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戦利品


タカ:無事モータルを奪還&戦利品ゲット


ほっぴー:おお。良かった。心配したぞ


ジーク:戦利品?


ほっぴー:つーか奪還て事は捕まってたのか


タカ:おう。なんか地元のスラム街仕切ってるっぽい連中


Mortal:いやなんか子供追い回してたから注意したんだけど


Mortal:殴りかかられて


タカ:あー、あのガキなんだったんだろうなぁ


Mortal:なんか盗んだらしいよ


タカ:マジかよ最低だな


ジーク:あの。ところで戦利品、とは


タカ:あー、そのスラム街のボスの部屋から色々と


タカ:盗られたモータルの荷物取り返すついでに、な


ジーク:完全に盗品ですありがとうございました


タカ:盗品だけどこれは盗品って言わないんだよ


タカ:報酬


ほっぴー:等と供述しており……


ガッテン:なあ、初日だよな?まだ。こんなの絶対おかしいよ……


ジーク:遠征初日にスラム街のボスに喧嘩を売る男


タカ:売ってねぇよ。盗ったの俺らだってのは多分バレてない


タカ:というか、仕方ない事だったんだよ


タカ:モータルの荷物だけを持って行けば、犯人はモータルだと言ってるも同然だ。そうだろ?


タカ:そこを偽装するために俺らは別の物も盗る必要があったのさ


タカ:そりゃあ心は痛んださ。出来るなら盗りたくなかった。だけど仕方が無かったんだ


ほっぴー:「俺ら」で主語を拡大し責任の分散を図ると共に盗難の正当性を主張するとは。やるな


ジーク:あっさり見透かされてて草


ガッテン:第一、ほんとに心が痛んでるなら「戦利品」とか言う訳ないんだよなぁ


七色の悪魔:今からでも謝りに行った方が良いのでは……


タカ:謝る事なんてないね


ガッテン:面の皮が厚過ぎる


タカ:はーーーー


タカ:知らんぞ、戦利品の凄さを見て手の平返すことになっても


ジーク:手の平返しとか日常風景すぎて









「まあいい。皆には帰ってから教えて驚かしてやろう」


 掲示板魔法が書かれた紙を収納し、ぼけーっと掲示板を眺めているモータルの肩をちょんちょん、と叩く。


「ん?」


「モータル。これを見てくれるか」


 俺は鞄から、タグのような物を取り出した。


「……それって」


「ああ。ゲーム時代に見た事、あるよなぁ?」


 マップ確認。

 同サーバーにおいて発生しているレイドボスの状況確認。

 そして極めつけは――


「インベントリ」


 所謂、アイテムボックス。


 それらを機能を使用する際、ゲーム内のキャラクターは首にかけた妙なタグを光らせていた。


「使えるの?」


「んー、起動方がよく分からん。帰還してから砂漠の女王にでも聞いてみる」


「ふーん……」


 そこまで聞くとモータルは戦利品の短剣を何本か手に取り、眺め始めた。


「なんで短剣しかないの?」


「いやだって武器大量に持ち歩いてたら目立つだろ?そうすると目撃情報とかからバレる可能性が高まる。それに、短剣なら結構な数持ってけるだろ?」


「なるほど」


 あと俺のメインウェポンだから。


「……」


「なんだその顔」


「いや……何でもない。じゃあ俺、部屋に戻るから」


「おーう。おやすみー」


「おやすみ。また明日」









 ピュルル、という聞き慣れない鳥の声と共に、意識が覚醒していく。


「……ん」


 少しばかり固めのベッドだったが、意外に快眠できた。


「健康になっちまうなぁ」


 自分の中ではある種お決まりのそのセリフを吐いた後に、思いっきり伸びをした。


「さて、と今日はどうするかね」


 せっかく新しい武器が手に入った所だし、魔物の討伐依頼でもやってみようか。


「……その前に掲示板で報告か」







タカ:起床


タカ:おい


タカ:誰も起きてないのか


七色の悪魔:おはようございます


七色の悪魔:他の皆様はまだ夢の中かと


タカ:うーん


七色の悪魔:どうしたんです?


