情報収集
「ここだな」
雑踏をかき分けようやく到着したのは、赤レンガでできた一つの建造物。
ギルドハウスと呼ばれる場所である。
「タカ、俺腹減ったんだが」
「俺も同じだっつーの」
モータルを雑に宥めつつ、ギルドハウスへと入る。
人の出入りをスムーズにする為か、扉はついていない。
中は意外とすっきりしていた。
複数のテーブルとイス。それらが窓際に整然と並べ立てられ、何人かがそこへ腰掛け雑談ついでに食事を行っている。
「お、なんか飯売ってるとこがあるみたいだな」
俺の言葉を聞き、ふらふらとその食品販売所へ足を向けたモータルの肩を掴み無理やり引き戻す。
「先に受付カウンターでカードの再発行だ」
「……分かってるっての」
絶対分かってなかっただろ。
そのままモータルを引きずり受付カウンターへと進む。
「すいません、カードの更新切れちゃったんで再発行を」
「はい。では期限切れのカードをこちらに」
「はい。ほら、モータルも」
「おう」
俺らの出したボロボロのカードを見て、受付員らしき男が顔を顰める。
「……いったいどれだけ更新をサボってたんですか……こりゃデータがもう保存されてないかもしれませんよ」
そんな事をブツブツ呟きながら、カードを持ち奥の方の部屋へと引っ込んでいった。
……何なんだ。すっげぇ不安になるんだが。
程なくして、受付員が渋面で戻ってきた。
「あーっと、ですね。データ保存の期間が過ぎてるようでして。お手数ですが、もう一度新規の登録という事になります」
「そうでしたか。すみません、じゃあ新規でお願いします」
「はい。それでは魔力紋を取りますのでこちらの用紙に魔力を出しながら軽く丸を描いていただけますか」
言われるがままに、魔法陣を書く時の要領で、渡された羊皮紙のような物に丸を描く。
「……では隣の方も同じようにお願いします」
「ほい」
「……はい。承りました。後は……」
受付員がカウンターに併設された妙な機械に、俺達が丸を描いた紙を入れ、何やらカタカタやり始めた。
それを待つこと数分。
ガタン!という音と共に機械から二枚の紙が排出された。
「お待たせ致しました。こちら新規のギルドカードです。なお、新規カード作成にあたって、全ての区分における等級が5級となっております。ご了承下さい」
「はい。大丈夫です」
「では良いギルドライフを」
「どうも。……おい、モータル。とりあえず飯だ」
「よっしゃ!」
ご満悦なモータルをひきつれ、ギルドハウス内部に併設された食品販売所のような場所へと駆け寄る。
「……セルフサービスか」
料金を入れる箱があり、カウンターのような場所にはサンドウィッチ等の軽くつまめるような食べ物が陳列している。
どうも奥に人が居るような雰囲気はあるが……
「とりあえずこのレタスっぽいのと卵っぽいのが挟まってるやつにしとくか」
適当にサンドウィッチを手に取り棚に書かれた値段どおりの硬貨を箱に投げ入れる。
俺に続くようにして、モータルが同じ物を手に取り、硬貨を投げ入れた。
「うし。食いながら街を見て回ろう」
「了解」
既にサンドウィッチを頬張り始めたモータルと共にギルドハウスを出る。
俺もサンドウィッチに噛り付きつつ、街の大通りに沿って歩き始めた。
タカ:定期報告
タカ:とりあえず宿を確保
ガッテン:ほう
タカ:なんつーか、ゲーム時代と全然違うなぁ。分かってた事だけどよ
ほっぴー:そりゃ、都会なんだろ?そこ
ほっぴー:俺らがゲーム時代に拠点にしてたとこってかなり辺境の地だったじゃんか
タカ:あー
タカ:まあ、そうなんだけど
Mortal:サンドウィッチうめぇ
ジーク:こちとら魚と保存食地獄なんだが
七色の悪魔:お土産期待してます
スペルマン:甘いものがいいなぁ
紅羽:わかる
タカ:分かった、分かった
タカ:なるべく買い込んでくる
鳩貴族:こちらも保存食地獄になっててショックです
ジーク:ひゅー
タカ:上手い手を思いついたな。それなら寒い、ってのと、面白い、って意味の両方に取れる。
ジーク:種をバラすのはやすぎませんか
鳩貴族:どちらの意味だったんです?
ジーク:そりゃもう
ジーク:ね?
ガッテン:隙あらば内ゲバする癖そろそろ直さない?
七色の悪魔:遠まわしに死ねと言っているのと同義かと
スペルマン:馬鹿は死ななきゃ直らない……
「タカ」
バターン、と俺の部屋の扉が開けられ、モータルが入ってくる。ノックしようね。
「何だよ」
「クエストやろうぜ」
「え?嫌だけど……」
おい何だその驚いたような顔は。
「お前、俺達の本来の目的忘れてるだろ……」
食料調達だぞ?お?分かってんのか?
「いや忘れてないけどさ」
「適当に一週間街の様子とか物流を見て回って、食料買い込んで、門のある、森のあの洞窟に戻……あー……」
「どうした?」
「蟻の対策練ろう」
「?……あれってタカが興味半分でちょっかいかけたからじゃないの」
「いやあ、凶暴な性格の蟻だった。対策を練る必要があるな!ギルドの二階に資料室みたいなのがあったし、そこで情報収集だな!な!?」
「あれってタカが興味半分でちょっかいかけたからじゃないの」
「そういう手が通用する相手じゃなかったな!うん!俺のせいだよ!ごめんなさい!!!」
数分後。俺達は日本語塗れの資料室というおよそこの世界には似つかわしくない場所に入り、狐につままれたような心持ちになっていた。
「分かってたけど違和感やばいな」
「おおー、見ろよコレ。図鑑だ」
「あ、ああ……おい。待て、勝手に行くな」
本を漁りたくてうずうずしているモータルに、満足したら俺を待たなくてもいいからまっすぐ宿に帰ることをきっちり言い聞かせてから、俺も資料の探索に入った。
「……古典の棚はどこだ」
俺はこの世界について、疑っている事が一つある。
……ここが、何か決定的な分岐点を経た、俺達の世界と同列の――所謂、パラレルワールドである可能性だ。
「翻訳を高速かつ自動で行う魔法なんて無い、ね……ハハ」
ほっぴー経由で届いた情報だ。
つまり、だ。
この街の人間が文字として、また言葉として使っているのは日本語という事になる。
「この棚が最後の列か……うぅん」
だがあくまでここはギルド登録者が利用する資料室。どうやら古典の棚は無いらしかった。
「期待はしてなかったが……街に図書館がねぇか探るか」
俺は棚から、街の地理に関する本を引っ張りだすと、椅子に座り、熟読を始めた。