど良かった
ガッテン:そっちの避難民の受け入れ態勢ってどうなってんの
ほっぴー:概ね潤滑にいってる。人が思ったよりは増えてないからな
ほっぴー:移動がキツいんだろうな
ほっぴー:結構な数が途中で死んでるぜ、多分
ガッテン:それは
ガッテン:何と言うか
ガッテン:つらい、な
ほっぴー:何気遣ってんだキモいわ殺すぞ
ジーク:草
ほっぴー:あっ、ジーク。仕事終わったか?
ジーク:終わってない
ほっぴー:あークソ。人員増やすか……
七色の悪魔:人員を集めたり育成するのにも人員が要るんですよねぇ
ほっぴー:悪魔さん、負担かけてごめんな
七色の悪魔:いえいえ
タカ:大変そう(小並感)
ほっぴー:てめぇ帰ってきたら死ぬほどコキ使ってやっからな
タカ:おいおいおいおい。まるで俺が仕事サボってるみたいな言い方やめろよ
ジーク:タカの言い訳長文一丁ォ!
スペルマン:い つ も の
タカ:やりづらいわ
ほっぴー:どうせ「異世界出張」という「仕事」を24時間体制でやってる、みたいな意味の事を長ったらしくそれらしく言うつもりだったんだろ?
ジーク:嫌味たっぷりで草
タカ:実際そうじゃん
ほっぴー:まあ、そうだね
ほっぴー:でも、君、異世界行く前、素で仕事サボってたよね?
ほっぴー:その分、ちゃんと仕事して(はぁと
タカ:異世界 亡命 検索
タカ:いくつかソレっぽいサイトあって草
ジーク:草
スペルマン:そマ?俺も亡命したい
ガッテン:絶対詐欺サイトだろ……
ほっぴー:こんな災害起きても元気にダミーサイト作って遊んでるやつ居るんだな……
タカ:クールジャパンすこ
ガッテン:薄ら寒さしか感じないんですがそれは
「タカー」
「ん?」
扉越しにくぐもった声が届く。
「モータルか」
扉を開けた先に居たのは、荷物を抱えたモータルと横でげっそりとしているアルドだった。
「疲れた……」
「おう、おつかれ。んで明日のオーク討伐なんだが……お前らだけで行ってくれるか?」
「おう……はぁああ!?!!?何言ってんだお前!?」
「俺は俺で用事が出来てな」
いやいや、と首を横に振りつつ俺から逃げようとするアルドの肩に手を回し、耳元に囁く。
「今晩も旨い飯、食いたくないか?」
「あ、あうあ……」
あまりの葛藤の激しさに語彙が消失し、唸り声しか出さなくなったアルドをモータルに押し付けると、俺は明日の臨時パーティーの面子を募集すべくギルドへと向かった。