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頭を使う常識人気取り


「おおおおおあああああ!!!」


 包丁を構えただ真っ直ぐに突き進む。


「流石に馬鹿正直すぎるなぁ、君らしくもない……ッ!?」


 包丁を軽くいなそうと出された矢の束を、直前で包丁を投げ捨て、ガッシリと掴む・・


 勢いそのままアルザの両脚の間に自らの脚を差し込み、かかと同士をカチ合わせた。


「わわっ!?」


「とびきりをくれてやる!覚悟しろクソ侵略者が!」


 アルザの掴んでいる矢の束をこちら側にグイ、と引き寄せる。


 もしここで矢から手を離すようであれば、奪った矢でそのまま腹に風穴を空けてやろうとも考えていたのだが――無論、アルザが矢を離す気配はない。


 だがタカに引っ張られ態勢を"く"の字にされたアルザのその後頭部はどうしようもなく隙だらけであった。


「うらあああああああああッ!!!」


 片腕は相変わらず捻じ曲がっている。拳を振るう事は出来そうにない。なら脚は。いや、態勢を崩すのに使っている最中だ。


 なら、頭を使おう。


 そんな刹那の思考の後に、タカはアルザの後頭部へ思い切りデコをぶつけた。


「がっはぁ!?」


 流石のアルザと言えど、後頭部にノーガードで強烈な一撃を食らって平然としてはいられなかった。


 さあ今度は蹴りを食らわせてやろうと構えた脚。

 その脚に込めた力が、不意に消えた。


「あ……?」


 血の不足に加え、頭部への激しい衝撃。


 つまるところ、気絶、である。



 暗転していく意識の中、タカは最後の力を振り絞り、アルザに向け中指を立てた。















「……」


 知らない天井だ。


 ……とまぁ、寝起き一発目のふざけた感想は兎も角。


「……誰か、いるか?」


「おー、起きたか」


 その声はほっぴーか。


 よいしょ、と呻きに近いような声を出しつつ起き上がる。


 見れば、ほっぴーが俺の座っているモノと同じ材質のベットに横たわりながら本を読んでいた。

 嘘だろお前。


 更に周囲をぐるりと見渡す。


 すると、未だに寝息を立てているバンシーとおっさんが居た。

 おっさんに割と悪質なイタズラをしたくなる気持ちを何とか抑えつつ、ほっぴーの方へ向き直る。


「もしかしてだけどさ。ここ、魔王軍関連の……?」


「おう。本部の一角だとよ。つまりは……」


 異世界という訳だ。


 俺は眩暈を覚えて、再びベッドの上に倒れた。












「状況を整理しよう」


 まず俺達はアルザに敗北した。一応、俺が一発食らわせてやったので完敗ではない。そう、完敗ではない。


 そして目が覚めたら異世界にある魔王軍本部の一角に連れてこられていた。


 うむ。ここまではオーケーだ。全然オーケーではないが、理解は出来る。


「ただ何でお前はそこまで落ち着きはらってる上に本なんか読んでんだ!?」


「魔法学基礎、だってさ」


 俺がそう叫ぶと、ほっぴーがヒラヒラと本の表紙を振り、こちらに見せてきた。


 表紙に付箋が貼られている。かなりたどたどしい字で書かれているが……ふむ。魔法学基礎~入門編①~……


「……あー、クソ。頭いてぇ。よく分からんが、とりあえず俺にも読ませろ」


「お前ならすぐに適応出来るって信じてたぜ。じゃあ俺は入門編の二巻読むから」


 そう言うとほっぴーが入門編①をこちらに投げ渡してきた。


「どれどれ。ほーーーん、なるほどーーー」


 字が読めん。何だこれ。異世界語か?


「あ、やっぱお前も無理?」


「むしろ何で読めると思った」


「いやホラ、普段の言動からして、ちょっと悪魔の血引いてそうだし」


「悪口の切り口が斬新すぎる」


「まあ、いっか。とりあえず魔方陣の図みたいなの載ってるし、そこ重点的にチェックして規則性見つけるぞ」


 規則性、ねぇ。


「んな事より書いた方が早くね?」


「書くって?」


 俺の提案にキョトン、とした表情を浮かべるほっぴー。

 おいおい。


「ホラ、俺らが練成の魔方陣とか書く時の要領でさ。この辺の壁にでも書こう」


「なるほど」


 言うが早いか、俺たちは黙々と壁に魔方陣を模写し始めた。


「なるべく単純なの選んだんだが結構難しいな」


 後方からほっぴーの声が聞こえてきたが、俺にそれに答えるだけの余裕は無かった。


 何だこれ。めっちゃ集中力要る。疲れる。あと自分が書き終えた箇所が分かり辛い。




 そんなこんなで数分程経過し、遂に魔方陣が完成しつつある。そんな時に、俺達の部屋の扉は開け放たれた。


「やあ!タカにほっぴー!起きて早々部屋の壁に魔方陣を書き殴るなんて素晴らしい!ここが魔王軍の本部の一角だという事はほっぴーの方に伝えていたはずなんだけどな!伝わってなかったかな!?」


