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帰還と説教


 泣き始めたアルザを無理やり説得する事30分。


 俺達はついに、東京に行かないという条件付きで、いつもの拠点へ帰還する事が許された。





「あー……やっぱ落ち着くわ」


 服の中にありったけ詰め込んでいた魔法学の本をドサドサ、と机にぶちまけた後、ソファに座る。


「……おい、タカ」


「どうした?」


「どうした?じゃないが。何で平然と本盗んできてんの」


 盗んだ?人聞きが悪いな。


 これは――ちょっと借りてるだけだよ。無許可で。


「それを盗むって言うんだよなぁ……」








タカ:異世界の本を借りてきた


ほっぴー:借りた× 盗んだ○


ガッテン:とりあえずロクでもない事をやったであろう事は理解できる


鳩貴族:めちゃくちゃ興味あるんですが


鳩貴族:個チャの方に写真をお願いしても?


ジーク:あれ、異世界からでもスマホ使えるようになったの?


タカ:いや帰った


ガッテン:アルザはどうした


紅羽:今すぐ私の所に来る事。byタカの妹


紅羽:二人とも来い。今すぐ。


タカ:アルザを説得して帰らせて貰った


タカ:え?何で?


ほっぴー:ちょっと待って。俺も?


紅羽:おう。さっさと来るか死ぬか、選べや


タカ:それって拒否権無しって事じゃないですかやだー!


ジーク:行っても殺されてそう












「お兄ちゃん。話があります。あとそこのお兄ちゃんの友達も」


「はい……」「うっす……」


 明らかに怒気を纏った俺の妹――かおるを前に、流石のほっぴーも多少畏まった態度になる。


 薫の横には同じく怒気を纏う紅羽がおり、鋭い視線で俺たちを見つめていた。


「正座」


「え?」


「正座」


「……はい」


 胡坐をかいていた状態から、正座へと座り直し、改めて薫に向き合う。


「何で私が怒ってるか分かるよね、お兄ちゃん」


「……」


 どう答えても怒られるやつじゃないですかやだー。


「私に報告がおざなりなまま、好き勝手やってたよね?」


「いや、ホラ。最低限の報告はやってたじゃん?」


「……まあ、そうだね。いつも・・・だったら、ソレで良かったかもね」


 ……俺としても、多少申し訳ないという気持ちが無かった訳でもない。

 だから自分で直接伝えずに紅羽に丸投げしたのだ。


「二度も東京に行って、しかもその両方でトラブルに巻き込まれて」


「いや、ほんとにすまん」


「最初はちょっと精神的に不安定になって帰ってきて、次は異世界に拉致られて……いったい、何の為にそこまでして東京に行こうとするの?」


「コイツ、コスプレ衣装調達するとか言ってましたよ」


 ほっぴーの発言に、薫の目が見開かれる。信じられない、といった感じだな。



 オーケー。妹よ。俺が悪かった。

 あとほっぴー、今のは場を和ます為のジョークだ。そうだろ?


「いやお前ガチだったじゃん」


 ははは。


 俺は満面の笑みを浮かべたままほっぴーに飛び掛った。

 死に晒せぁあああ!!!!



「アイビィバインド」


 ほっぴーの周囲がフワ、と輝き、大量のツタが俺を押さえ込み、地面に縛り付けた。


 あの野郎、この短期間で魔法陣を……!?


「一個だけガチ暗記した」


「おい、ほっぴー、今の何だ。あたしにも教えろ」


「いいぞ。あー、じゃあこの場はタカと妹さんに任せて俺らは別室に移るか?」


 おい。


「そうだな」


 おい!!!


