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コスプレ着させ隊

「これ、本日と、不在の間の分の給料です」


「ありがとうございます……よし、よし。発注通りの品がきてるな」


 書面と照らし合わせ、不備が無い事を確認し終えたほっぴーが、ふと何か思い立ったかのように顔をあげた。


「そうだ。PR動画の第二段の計画を練っている最中なんだけど」


「おお、腕が鳴りますね……」


 目を輝かせ肩をぐるんぐるん回し始めたカーリアに、にっこりと笑いかけた後、ほっぴーはこう切り出した。


「今回は様々な民族衣装を着てもらって、世界中の人間に親近感を持ってもらえるようなPR動画に出来たら、と考えてるんだが。どうかな?」










 某日の、とある時刻に、その動画は投稿された。


 タイトルは、「カーリアちゃんからのお願い」。内容は以下のようなモノである。




『……あれっ?もしかしてもう撮ってるんですか?』


 どこかの一室だろうか、ソファに座ったカーリアが映されている。


『えーっと、セリフは……あ、助かります』


 カンペでも出されているのか、少しカメラの下方部に目を向けた後、居住まいを正したカーリア。


『私が次のPR動画で着る衣装を募集します!えーっと、詳細はこの下のURLをクリック!……下ってどこですか?私には何も無いように……へんしゅう?で、後付けするのですか?はあ、分かりました』


 動画は、ここでカーリアの指差す下部分にURLが添付されており、そこから要望を広報部に届けられる仕様になっていた。


『それでは!また次の動画でお会いしましょう!』


 そして動画はカーリアちゃんが笑顔で手を振るところで締めくくられる。







「はーい、カットォ!最高!」


「いいよぉ!カーリアちゃん!最高の笑顔だ!」


「そ、そうですか……?」


 何故か偉そうに椅子に座りふんぞり返っているほっぴーと、カンペを構えていたスペルマンから賛辞の言葉がとぶ。


「当初はどうなるかと思いましたが、順調に人間との共存の道が開けているようで……嬉しいです」


 感極まったようなカーリアちゃんの言葉に、撮影班一同で、うんうんと頷きつつも、ほっぴーがその発言をスマホのメモ機能に入力する。


 忘れがちではあるが、広報部の面子は、魔王軍の実態や目的を暴いてやろう、と、いつだって虎視眈々と隙を狙っている。完全に遊びに走ってる時もあるが。


 特にほっぴーは、カーリアちゃんの漏らしたボロをつぶさに記録する事に関しては、職人の域に達していた。


「そうだ。カーリアちゃんPR動画とは別に、魔王軍に就職しよう!みたいなPVが作れたりしないかな?ちょっとだけ職務に関する事も説明して、さ。そういう動画が求められる頃だと思うんだ、そろそろ」


 唐突に突っ込んだ話をし始めたタカに、スペルマンとほっぴーから非難の眼差しが向けられるが、タカはどこ吹く風といった感じで更に言葉を発した。


「カーリアちゃんの動画を入り口に、もっと魔王軍の事を知って貰いたい。俺達だってそこまで知ってる訳じゃないけど」


「……ふむ。そうですね。実績もそれなりに積みましたし、少し上司に話してみます」


 カーリアからは死角になっている方の口の端を、ギイっと釣り上げ、歪に笑うタカ。

 さしものほっぴーとスペルマンもドン引き……ああいや、ほっぴーだけはナイス!といった表情を浮かべていた。


「じゃあ俺達は、衣装の調達も兼ねて……東京に行ってくるんで」


 椅子から立ち上がったほっぴーが何気ない調子でカーリアに声をかける。


「東京、ですか。あそこはまた管轄が別ですので、何とも……どうかご無事で」


「万全は期すつもりです。カーリアちゃんの今後の予定は?」


「上司に話を。また、少し忙しくなるかもしれません」


「じゃあそれまでにPR動画案を固めておくよ」


「はい。お願いします」


 そう言うと、カーリアちゃんは風の如くふわり、と消えた。





 

 [ 魔王軍広報部(4) ]


タカ:共存つってたな


ほっぴー:なんとなく掴めて来たな。まあここまで滅茶苦茶にしといて、今更?って感じはしなくもないが


スペルマン:もっと魔王軍の深いとこまで潜り込まないと、コレ以上の情報はキツいんじゃない?


タカ:まあな


紅羽:お前ら、撮影終わったのか?


タカ:終わったぞ。この後は予定通り、東京に行く。可能ならアルザにも会いたいが……


ほっぴー:なんか東京は管轄がー、みたいな事言ってたよな


ほっぴー:東京、ですか。あそこはまた管轄が別ですので、何とも……


ほっぴー:ほい。発言のメモな


タカ:うーん。発言から察するに、カーリアちゃんの管轄はこの辺?


ほっぴー:さて、な。東京だけが特別で、他は特に区別が無いって可能性もあるぞ


スペルマン:カーリアちゃんの管轄はフェアリーじゃね?


タカ:でもバリバリ人襲ってたし


タカ:……あれ?襲ってなくね?


ほっぴー:え


タカ:食料奪ってただけじゃね?そう言えば。そこから発展して人と争いはしてたけど


ほっぴー:あー、ちょっとここまでのトーク履歴、鳩貴族さんに送っとく


紅羽:ようやく見えてきた、か?


ほっぴー:俺らが変に遊びに走ってなかったらもっと早くに解明してそうな事ではある


紅羽:そういえばコスプレさせるつってたな。どういう意図が?


スペルマン:意図というか性的趣向というか


紅羽:……まあいいや。あたしもちょっと見たいし


タカ:とりあえず東京行きの準備するか。なるべく少数精鋭で行くぞ。あとモータルとはどうする?合流するか?


ほっぴー:地理に長けた人間は頼もしい。たとえちょっとサイコ臭がしてようと有用だ。合流するぞ


タカ:了解。連絡取っとく。じゃあスペルマンと紅羽。留守番よろしく!


紅羽:おう


スペルマン:了解~








「ほっぴー、準備はどうだ」


「完璧」


「よし。一応、役割を確認しておくぞ」



 タカ、ほっぴー、蝙蝠屋敷の主、バンシー。


 四人が玄関先に集まり、最後のミーティングを行っていた。


「バンシー、お前は荷物持ち。所謂ポーターだ」


「あう!」


「おっさん。斥候役、頼むぞ」


「御意に」


「ほっぴーは、まあ状況に応じて」


「おう」


 やや無茶振りに近い配役だが、それをこなせてしまうのがほっぴーという男だ。


「そして俺。場合に応じて斥候及び……対人戦闘」


 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるタカを見かねて、ほっぴーが心配そうに声をかける。


「本当に大丈夫か?やっぱりモータルと合流した方が」


「モータルは今、一人じゃない。別の人間を二人連れてる状態だ」


 それは、ある事を指している。


「アキバに、コスプレ衣装を取りに行くので手伝って下さいなんて、言える訳ぁねぇだろうがよ……!」


 そう。盛大に覚悟を決め、張り詰めた空気が漂ったこの集団の目的は、コスプレ衣装の確保なのである。


「接敵はゼロが理想だ。ただどうしようもならなくなったら……やるぞ」


「ああ。その時は俺もやるぜ」


「主殿。何でしたらすべて、我輩が」


「……お言葉に甘える羽目になっちまうかもな」


「構いません。その為の我輩ですぞ」


 タカはふっと微笑みを浮かべた後、勢いよく玄関のドアを開け放った。


「行くぞお前ら!カーリアちゃんにコスプレ着させ隊、出陣だぁああああ!!!」


「べがーーーーっ!」


 最低である。



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