情
投稿遅れました!すみません!
「うっわ。紅羽の家ぶっ壊れたぞ」
「……紅羽氏……かわいそう……」
「劇的ビフォーアフター、か……」
三人がそんな事を好き勝手に言い合っていると、道の向こうから魔物を引き連れた紅羽が駆けてきた。
「やっぱバレてんじゃねぇかあああああ!!!」
怒号と共に走り寄る紅羽をどうどう、と収める三人。
「はあ、はあ……よし。逃げるぞ」
ある程度叫び気が静まったのか、紅羽がミノタウロスの肩に乗っかる。
それに便乗しザントマンやほっぴーの火精ペリもミノタウロスにしがみついた。
「了解……っと。この感覚も久々だな」
「そう思うのなら普段からもう少し構え」
ほっぴーに乗っかられたケンタウロスアマゾネスが少し不満そうな声を出しつつも駆け始める。
それに続くようにしてスペルマンと時の呪術師が魔狼に騎乗する。
「んじゃ、おっさん。バンシー。俺らはマラソンな」
「分かっていますとも」「あうー!」
時折突風が吹き荒れる中、十傑達は東京までの撤退作戦を開始した。
「全然追っ手が来ない……なんて、都合の良い事ぁ有り得ないってのは分かってたが」
道を行く十傑達を阻む影。
その者達の見た目は角、翼、複数の腕など、多種多様な見た目であったが、一つ共通して言えるであろう事があった。
「てめぇら、元人間だな?」
「だぁいせぇかぁい」
頭部から一対の捻れた角が生えている男は、そう言って笑うと、手をばっと広げ、叫んだ。
「さあ!元同族達よ!何やらやらかしてしまったようだな!事情次第では俺達も一緒に頭を下げに行ってやるから素直に洗いざらい話してしまうといい!」
普通に良い人だった。
数分後。十傑達の傍であぐらをかき、話に聞き入っていた角男が口を開く。
「なるほどなぁ。で?ぶっちゃけお前ら、やったの?」
「ノーコメントで」
タカのある種の肯定に苦笑いする角男。
「うーん。お前らを見逃すってなぁ俺らとしてもやぶさかじゃねぇんだが……一応アルザさんには恩があるんだよなぁ」
「人類の存続とどっちが大事なんだよ」
そう口をはさんだほっぴーを、驚きの中に少し憧憬と、諦観の念が混じったような、複雑な表情で見つめた角男。
「……あー、やっぱそういう感じなのか。勇者的なアレなの?君達。参っちゃうなぁ」
そう言って頭をボリボリと掻いた後、角男がパン、と膝を叩き立ち上がる。
「よし。見逃すわ。多分俺らすっげぇ怒られるし、下手すりゃ殺処分だけど……でもま、それがこの姿になった責任ってやつだわな」
「どうしてそんな姿にされたんだ?」
タカの不躾な質問にも角男は顔色を変える事なく答えた。
「広報部の宣伝にノったクチでな。入隊した途端、アルザさんから力が欲しくないか?と迫られて、このザマさ。まあ断る余地は充分あったよ。それでも同意したんだから自業自得さ」
「そうか。じゃあ、見逃してくれてありがとな。もし逃げたくなったら東京に来いよ。匿うぞ」
「はは、そうだな。ウチの隊員が何人か行くかもしれん」
申し訳なさそうな顔をしつつも去って行く十傑達の背中を見届けながら、角男が周囲の隊員――アルザ製魔人族部隊のメンバー達へ声をかける。
「どうだ?お前達。俺は今からあそこで派手にやり合ってるアルザさんに報告に行くが……命が惜しいってんならあの子達に同行させて貰え。俺は責めないぞ」
そんな角男の問いかけに返事とばかりに返されたのは、敬礼。そして隊長である角男の前への整列だった。
「……へっ、馬鹿ばっかりだなぁ!この隊はよ!」
角男に釣られて隊員達が笑う。
暫くそうやって笑い合っていたが、角男が不意に真顔になる。
