狂人と豚人
待たせて申し訳ない……!
今日から連日更新再開です!
「ブゴッ……」
モータルの一閃でオークの首がすっぱりと断たれる。
「タカ。どうする?何か俺ら二人しかまともに戦ってないっぽいけど」
「いや、俺らが突っ込み過ぎただけで待ってりゃ来る……はず」
実際に、冒険者達はじわじわオークの数を減らしつつも俺とモータルの位置まで到達しつつあった。
「……何で飛び出してきたんだろうなコイツら」
正面にやってきたオークの腹を掻っ捌きつつ、そう呟く。
「知らね」
「そういや司令塔どうするよ。この人数でレイド戦とか初めてだから俺じゃ無理だぞ」
「俺司令塔とかやった事ない」
そりゃそうか。
「ほっぴーが居りゃ……うお!?」
俺達のすぐ横を吹き飛ばされていった一匹のオーク。
その飛んできた方向を見れば、巨大なハンマーを構えた筋骨隆々のモヒカン男が一人。
「困りますね」
そして響く謎のソプラノボイス。
「……え?」
寄ってきたオークの脳天をカチ割りつつこちらへ近づいてくるその大男。
「結果として現場の士気は向上しましたが、先ほどのような独断専行は、罰則の対象です」
そして再び響く謎のソプラノボイス。
「……」
いや、その声は既に出所不明とは言えなくなっている。
認めたくないが、この声は――
「聞いていますか」
眼前の世紀末チックな見た目の大男から発せられている物だった。
「は、はい」
「ならばよろしい。では……」
そこで大男がハンマーを構え直す。
「このままでは我々はオークに包囲され、数の暴力に押しつぶされます。貴方達ならば、個人で逃げる事も可能かと思われますが――どうするご予定で?」
俺はその問いを聞くなり笑った。
「ははは。見りゃ分かるだろ?敵の司令塔らしきオークを潰す。そんでもってまぁ……混乱の隙突いて撤退だな」
大男は、俺の言葉に、ゆっくりと息を吐く。
「……分かりました。では微力ながら、助力を」
どの口で微力とか言ってんだ、という言葉を飲み込み頷く。
俺の意思を確認した大男は、そのままレイドボスの居る方向へとハンマーを構え疾走していった。
「もうアイツ一人で何とかなるんじゃねぇのかな……」
先ほどまでは、無双する俺達に恐怖を覚えたのか、あまり寄ってこなかったオークだったが、流石に指揮官であるオークキングの方へ向かうとなると話は別らしい。
「普通に攻めあぐねてんな……」
俺は紙装甲だ。
だから、オークからタコ殴りにされれば普通に死ぬ。
「あの高音大男がタンクじゃなきゃ無理だったなコレ……」
モータルならそこそこ耐久はあるが、火力が不足している。
範囲攻撃の手段もほぼ持っていない。
プレイヤーをキルするのに、レイド戦用の大火力スキルや広範囲殲滅系のスキルなど必要ないからだ。
あまり考えずに突撃してしまったが、眼前でハンマーを振るいオークを蹴散らす大男が居なければ、俺達は早々に撤退する事となっていたに違いない。
「ふむ。タカさん」
「何ですか?」
「ちょっと厳しいですね」
畜生、やっぱ厳しいか。
「ただ、我々の奮闘もあって、撤退は犠牲者が少ないままやれそうです。我々も機を窺い、離脱しましょう」
「了解」
「指示しますので今は少しずつ戦線を下げましょう」
大男が地面にハンマーを叩きつける。
それだけの動作で地は震え、周囲のオークがたたらを踏んだ。
「ふん……ッ!」
その飛び出た身体にハンマーが叩きつけられ周囲のオークを砕く。
その間、俺とモータルも後方のオークを屠り、退路を確保する。
「退路確保したぞ!……あー、えっと」
「グレイゼルです」
高音大男改めグレイゼルが、オークを蹴散らしつつこちらへ向かってくる。
「グレイゼルさん、このままじゃ大勢のオーク引き連れたまんま本隊と合流する事になるけど、大丈夫なのか?」
「ええ。本隊にはそれなりの腕の魔術師が居ます。おそらくこっちの様子を察して……」
グレイゼルの視線の先には、おそらくパーティーを組んでいるのであろう四人組。
「連れてきたオークを一気に、ってか?」
「はい」
なるほど。
「伏せろーーーーッ!」
前方のパーティーの内、タンク職らしき重鎧の男の叫び声が響き、慌てて伏せる。
伏せた俺達の背のすぐ上を巨大な炎が通過していき、後方のオークの群れの中心部で爆ぜた。
「うわっぷ!汚ねぇ!」
身体に付着したオークの肉片をはらいつつ立ち上がる。
「引き上げますよ!」
その声緊張が抜けるからやめてくれ。
深追いは不味いと思ったのか、無事、オーク達は途中で集落の方へ引き返していった。
「やっと戻ってきたか」
アルドがこちらに向け手をあげてきたので、オークの肉片まみれの手でハイタッチをしてやった。
「おまっ!ふざけんな!汚っねぇ!」
「わはははは!」
「……お前らみたいなのが居てもリーダー格の撃破は無理だったのか」
「そりゃな。数の暴力ってやべぇよ」
やっぱ戦争は数だぜ。
「タカー」
「ん?」
「グレイゼルが呼んでた」
「おう、分かった」
俺の返答に満足したのか、モータルは再び人ごみの中へと戻っていった。
……あれ?もしかしてモータル、もう冒険者の方々と打ち解けた感じなの?
何で?言っちゃ何だけどアイツやべぇよ?
「タカ。お前が何を考えてるかはだいたい分かるが……正直、お前の方が人としてやばいからな」
嘘だッ!!!!!
その後、アルドくんと適当に駄弁った後、グレイゼルの元へと向かう。
「やっぱでかいと分かりやすいなぁ」
でかいから分かりやすい。
そう、決して、人ごみが、俺を避けるようにして分かれ、道が出来てるからではない。
「グレイゼルさん」
「ああ。待っていました」
俺と目が合ったグレイゼルさんがにこりと微笑む。
「既にモータル君には言ってあるのですが……今回の功績を称し、駆除区分二級に昇進させようかな、と」
「おお」
色々と動きやすくなるし、かなり助かる。
「この話、引き受けてくれますよね?」
「はい。勿論」
「助かります。では街に着いたら受付カウンターにて、私の名前を出して頂ければ手続きを致しますので」
「分かりました」
俺は礼儀を弁えた常識人なのでそれはもう丁寧に頭を下げた。
おい、何だそのどよめきは。
ギルドでしっかり話聞かせて貰うからな。
タカ:帰宅
ほっぴー:お疲れ
スペルマン:おつー
タカ:オークキングとエンカウントしたわ
ほっぴー:爆死した?
ジーク:会話のすっ飛ばし方で草
タカ:まず倒せてねぇよ
ほっぴー:雑魚乙wwwwwwwwwww
タカ:ぶっ殺すぞ
ジーク:草
スペルマン:え?現地だと強化入るとかあるの?
タカ:数だよ、数
タカ:取り巻きの数がおかしい
タカ:近づけねぇ
ほっぴー:あー
ほっぴー:無策で突っ込むのはアホ
タカ:司令塔がなぁ
ほっぴー:分断くらいやろうとしたよな?
タカ:……
ほっぴー:……
ジーク:えぇ……
ほっぴー:お前もうレイドやるのやめとけ……
タカ:はい……
Mortal:え?何かオークキング討伐隊に組み込まれてたよ?
タカ:え?
ほっぴー:お前……
ジーク:もっとちゃんと人の話聞いとけ定期