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盗賊捕獲

「どうだ。美味いか?」


「……おいしい」


 わたあめを頬張るガキとモータルを連れ、公園のような場所のベンチに座る。


「じゃあ、キプロスにはちゃんと報告してくれるよな」


「……それの事なんだけどさ」


 俺から視線を逸らしつつ、ガキが言葉を続ける。


「俺、元々キプロスんとこから宝石盗んでさ……それで追われてたんだけど」


「とんだ悪ガキだな。盗んだ金で食う飯が美味いと思ってんのか?」


「お前にだけは言われたくねぇ!……そ、それでさ、俺は本来ならお仕置き……下手すれば殺されるはずだったんだ。でも、キプロスが荒らされた部屋を見て呆然としてる時に俺が、犯人が誰か分かる!捕まえてこれる!ってアピールしたから一時的にだけど解放して貰えた」


 するってぇと……つまりは。


「犯人を見つけないと殺される?」


「……うん」


 ふむ。


「なら話は簡単だ。他の犯人を捜せばいい」


「は?ど、どういう事だよ、それ」


 どうもこうも無い。そのままの意味だ。


「この街は悪人が多いみたいでなぁ。いやぁ、本当に怖い」


「なあ、キプロス潰せば解決じゃね?」


「かーっ、聞いたか?これが悪人だ」


「……」


 無言で呆れたような視線を返したガキの二の腕をつねりつつ立ち上がる。


「よっしゃ、クソガキ、モータル。捜索だ……盗人っぽい奴とっ捕まえて尋問するぞ」


「タカ。それ犯人探しというより犯人作りじゃ……」


 シャラァアアアアップ!


 モータル、言わぬが花、知らぬが仏、なんて言葉があるだろう?つまりはそういう事だ。












 お金をジャラジャラ言わせながらスラム街を歩いていると、下卑た笑みを浮かべた汚い身なりの三人組が目の前に立ち塞がった。


「ようよう、兄ちゃん、景気良さそうじゃないの」


「羨ましいねぇ。俺らにも分けて欲しいくらいだ」


 まだ男達は立っているだけだが、ナイフを構えこちらを脅してくるのは時間の問題と思われた。


「……君達のお仲間で、昨日窃盗をはたらいた奴はいるか?」


「あ?……そういやデールの野郎が……って、お仲間ァ?そんな言い方するってことはよ。兄ちゃん。分かってるって事だよなぁ?」


「ああ。勿論……やっちまえ!」


 そう叫び俺が後ろを指差し、男達の視線がいっせいに後方へ向く。


 馬鹿が!上だよ!


「メテオ」


 一人の男の身体が路地の壁に叩きつけられる。

 慌てて残りの二人が振り向くも、片方が腹に蹴りを入れられあっけなく沈む。

 もう片方の男は肩から腰にかけてざっくりと袈裟切りに……


「モータルぅ!?殺さないんじゃなかったっけぇ!?」


「……あー、いや、見てよ」


 そう言いながらモータルが鞘に入ったままの剣をこちらに向けふりふりと振ってアピールしてきた。


 ビビるわ……完全に一人殺っちゃったかと思ったぞ。


「……っと、逃がすな、モータル」


「おーう」


 モータルが逃げようとした男の顔を掴み、地面に叩きつける。


「がっ……ア……」


「ナイフみっけ」


 男を組み伏しつつポケットを漁っていたモータルが、見つけたナイフをその辺に適当に放る。

 あっぶな。


「やあ、景気良さそうだなぁ?」


 モータルと男の居る場所に到着。

 さっそく男に話しかける。

 

