スキルと、ゴブリンの練成
「主殿。ゴブリンの魔石四つ確保してきたぞ」
「ご苦労。ちょっとそこに置いて休んでろ」
「う、うむ」
さて、ゴブリンキングの1PTでの討伐ボーダーはパーティーの平均レベルが27。
主人公のジョブを騎士にして挑発Ⅱ以上の取得をしておけば充分に盾になれるが、味方が短剣使いの場合注意が必要。
「キツいなこれ」
第一俺のジョブが分からん。そもそも戦えるかも謎だ。
「おい。俺は戦えると思うか?」
「……ふぉっふぉ。ご冗談を。召喚直後は反射的に高圧的な態度をとってしまっただけで我輩にはその熟練の具合がしっかりと分かっておりますぞ」
熟練。熟練値か?それともレベル?
「……何についての熟練者かってのは分かるか?」
「無論、短剣でしょうな。我輩と同じ」
ビンゴ。こいつが言ってるのは熟練値の事だ。
聖樹の国の魔物使いでは、ステータスに加え熟練値という概念が存在していた。それらを上げる事でその熟練に関する武器の装備時、上昇するステータス量がアップしたり、スキルの再使用までの時間……所謂リキャストタイムが短縮されるようにもなる。逆にこれが足りていないと、装備の性能がフルで使えなかったり、そもそも装備出来なかったりする。
俺はメイン兵装を短剣、サブ兵装を投げナイフ(短剣補正がかかる中距離武器)にしていた。このスタイルはサービス開始から停止まで俺が一貫してつらぬいていた型であり、短剣の熟練値に関しては他の十傑など歯牙にもかけないレベルで上昇していた自信がある。
短剣の性能はモノに寄って多少の差異はあれど、高火力と速度補正、そしてデメリットの防御半減……場合によっては75%カットでほぼ0になる。この三つは大前提として存在する補正であった。
それに加えて俺は「盗賊」と「狩人」の複合上位、「暗殺者」のジョブを取得しており、紙装甲の向こう側へ飛び立つレベルでの物理防御と、生半可な敵であれば一瞬で蒸発させる速度と火力を誇っていた。特に火力に関しては熟練値も相まって、SSR魔物を押しのけトップに躍り出ていた程だ。
「俺のレベルを確認したい所だが……」
「ふむ?主殿。レベルとは何ですかな?」
「は?」
……い、いや、待て待て。コイツが知らないだけかもしれない。それかレベルという若干メタな単語をコイツが受け付けないのか?
「あー、あれだ。なんか存在の格が上がる……って程じゃねぇが力が増すアレだよ。ソレを具体的に数値化したのが知りたいんだが」
「そんな便利な物などありませんぞ。だいたいスキルを可視化できる時点でこの世界に用いられた法は――」
「ちょっと待てや。スキル可視化できるのか」
遠い目をしながらダンディーな白髭を擦りつつ何か語り始めようとした蝙蝠屋敷の主に待ったをかける。
「やり方を教えろ。あ、あとジョブの確認は?」
「簡単な事ですぞ。ステータスオープンと唱えるだけで、ほらこの通り。いやはや、末恐ろしい法ですな」
ちょいちょい露骨な程に強調してくる法とか言う単語を意図的に無視し、俺はステータスオープン、と呟いた。
ジョブ:暗殺者
□スキル構成
・回避補正Ⅸ
・速度補正Ⅸ
・クリティカル補正Ⅷ
・物理攻撃補正Ⅶ
・連撃Ⅵ
・全状態異常耐性Ⅲ
・ブレイドダンスⅢ
・諸刃の構えⅠ
おー、マジかよ。俺のスキル構成そのままだ。
装着出来るスキルの種類と数はジョブ毎に違っているのだが、「盗賊」「狩人」「暗殺者」の三つ以外のジョブを一切育てていなかった俺にとっては取得しているスキル=装着できるスキルである。
しっかし、こうやって見ると頭悪いくらいに火力特化だよなぁ。
――あの時はゲームだから良かった。だが今は。
「ちと運用を躊躇うレベル、だな」
どうするかな。まぁ一先ずは……蝙蝠屋敷の主のスキル上げか。