タカ:今日やる事がまだ不明瞭で


七色の悪魔:ふむ


七色の悪魔:昨日の今日ですし、あまり街の中を歩き回りたくはないでのでは?


タカ:うむ


七色の悪魔:魔物の討伐依頼か何かが無いか漁る、というのがやはり一番ではないかな、と


タカ:そうですね。そうします







 掲示板魔法の紙を鞄にしまった後、荷物をまとめて部屋から出る。


「っかー。流石に重いな」


「何で重いんだ?」


「あー、それはな…………誰だお前」


 扉を開けた先には、体育座りをした先日の子供の姿があった。


「……キプロスの部屋から物盗んだの、お前らだろ」


「何の事だ?……おーい、店主いるかー!汚ねぇスラムのガキが入ってきてるぞー!」


「や、やめっ!やめろっ!」


 昨日の意趣返しのつもりなのか、ガキが俺の二の腕にしがみついてくる。

 ええい、離せ!


「このまま俺を摘み出したら、キプロスにはお前が犯人だって言いつけるからな!」


「……だいたい、キプロスってのは誰だ」


「昨日見ただろ!?あのおっかねぇ大男の異名だよ!スラム街取り仕切ってる悪の親玉だ!」


 あー。

 キプロスって呼ばれてるのかアイツ。


 まあお似合いの名前ではあるな。


「そしたらきっと、殺されるぞ!」


「濡れ衣だって説明してやりゃいい」


「……ほんとに盗んでないのか?」


「ああ。というか無理だろ。なんで俺らだと思ったんだよ」


 どこから嗅ぎ付けてきやがったんだこのガキは……


「……だって、お前ら、異常だったし……」


「ほーう。喧嘩売ってんのか?」


「いや!だって!あやしいじゃんか!あのキプロスの屋敷をたった一人で半壊させる化け物と俺を捕まえて早々金の臭いがするとか言って拘束した挙句人質にした生粋の悪人のコンビなんて!」


「誰が生粋の悪人だコラ」


 俺を悪人呼ばわりしてきた失礼なガキのこめかみを拳でグリグリやって礼儀を叩き込んでやっていると、俺の隣の部屋の扉が開き、寝ぼけまなこのモータルが顔を出した。


「あれぇ?バレたの?」


「おまっ……!」


「やっぱりそうじゃん!」


 俺はとっさにガキの口を塞ぎモータルの部屋へと入った。


 絵面が犯罪そのものだが仕方ない。


「ガキ、見たところ金に困ってそうだよなぁ?」


「……手際の良さからしてやっぱり悪人じゃん」


「かーっ、こんな早寝早起きの健康的なライフを送る俺が悪人な訳ないだろ?」


「身体の健康と性根の悪さは関係ないんじゃ……」


 減らず口を。

 俺は誰が何と言おうと善人だ。


「そんな事より、だ」


「タカー。次は恐喝?」


「次は、ってなんだ!次は、って!」


「……お前、タカって言うのか」


「いや?俺はガッテンという名前だ。タカは愛称みたいなもんさ」


「自分で言ってて無理あると思わないの?」


 思う。


「……まあ、名前なんてどうでもいいだろ?……あー、そうだ。俺ら、今から朝食を食べに行くところでな。何食べようかな~。そう言えば、わたあめを売ってるところがあったなぁ」


「……」


 お。釣れてる、釣れてる。


「昼食は油たっぷりの肉かなぁ~、やっぱり。あーでも厄介事に巻き込まれちゃったらそんな暇じゃないかもなぁ」


「……うう」


「夜はどうしようかな~、お高いレストランでコース料理かなぁ、やっぱり」


「…………」


「どうした?もしかして連れてって欲しいのか?……でも俺らに迷惑かけちゃうような悪い子は連れていけないなぁ」


「……う、ぐっ。分かったよ」


 はははは!賢い子は嫌いじゃないぜ!

 一緒に楽しもうじゃないか、異世界富豪ライフをよぉ!


 ふはははははは!!!



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