「デールって奴連れてきてくんない?」


「……デールの野郎、なんかやらかしやがったのか?」


「そりゃもう。ちなみに、盗みをどこでやったかは知ってるか?」


「……知らねぇ。普通、“狩り場”の情報は人には漏らさないからな」


 ここで言う狩り場ってのは、窃盗やら強盗をはたらくポイントみたいなもんの事だろう。

 しかし……好都合だな。


「ちょっとキプロスがそいつの事探しててなぁ……おい!そこの二人!……あれ、マジで気絶してんのか?アレ」


「片方は意識あるよ、多分」


「じゃあ気絶してる方を人質……ああ、いや……そこまでしてキプロスに逆らいたいってんなら邪魔はしないでやるか……なあ?」


 ニヤリと口の端を歪めながらモータルに視線を送る。


「え?いいの?」


「と、とんでもねぇ!そんな事はしない!すぐに連れてきますぜ!……クソ、デールの野郎……ちったぁターゲット選べっての……」


「もしデールを連れてきてくれたら……そうだな、犯人捕獲の立て役者の中にお前らの名前も入れてやる。ああ、変に警戒されてもアレだし、デールにはキプロスからのスカウトだ、とでも言っておけ。さあ、モータル、解放していいぞ」


「分かった」


 モータルが解放すると同時に、男は倒れたままの残り二人を叩き起こし、路地の奥の方へと駆けていった。









 数十分後。


「つ、連れてきましたぁ!」


「ご苦労。やあ、デール君。さっそく俺達と一緒にキプロスの屋敷へと向かおう」


 デール、というらしい禿頭の男は、ニタニタと汚らしい笑みを浮かべながら俺に追従した。


 デールを連れてきた三人の名を聞き、適当におっぱらった後、俺はデールの荷物に宝石を入れ込みつつキプロスの屋敷へ向かった。










 デールのすっとろい歩きに付き合いつつ歩き、ようやくキプロスの屋敷に到着する。

 最上階に見えるキプロスの部屋は無残にも窓ガラスが割られており、心なしか警備員も殺意マシマシだった。

 誰がこんな酷い事を……


「あ、あの、警備員がえらくこっちを睨んでるんですが」


「嫉妬さ。気にするな。堂々としてろ」


 俺にそう耳打ちされ、デールが途端に偉そうな態度に変わる。

 それを見た警備員の殺意が膨れ上がったが、デールはそんな事を気にも留めない。

 意外に大物だったのかもしれない。まあ多分この後、キプロスにぶっ殺されるんだけども。


「お前ら、遅いぞ!」


 先に向かわせていたガキが頬を膨らませながらこちらに駆け寄ってきた。


 デールが怪訝な表情を浮かべたが、何か自分の中で適当に理由付けして納得したのか、何も言ってはこなかった。


 さて、ここからが腕の見せ所だ。



 デールと共に、屋敷の階段を上っていく。


 そして最上階。モータルをギリギリ廊下から見えるか見えないかぐらいの位置に配置しつつ、叫ぶ。


「キプロス、連れてきたぞ」


 その叫びが廊下にこだますること数瞬。キプロスが扉を開け出てきた。ついでに隣にソリコミくんも居る。


 あまりの威圧感にデールの腰が引けるが、俺が小声で耳打ちする。


「ほら、自分から行け。なるべく早足でな」


「は、はい」


 デールがある程度前に出るに伴い、俺とモータルも前に出る。


 デールと番犬である赫狼の距離が1メートルほどになったところで、モータルに気付いた赫狼が腹を見せた。


「……ッ!」


 キプロスとソリコミくんの顔が驚愕に染まる。


 デールはその表情を勘違いしたのか、ニタニタと笑いつつ、こう言った。


「へ、へへ。まあデール様にかかればこんなモンですぜ……け、へへ」


「お前……」


 ソリコミくんが口を開こうとするが、それを俺が手で制する。


「デール。幾つか質問をしようか」


「へ?……はあ」


「お前、昨日……何をやった」


「ん?……ああ、盗みの事ですかい?いやあ、大量でしたねぇ……まあその金の大半はその足で向かった娼館で落としちゃいましたがねぇ!ふへへははは……ぐべぼぉぁあッ!?」


「うお!?」


 慌てて飛びのいた俺のすぐ横をデールが吹き飛ばされていき、轟音と共に壁に叩きつけられた。


「……」


 キプロスは鬼の形相かつ拳を突き出した状態で、フウフウと肩で息をしている。


「……てめぇら!そいつを牢にぶち込んでやれ!」


 ソリコミくんが慌てて指示を出す。



 ……うん。想像以上に上手くいって逆に怖いな。






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