上位ジョブは下位ジョブのレベルをMAXまで上げ、そのレベルを引き継ぎつつ転職するというシステムになっている。この分なら俺のレベルは確か__83だとか、その辺りだろう。あのレイドボスのドロップ装備や苦心して作った至上の短剣が無いのは心細い。だが、そもそも現実で俺が頑張る必要はほぼ無いのだ。
「まったり魔物育成してアイツを40レベくらいにしてスキル充実させりゃゴブリンキングくらいならソロ狩りしてくれるだろ」
「……アイツとは、我輩の事ですかな?」
「おう。とりあえず有りっ丈のゴブリン狩ってこいや。疲れたら休憩も忘れずにな」
「心遣い、有り難く。御意に」
そう言うと蝙蝠屋敷の主は窓から外へと跳び立っていった。
アイツが行ったのを確認してから窓に鍵をかけ、お待ちかねの練成の作業に移る。
「さて、どうするんだっけな。ゲームの中じゃ妙な魔方陣の上で魔術みたいなのを使ってる様子だったが」
そんな事をブツブツと呟きつつ記憶の底を漁っていると、唐突に俺にあるイメージが浮かんだ。
「魔方陣の図……?これ、描けって事か?」
そんな事したら俺の部屋が邪教徒のお祈り部屋みたいになっちゃうんだが。それでもやれって?分かったよ。
俺は不可思議な思い出し方をした魔方陣を床に描き始めた。何か筆記用具を使う訳でもなく、指でなぞる。見た目は床をいじいじしていじけてる無邪気な高校生だが、実際の所、俺の指先からは所謂、魔力のような物が放出されていた。
「本能的に分かるというか何と言うか。何なんだろうなコレ。思考誘導でも受けてんのか?」
そういやアイツが法がどうとか言ってたな。俺は考察厨では無いのであまり興味はないのだが、あそこまで露骨にアピってきたのだ。帰ってきたら少しは耳を傾けてやろうではないか。
そんなこんなで魔方陣が完成した。いやぁ、それにしても助かる。どうやらこの魔方陣は使用時淡く光る以外はまるで視覚に訴えてくる事がない。邪教徒のお祈り部屋風レイアウトなんて真っ平御免な俺にとってはかなりの朗報だ。
さて、使用時淡く光るという事を俺が知っている。それはつまり、俺が既にこの練成陣を利用したという事だ。
今俺の横には緑の子鬼……ゴブリンが座っている。いい子にしててね。アイツの中でしっかり生きるんだよ。
まぁホブゴブリンに進化させてからようやく混ぜる意味が生まれるので、暫くは俺の部屋のインテリアとなって貰おう。あといざという時の肉壁。
コンコンと窓が叩かれる音。アイツが帰ってきたサインだ。俺は立ち上がり、窓を開け蝙蝠屋敷の主を部屋に入れる。
「どうだ?魔石は幾つ取れた?」
「ゴブリン狩りはそこそこで切り上げてもう少し強い魔狼を狩りましたぞ」
「余計な事してんじゃねぇゴブリンに混ぜるぞてめえ」
「!?!!?」
俺はゴブリンの魔石が欲しいからお前に狩りに行かせたんだよ!誰が魔狼とかいうスキルにクソほど旨味の無い魔物狩れつったよ。
「チッ、これじゃあホブゴブ1体が限界じゃねぇか」
しかもその一体を作る事すらギリギリの量である。お前あとちょっとでも少なかったらマジで混ぜてたからな?
「あ、主殿、申し訳ないですぞ……」
蝙蝠屋敷の主がダンディーな顔を歪めて此方に謝ってくる。
イケオジとか俺の好みじゃないんだよなぁ。
「いいから休憩を取れ。その後もう一回狩りだ。次は……分かってるな?」
俺の言葉に対しコクコクと頷くと、蝙蝠屋敷の主は一応水を貯めてある(というか風呂桶の中の水を昨晩から放置していた)風呂場で、タオルを濡らして身体を拭くべく部屋を出て行った。
一度えげつない体臭のまま寝転がろうとした時俺が首を絞めてオトしかけた影響もあってか、かなりスムーズな移動だった。
さて、と。じゃあ俺はゴブリンを練成しますかね。