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討伐依頼


 程よい喧騒に包まれた店内。

 窓際の席に陣取った俺達は、粗く味付けされた肉にかぶり付きながら今後の予定を話し合っていた。


「依頼つったけど……この近辺だと魔狼討伐くらいのもんだろ?」


「肉うめー!」


「話を聞けガキ……あとモータル」


 俺に名指しされたモータルは、飯にがっつき顔をあげないまま手だけでオッケーサインを返してきた。


 まあ、いいか。聞いてるなら。


「ガキ。確かお前、駆除区分四級、だったか」


「あんまガキガキ言うなよ!俺にはシャノンって名前がある!」


「分かった、分かった」


 確かギルドの等級区分は、雑用、駆除、調査……あと研究もあるんだったか?


 俺らがやれるのは雑用と駆除だとして……


「……先に雑用依頼やった方が良いかもな。顔見知りも作れる」


「え?タカ、あんまり人に顔バレするとまずいんじゃないの?」


「ナチュラルな犯罪者扱いはやめてくれ」


 なんだ顔バレって。

 俺はまだ何もやってないぞ。


「なーなー、こんな金持ってたら依頼とかやんなくても良いんじゃねーの」


「クエストがあったらやりたくなるのが俺らなんだよ」


 腐ってもゲーマーだ。

 異世界にギルドとあれば、多少なりともクエストをやる。そういうもんだ。


「ふーん。まあいっか。じゃあ俺が割りの良い依頼の探し方教えてやるよ!」


「んー……じゃ、頼むわ」


「よーし!任せとけ!」


 そう言って意気込むガキ……シャノンを、眺めつつ、俺は残り六日間の予定をどうするか考えていた。










 今日のギルドはやけにざわついていた。

 

 まあ、正直、ここに来るのは二度目なので前回が静か過ぎた可能性もあるのだが。


「なんだこの騒ぎ?」


「あっ、おい!」


 シャノンが人ごみをスイスイと避けて、騒ぎの中心らしき所に向かっていった。


「……まあ、いいか」


 暫くモータルと一緒に待っていると、シャノンが戻ってきた。


「オークの集落が見つかったんだって」


「マジかよ」


 オークか。

 スキル上げの事を考えると是非とも魔石が欲しいところだが……


「等級は?」


「駆除区分三級以上、推奨」


「推奨って事はそれ未満でも参加は可能って事か」


 いやぁ、初日に資料漁りをやったのは正解だったな。

 こうやって学んだ言葉が出てくると……何と言えばいいのやら。

 あー、アレだ。「あ!これ進研ゼミで出たところだ!」感がある。


「タカ、やろうぜ」


「受付員にはあまり良い顔はされないだろうけど……まあ、いい。やるか」


「え?やるの?」


「……シャノンは宿で留守番かなぁ……」


「なんで!?やだよ!」


 いや、待てよ。

 

「じゃあ、アレだ。別の使命をやる。資料室で勉強してろ」


「……文字の勉強?でも俺、最低限の読み書きくらいできるぜ?」


「もっと上のレベルを目指すんだ。来い。押しに弱そうなギルド員を一人知ってる」


「えぇ……」


 えー、じゃない!


 悪いが人を守りつつ戦った経験なんて俺らにゃ無いんだよ!









 先ほどとは打って変わって静かさを保っている資料室。

 その端に、昨日と同じギルド員の姿を見つけ、俺は笑顔で近寄っていった。


「いやぁ、お久しぶりです」


「は、はい!お久しぶり……です、かね?」


 仕事中は眼鏡を外しているらしい、そのギルド員は、俺がある程度距離を詰めてからようやく気が付いたらしく、顔に喜色を浮かべ、こちらに話しかけてきた。


「あ、ああ!先日の!い、いやその、またお会いするって言われたので、ちょっとシフトを変更して貰ってて!いや別に大半のシフトは私になってるんですけど、ええ、ああ、まあ、その」


 急に早口で巻くし立てられ、「なんだこの人……」となった俺は、早々に本題に移る事にした。


「おい、シャノン」


「んー?」


 近寄ってきたシャノンをがっちり掴んでギルド員の前に突き出す。


「ちょっと俺達が戻ってくるまでの間、コイツの事見ててやってくれませんか」


「え!?あ、はい……えと、子持ち、なんですか?」


「違います」


 即座に否定しつつ、グイとシャノンを更に突き出す。


「出来れば読み書きの方も教えてやってくれると助かります」


「……わ、分かりましたぁ!」


 よっしゃ。

 やっぱチョロかった。


 ガキの押し付けに成功した俺は、資料室にガキを残し、一階へと降りた。




「タカ。ほらコレ」


「おう」


 俺がガキを押し付けにいっている間に、モータルに任せていたオーク討伐の依頼の受注は、既に済んでいた。


「なんか、受注者の集会があるってさー。広場に行け、って」


 ……あー、そうか。オーク討伐、じゃなくてオーク集落の処理だったな。

 そういう形式のクエストか。面倒だな……










 数分後。

 武器を携えた者達でごった返した広場の中心に設置された御立ち台に、ギルド員の制服を着た男が立つ。


「えー、まずは駆除区分三級未満の者。前に固まりなさい」


 言われて俺とモータルが前に出る。


「……8人か。はーあ、お前達馬鹿共には、他の人員が狩り損ねたオークの討伐という役を振る」


 そこで、後ろの冒険者達から少なくない嘲笑が漏れる。


 俺としては、まあごもっとも、という感じはするので特に不快感は抱かなかった。

 だが、他の6人はどうも違ったらしく。


「馬鹿にするな!」「そうだ!俺達も本隊に入れろ!」


 等と騒ぎ始めた。


 あー、何と言うか。

 それに便乗した立場なため、言い辛いが……何故、等級を必須要項にしなかったのか……


「やかましい!黙って従え!ギルド登録権を剥奪するぞ!」


「そうだ、そうだ!黙れー!」


 ギルド員さんの怒号に合わせて野次をとばすと、六人から凄い目で見られた。


 いや、違うんだって。他の人の野次に紛れると思ったんだよ。


「……まあ、いい。出発だ。先導は、元・駆除区分一級のギルド員が行う!お前らは最後尾だ!……よし、進め!」


 そんなギルド員がいるのか。そいつも戦うって事なのか?


 等と心の中で考えていると、集団が動き出した。


「タカ。隙あらば煽る癖やめよう」


「そんな癖はない」


 失敬な。


 平和の擬人化とまで言われた俺に何てことを。


 いや、まあ、言われた事ないから自称なんだけど。


「おい、お前」


 そんな事をぼやきながら集団に付いていっていると、先ほど御立ち台に居たギルド員が話しかけてきた。


「何でしょう」


「今回、等級を推奨にしたのは、お前達の事があるからだ。多少おまけで馬鹿が付いてきてでも、早急にお前らの等級を上げてやれとのお達しでな」


 何それ怖い。


 とは言え、俺は礼儀正しい男なのできっちり頭を下げお礼を言った。


「ありがとうございます」


「……」


 なんで無言なんだよ。


「……その反応をするって事はどっから圧力がきたか分かってるって事か……はあ、何なんだ。スラムで用心棒でもやってたのか?」


 圧力……スラムで用心棒……


 あー……そう言えばモータルの報酬の話の後に、ギルドカード再発行の話をしたような……


 マジかよあいつら……ギルドにまで影響力持ってんのか。



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