 やけにハイテンション……いや、半ばキレ気味のアルザが、部屋に突入するなり、俺達の首根っこを掴んで部屋の中央に移動させた。


「寝ぼけた勢いで。つい」


「タカ、嘘は良くない……嘘だよね?君はもう少し頭が使える子だって信じてるよ?」


 頭突きの事か?


「違うねぇ!タカ、君が何のことを思い浮かべたかはだいたい分かるよ!そして、それは絶対に違う!」


 そう早口でまくし立てた後、はあ、と大きな溜め息をつくアルザ。


 お疲れのようで。


「……僕がどれだけ必死に他の幹部や魔王様を説得したか分かってるのかい……?カーリアの助力もあって、ようやく会議が君達を受け入れる方向で終了して、さあ君達の様子を見に来よう!と思って来てみればこのザマだ……適応力が高いとかそういうレベルじゃない。ただのサイコだよ……」


 失敬な。俺は十傑の中じゃ数少ない常識人ポジだぞ。

 ん?なんだ。ほっぴー。おい、その表情やめろ。何だ?心を読んだのか?


「……タカ、お前は群を抜いて異常だからな?」


「てめぇにだけは言われたくねぇ!!!」


「そりゃこっちのセリフだよ!」


 そう言ってギャーギャーと言い争い始めた俺達を暫く眺めていたアルザが。ポツリと言葉を漏らした。


「グールの共食い、だな……」


 後で聞いたけど、「どんぐりの背比べ」的な意味のことわざだそうです。













タカ:こういう時に掲示板魔法が便利なんだな


ほっぴー:バレねぇように慎重にしないとな


ガッテン:おい。お前ら生きてたのか


タカ:おう


ガッテン:ちょっとツイッターのグルの方で報告してくる


ほっぴー:頼んだ。こっちスマホの電波とどかねぇのよ


七色の悪魔:フハハハハハ!


七色の悪魔:いやもう、本当に心配しましたよ。どこか怪我があったりだとか、体調が悪いだとか、ありませんか?


ジーク:二人が死に損ねたと聞いて


鳩貴族:東京でいったい何があったんですか?


スペルマン:マジ心配したよ~


紅羽:ちょいカーリアちゃん越しに話入ってきたんだが


スペルマン:紅羽氏、その辺は後で良くない?


紅羽:まあ、そうだな


ガッテン:皆、なんだかんだで心配してたんだな……


タカ:まあ数少ない常識人枠だもんな


ほっぴー:は?


ジーク:悪魔さんの事かな?いやほんと良識ある大人だよね


タカ:悪魔さんもだけど俺もたいがいまともだぞ


鳩貴族:タカさんが常識人ならこのグル全員常識人になりますよ


スペルマン:タカ氏、流石にネタだよね?


ほっぴー:頭打ってイカレたのか、記憶を改ざんでもされたか……


タカ:あ?コラ


ジーク:これはギスギスの香り


ガッテン:このグルでまともなのは俺と悪魔さんだけやぞ


タカ:は?


七色の悪魔:まあまあ、皆違って皆良いという事で、ここは一つ穏便に


ガッテン:ねえ遠まわしに俺が常識人なの否定されてない?気のせい?


ジーク:悪魔さんだけがこのグルの癒し


ガッテン:俺は?


ほっぴー:こいつ自分で癒し系を名乗ろうとしてんのか……


ガッテン:いや違うやん?


紅羽:きっしょ


ガッテン:きっしょ!?ねぇほっぴー訂正して!つーかこのグルの面子、印象操作が達者な奴多すぎない!?


タカ:下がってろ異常者


ジーク:ブーメラン通り越してほぼ切腹なんだよなぁ……


ガッテン:ねぇおかしいよ……前半の暖かい空気はどこ……?ここ……?


鳩貴族:今も熱を帯びてるじゃないですか


ガッテン:鳩貴族さん、暖かい空気って言わないんだよソレ。炎上、とかヒートアップって言うんだ。


タカ:こうやってすぐ内ゲバ始めるのがお前らの悪い癖だわ


ジーク:後頭部でブーメラン栽培でもやってるんですかね……


ほっぴー:自分で放火した家眺めながら、「酷いなぁ、誰がこんな事を」って呟くサイコ野郎感







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