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情報と、脱走者

vsアルザ以降の話をちょろっと改稿致しました。

本筋にはあまり関与しない部分ですので、読み返しはせずともおそらく大丈夫、なはず。








「さあ、無事説教を切り抜けた訳だが」


 俺達はいつもの場所、ではなく、薫や紅羽の両親が居る方の拠点のリビングにて、集会を開いていた。


 厳かな雰囲気の中、スペルマンが床の焦げ跡をチラリと見た後、俺に向かって言った。


「タカ氏ってさあ、自らの行動にオチ付けないと気が済まないの?」


「んな訳あるか!!つーか今回は俺悪くねぇだろ!!!」


 今回に限っては紅羽が悪い。あーいや、記憶力がアレだから思い出せないだけで他の件も本当は俺は悪くないのかもしれない。いや、俺は悪くない。多分だいたい魔王軍のせい。


「……はあ、とうとうあたしにも汚点が……」


「まるで今回初めてミスしましたみたいな面しても誤魔化されないからな」


 ……まあいい。いや全然良くはない。良くはないが今優先すべき事は違う。


「母親を介して上手い事通話の機会を設けた」


「「「おお……!」」」


 何との通話かって?


 そりゃ当然……米軍・・だ。


「俺達ほどでは無いが、レベルがかなり上がった軍団・・が出来上がってる様子だし、早いとこ情報横流しして、平和な世の中を取り戻してもらおうじゃないか」


 俺がスマホに表示された、「通話」の文字をタップすれば、すぐにでも米軍のお偉いさんに通じる。

 そこまで状況をセッティングするのはなかなかに骨が折れる話であったらしいが、主に頑張ったのは現地にいる俺の両親なので、個人的には意外と楽に話が通ったなという感じである。


「じゃあ、開始」






『もしもし?こちらアメリカ陸軍参謀総長マーティン・ミリー……の、秘書兼通訳のレイチェルです』


 画面いっぱいに禿頭の怖そうなおじさんが映っている。どうせならレイチェルさんとやらの顔を見ながら話したいもんだが……まあ、仕方ない。


『補足しておきますが、この会話は此度の災害における、我が国の重役全てが聞き、またその内容も録音されています』


「その重役とやらは信用に値する人間なんだろうな?」


 おい、ほっぴーお前……怖い物知らずかよ……


『ええ。大統領・・・のお墨付きですから。どこぞの、敵軍人のポルノ撮影を行う輩とは違います』


 おい、皮肉られてんぞ。

 しかも事実だし言い返しようがねぇ。


 流石に押し黙ってしまったほっぴーに代わり、俺が発言する。


「あれは友好な関係を築く為にやった事ですよ。動画をご覧になったならお分かりになると思いますが、彼女も乗り気な様子だったでしょう?……それに、兵士の士気向上にも、役立ったはずだ」