 俺の叫びも空しく、妹を残し、二人は退室していった。


 ほっぴーの奴め。華麗にこの場から脱出キメやがった。


「お兄ちゃん」


 あー……薫。助けてくれ。なんかいい感じに首がキマってきててな。意識とびそう。


「お兄ちゃんがさ、私の事を気にかけてはいるっていうのは分かってる」


 おう、そうか。それは良かった。

 それより首が、その……


「それでも、さ。父さんと母さんが居ない今、私とお兄ちゃんは国内で唯一の家族なんだよ?……もし危険な事をやろうとしたら、そりゃ心配もするし止めもする。でも、だからこそ、直接報告してから行って欲しかった」


 いやーもうマジごめん。ほんと反省してる。

 ところでこのツタ何とかなりません?


 目の前が段々真っ暗に、ね?なってきてて、ね?分かるよね?薫は優しい子だもんな?


「私がわがまま言ってるのも分かってる。お兄ちゃん、この災害の元凶と戦おうとしてるんでしょ?」


 いや、共存がいけるなら共存でも良いとは思ってるよ。マジで。


 でもその前にツタを何とかしてくれないか。お兄ちゃん、このツタとはどうも共存できそうになくてな。

 あ、やばい。あー、駄目だこれ。



 俺はとうとう意識を手放した。











「……」


 目を覚ますと、ベッドの上だった。


 慌てて身体を起こすと、ベッドの脇にもたれかかるようにして薫が寝ていた。


「……ごめんな」


 薫にはかなりの負担を強いていると思う。


 ツタに締め落とされてる最中だから話半分だったけど、お前の思い、確かに俺に伝わったぜ。


 薫を起こさぬよう、そっとベッドから降り、俺は部屋を後にした。











「じゃあ俺流、魔法陣講座を始めたいと思う」


「わーー!」


 リビングに降りると、馬鹿二人(ほっぴーと紅羽)が俺の盗ん……借りた本を並べ、妙な事をやっていた。


「何やってんだお前ら」


「お、起きたか。タカ。魔法陣の解説やっから座れ」


 起きたか。じゃないんですけど。


 俺、お前の魔法で締め落とされたんですけど?


「細かい事はいい。それとも知りたくないのか?」


 知りたいか知りたくないかで言えば圧倒的に知りたかったので、俺は空いてる席にすかさず座った。


 椅子に座った俺に、鼻をスンスン言わせながら魔狼のポチが近寄ってくる。


 よしよし。良い子にしてたか?はっはっは。


「平常運転だな……」


 紅羽が呆れたように俺を見つめてくる。

 何だよ。


「まあ、いいか……良くはないけど。おい、ほっぴー。続けようぜ」


「了解。まあ講座つっても俺が何となくそういう構造じゃないかって思った魔法陣を幾つか紹介するだけなんだがな」


 そう言うとほっぴーが何やらでかい画用紙に鉛筆で陣を書き始めた。


「むやみに発動させるとやべぇから、一旦画用紙に書くぞ。お前らも練習はソレでやるように」


 そうだね。むやみに発動させるとやべぇよね。俺が気絶したりするもんね。


「悪かったよ」


 悪かったで済むなら警察は要らないんだよなぁ……


 まあ、いい。とりあえず今は魔法陣の習得だ。


 俺はポチの腹をわしゃわしゃ撫でつつ、ほっぴーの言葉に耳を傾けた。



 おい、紅羽。今「愛玩魔物さえ渡せばこんなに大人しくなるのか……」って呟いただろ。

 その通りだよ。


「まずは煮炊きに使うっぽい魔法を紹介する。初歩の初歩だが、今の状況を顧みるに、かなり役に立つはずだ」


 ほっぴーが画用紙に書いた魔法陣を俺らに見せる。


 つーかよくそんな簡単に模写出来るよな。


「ちなみにここの線があるだろ?ここの本数を増やしたり減らしたりすれば火力調整が出来る」


「じゃあ試しに10本くらいにしてみる」


「おいちょっと待て紅羽。画用紙にやれって言っただろ!?……おい!やっべぇ!陣光出してんじゃねぇか!!」




 俺達はこの後、無事ボヤ騒ぎを起こし、三人まとめて薫に説教を受けた。



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