「こんな状況になって。俺達は……主役になろうとした。そうだろ?俺だってそうだった。だから貰えるらしい力に簡単に飛びついた。そして言われるがままに異世界人の小隊を潰した。……ああ、そのツケを払う時が来たらしい」
ゆっくりと息を吐き、そしてゆっくりと吸い、叫ぶ。
「社畜時代に身に付いた技、この程度で衰えちゃあいねぇだろう!?ジャパニーズ・ドゲザの見せ所だ!行くぞお前ら!!!」
「「「「「うおおおおおおおお!!!!!」」」」」
咆哮をあげ、元・社畜、現・魔人の者共がアルザの下へ駆けた。
ごめんなさい、仕事失敗しました。この首は如何様にも。
そんな言葉を言うためだけに。
カーリアと戦うアルザが、視界の隅にちらりと、自らが魔改造した部下達の姿をとらえる。
「……チッ!流石に同族殺しはまだ抵抗があったかッ!」
「どういう意味ですか!」
アルザの視線と言葉に釣られ生まれたカーリアの隙。
それをアルザは逃さなかった。
「よそ見だなんて余裕だね!」
アルザから打ち出された、矢と呼ぶにはあまりにも巨大すぎるソレを当てられ、カーリアが吹き飛ぶ。
「「「ああっ!!カーリアちゃーん!!!」」」
「君達はどっちの味方なんだい!?一応今は僕の部下だろう!?」
アルザの怒号に、吹き飛ばされたカーリアの方へ駆け寄りかけた魔人達が慌てて引き返す。
「……はあ。まあ、話は後で詳しく聞くとするよ。今はカーリアだ」
そう言うとアルザは瓦礫の山から飛び降り、魔人達をしっ、しっ、といった感じのジェスチャーで追い払った。
カーリアが吹き飛んだ方向へ歩み寄る。
「……何、ですか。先ほどの……異世界人達は」
「へえ、素材の見分けがつくんだ」
「私のことを、カーリアちゃん等という呼び名で呼ぶのは貴方か、ここの世界の人間くらいのものです」
瓦礫を風で吹き飛ばしたカーリアが、立ち上がる。
「まー、そうだね。嫌なら教育しておくよ?」
「…………現地の諜報員として、役立てると。本部はそう判断を下した、と」
「あー。いやぁ、だって今戦力不足じゃん?僕が魔王様に提案したら、あっさり許可が出たよ」
徐々に怒気を帯び始めたカーリアに、アルザが肩をすくめて言う。
「任意の上でやらないと、ひたすら周囲の物を壊し続ける、出来そこないの魔人しか作れない……僕の魔人作成陣はそこがネックだった。ただ、幸運な事に数百人規模で志願者が現れた。PR動画様様って訳だ」
「私は、そんなつもりで協力したんじゃありません!そんなつもりで広報部を……」
「ああ、止めてくれ。カーリア。それ以上は殺処分だ」
アルザの熱の無い、冷徹な一言にカーリアが一瞬怯むも、意を決して言葉を続ける。
「認めましょうよ。この侵攻は、大失敗だった、と。私達は、下位世界だ、劣等種だ、と決めつけて……足元をすくわれ、このザマです。それに、これでは、私達の世界における人間とやっている事が同じ……ッ!?」
その瞬間、アルザの周囲から先ほどの巨大矢が大量に出現した。
「駄目だよ、カーリア。僕達は魔王軍なんだ」
「……分かっています。だから、こそ」
「僕達は魔王軍だ。理屈じゃないんだよ。あんなに滅茶苦茶な誤作動を起こしたけど、門は機能してる。この世界から資源を取れるだけ取ったら、今度は次の世界だ」
「間違って、います。それは」
その言葉を聞いた瞬間、アルザの顔から表情が抜け落ちた。
「……哀れだね。こんな底辺の世界の、あんな矮小な存在に情を抱いたあまりに――殺されるだなんて、ね」
「それは、アルザ、貴方も……くっ!?」
カーリアの返事を待たずして、巨大な矢の数々が、射出された。