『…………ええ、そうですね』


「互いに先ほどまでの会話は水に流すとしましょう。それよりも今は……話すべき事がある」


『分かりました。話では確か、魔道書なるモノを奪取したとの事ですが』


「ええ。ただ、その前に報酬の話をするとしましょう」


『異世界の言語の解析結果、なんてのはどうでしょうか』


「それは研究材料を渡した以上、当然の義務でしょう?俺達は報酬の話をしてるんですよ」


 スペルマンから、攻めすぎちゃう?みたいな視線がとんでくるが無視して続ける。

 一応こっちだって命張ってんだ。それ相応の対価は貰えないとやってられない。


『……いいでしょう。幾ら欲しいんです?』


「残念ながら、紙幣を渡されても、こっちじゃケツを拭く紙程度の用途しかないのでね。勿論それも貰いますが、渡すなら俺の両親に」


『分かりました。では他には何を?』


「ヘリをくれ。ああ、俺達じゃないぞ。指定する場所にいる俺達の仲間を運んでくれ」


 今こそ十傑が集結する時である。













「はあ」


 滅茶苦茶緊張した。


 PDF化した魔道書のデータを米軍に無事送信し終えた後、俺達はようやく一息ついた。


「十傑全員の位置情報を貰わないとな」


 ほっぴーの言葉に、頷くだけ頷くと、俺はソファに身体を沈めた。


 あー、疲れた。


 だいたい俺は一介の、善良なる一般市民だぞ。何が悲しくて米国のお偉いさんと腹の探り合いみたいな事をしなきゃいけないんだ。


 ソファに埋まり掛けの俺に、ポチがじゃれついてくる。よーしよしよし。


「モータルの件はいいのか?」


「モータルはこっちで調査しとこう。おそらくだが、アルザは俺とモータルが会うのを見てる。そしてモータルはあの霧が発生する前後に東京に居た。ここから分かる事は……」


「俺達と同じように、魔王軍に勧誘された?」


「それか、霧の中で死んだ、か」


 四人の間に、重苦しい空気が圧し掛かる。



 分かっている。その可能性は、大いにある。


 だが、それでも。生存を信じる事を止めきれない。


「生きてる気はするんだよな」


「ただ掲示板魔法にも反応が無いってのは妙だ」


「もういっその事、アルザに聞いちまうか?」


 よくよく考えれば、アルザは、俺とモータルが知り合いだという事は把握済みだ。その件に関して何か疑いを持っていたとしても、俺が聞く事でその疑いが深まる事はない……はず。












 場所は変わり、いつもの拠点のリビング。俺は久々にバンシーのお腹を弄くりまわし、癒し成分を補充していた。


「あうあう」


 あーうー。



 だがそんな俺とバンシーの素敵な空間に水を差す無粋な野郎が突然、姿を現した。


「やあ、タカ!……君は、何と言うか……魔物が好きなんだな。以前も人狼をいやらしい手つきで撫でていたし」


 アルザのその発言に、俺の眉が思わずピクリと反応した。ついでにバンシーもピクリ、と反応した。


「あーううー!!がるぅう!」


 何やら怒り始めたバンシーに肩をバンバン叩かれる。


 俺は両肩を脱臼したままアルザに向き直ると、話を切り出した。


「ええ。あの毛並みは最高でした。ところで、その時、俺と一緒にいた人間が居ますよね?ソイツを東京で見ませんでしたか?」


「がー!あううー!」


 バンシーが俺の腰をホールドし、ブンブンと振り回す。はっはっは。匂い付けかな?そこそこで止めてくれないと俺、腰抜けちゃうぜ?


「ちょっと待ってくれるかい。凄いな君は。たったの数秒でここまでツッコミ所を量産するなんて……とりあえずそこのバンシー。一旦その怒りを静めてくれると助かる」


「う……」


 え?怒ってたの?てっきりテンション上がって過剰なスキンシップをし始めたのかと……


「気が付いてないような顔だな。はー……しっかし、トラブルしか起こさないな。異世界人というのは」


「どういう意味だ?」


「本気で言ってるからタチが悪い。無論、君やほっぴーもそうだが……モータル、だったか。あとの二人はあまりに脆弱だったから名前すらよく覚えてないが……あとは人狼も居たな」


 唐突にブツブツと喋り始めたアルザ。

 モータルという単語を聞き取り、無言でその言葉の続きを待つ。


「……タカ。結論だけ言えば、僕はモータル達と東京で会い、そして魔王軍に勧誘した。ただ、その時は誰の許可も得ていなかったからね。僕の研究室に隠しておいたんだが……」


 アルザは一旦そこで言葉を区切ると、途端に苦虫を噛み潰したような顔になり、言った。


「脱走された。しかも、だ。文字すら読めないはずなのに、暗証キーを解除して。タカ。あれは一体何者なんだ?」


 ヒュー。


 俺は想像以上の状況に、頬を引きつらせる事しか出来なかった。





魔道書.pdf

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