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正気か狂気か

多忙につき数日ほど感想返信が滞るかもしれませんが、ご容赦を。

連日更新は何とかキープします






「こんなもんか」


 物色を済ませほくほく顔で廊下を歩くモータル。


 その手には、以前の錆び付いた剣ではなく、豪華な装飾の付いた見事な剣が握られていた。


「モータル!こんな所に居たのか!探したぞ!」


 そんなモータルに後方から声をかける男が一人。お代官である。


「全く、砂漠の女王はこういう時に限って来てくれんし……どうなっとるんだ……」


「日本に転移する準備でもしてるんじゃねぇか?」


「あー、日本に転移ね。はいはい……日本に転移だとぅ!?」


 目を見開き驚愕の表情を浮かべるお代官。


「な、何故私に言ってくれんのだ!ああもう我慢ならん!砂漠の女王を探してくる!」


「おーう」


 モータルに手を振られつつ、お代官は廊下を駆け出し……数秒後に息を切らして歩き始めた。









Mortal:帰国の目途がたった


ガッテン:!?


ほっぴー:ちょっと待て


ほっぴー:マサルから砂漠の女王の情報を聞いてくに当たって、砂漠の女王がこっちに転移してこれる可能性は勿論、把握してた


ほっぴー:ただ何故それを今になって明かしてきた?


Mortal:愛ゆえにって言ってた


ほっぴー:あー、ちょっと待った


ほっぴー:まさかとは思うが、砂漠の女王もこっちに来るおつもりで?


Mortal:お代官様についてくって


ほっぴー:ばっかじゃねぇの!?


鳩貴族:マサル経由でお代官さんに連絡を


ほっぴー:おう。誰か頼むわ。つーかモータル!お前からも説得しろ!


Mortal:何が?


ほっぴー:何が?じゃねぇ!


ほっぴー:いいか?俺の情報収集ってかマサルからの話によれば、砂漠の女王は自らの一族をその土地に縛り付ける事によって絶大な力を得てる。そんな存在が移動するって事の意味が分からん程馬鹿じゃねぇだろう!?


Mortal:移動したら幹部三人分程度の戦力になるってさ


ほっぴー:ホラ見ろ弱体化……それでも強ぇなぁオイ!?


鳩貴族:マサルさん経由で説得を頼みましたが、どうも会話がちぐはぐでした。幻術の類いをかけれているかと


ほっぴー:砂漠の女王に口封じくらってんじゃねぇか!!!おい!モータル!後はお前だけが頼りだ!説得してこい!


ジーク:モータルだけが頼りという文面の絶望感は異常


タカ:草


ほっぴー:草生やしとる場合かァ!!!!


七色の悪魔:千葉の方の避難所に到着しましたー。あー、あと物資支援の交渉勝手に取り付けてしまったのですが大丈夫ですか?


ほっぴー:物資?誰と?


七色の悪魔:米軍さんとの


ほっぴー:ああ、マジか。頼むわ


タカ:やっぱ有能やなぁ。あ、後で避難所の方顔出しますんで


七色の悪魔:はい


Mortal:俺らももうちょっとで顔出すぞ


ほっぴー:出さないでくれ!せめて延期だけでもさせてくれ!もうちょっと情報集めさせてくれ!


Mortal:情報収集?どこの?


ほっぴー:敵国だよ!こっちの侵攻がこんなに手薄だってのに、あそこまで軍部が閑散とする訳がねぇ!絶対に他の国かなんかと戦争してる!


Mortal:それは俺も思った


ほっぴー:だろ!?


Mortal:じゃあ俺が現地に残ろうか


ほっぴー:ああ畜生!なんか何とかなる気がしてくるけども!でも駄目だ!


Mortal:しゃーないな。一旦話してくる


ほっぴー:やっとモータルが動いてくれた……数十年規模で手入れしてねぇ石扉かなんかかよお前……













「砂漠の女王見てない?」


 ガチャリと扉を開け、唐突にそんな問いを投げかける。


「モータル君……どこに行っていたんだ。心配したぞ」


 中に居たのは江藤ら含む、お代官が保護した人間、15名である。


 唐突に現れたモータルに、誰……?等のひそひそ声が響いたが、江藤が親しげに話しかけた影響もあってか、警戒心は薄れたように見える。


「じゃあお代官さんでもいいけど」


「ああ、お代官さんなら一瞬だけ顔を出して……そうだな、君と同じように砂漠の女王を見てないか、とだけ問い、見ていないと答えるとそそくさと出て行ったぞ」


「どっちの方向に行った?」


 江藤が顎に手を当てて、うぅむ、と唸る。


「……分からない」


「ライカン」


「あ、俺?」


「臭いで辿るぞ」


「あいよ」


 やれやれ、と言った風に立ち上がった人間形態のライカンの腕を引っ張り、強引に部屋から出るモータル。


「なんか皆がすげぇ焦ってたから急ぐぞ」


「分かったよ」


 モータルが扉を閉めた後に、ライカンが人狼形態へと変化する。

 そして暫くその場で、すんすん、と鼻を鳴らしていたが、やがて当たりを付けたのか、廊下を早歩き程度の速度で進み始めた。


「もうちょっと速くなんねぇの」


「お前、俺の嗅覚がそこまで過敏だったら日常生活なんて送れないっての……」


「日常生活の概念あんの?」


「そりゃ人に紛れて人を狩るのが俺らだからな」


「ふーん」


 ライカンのドヤ顔を適当にあしらいつつ、モータルは剣の他に少しばかり失敬したアイテムを取り出し、眺める。


「なんだそれ」


「貰った」


「そうか。気前が良いんだな」


「高純度の魔結晶もいくつか見つけたし、ライカンの事進化させられるかもな。あーでも魔狼系列の素材が足りないなぁ」


「見つけた……?」


 そのまま自分の世界に没入し、何やらブツブツと呟き始めたモータル。

 何やら口を開こうとしていたライカンであったが、無意味である事を悟ったのか、臭いの追跡の作業に戻った。


 


 それから歩くこと数分。


「ここ、だな」


 ライカンが一つの扉の前で立ち止まる。


「おお。やるじゃん」


「やめろっ!モフるなっ!ご褒美になってねぇからソレ!」


 あらかたライカンをモフり終え、満足したのか、モータルが何の躊躇も無く扉を開けた。



 そこに居たのは。


 一糸まとわぬ姿でお代官ににじりよる砂漠の女王と、壁際に追い詰められ顔面蒼白となったお代官であった。


「……モータルぅううううう!!助けてくれぇええええ!!!」


「あらぁ、そんなに照れずとも大丈夫ですわよ……」


「……邪魔したな」


 ライカンがそっと扉を閉める。


 閉められた扉の向こうからは未だ悲鳴が聞こえていたが、モータルは「避難者の居住スペースの所で待っています」という紙を扉の下の隙間からそっと差し込み、ライカンを連れ来た道を戻っていった。



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