言葉の濁流と会議
『自己紹介?』
『タカにしては名案だな。特定してやるから覚悟しとけよガッテン』
『だから俺じゃねえ!!!』
ギャーギャー喧しい奴等だ。自己紹介しませんか?って言っただけだぞ俺は。
「俺から始めてく。順番は俺が名指ししてやるから素直に従え。いいな?」
『ハハッ(高音)』
『誰だ今の。ガッテンか?』
『何をどう解釈したら俺になるんだよ!?』
あの。
「……よし、一回黙ろうか。お前ら」
『ザザ……ザ……江藤さん、ちゃんと血抜きを――』
俺は突っ込まないからな。というかソレほんとにリスだよな?信用していいよな?
まあいい。俺はやるぞ。自己紹介をやり遂げてみせる。
「……俺はタカ。現在地は千葉だ。次、紅羽」
『ん?あたしか?……えーと、あたしは紅羽。現在地は千葉』
「次、そうだな、ガッテン」
『俺か。俺はガッテン。現在地は――「ん?ガッテン、誰と喋っている。友達か?」あ、ヴァンプレディちゃん……いや、えっと、これは』
「グループから追放ってどうやるんだっけ」
「まずグループのメンバーのとこ押せ」
隣に座っていたほっぴーから助言を貰い、俺はガッテンを退会――
『はいストップ!待って!一旦!一旦な!』
「うるせぇ!!!問答無用だこの野郎!!!」
『いやもうほんと!ほんと待って!ごめんて!リアであったら土下座でも何でもするから!』
『ん?』
「今何でもするって」
言ったよね?
『分かった!分かりたくねぇけど分かったから!頼む!自己紹介続けさせて!お願い!』
仕方ねぇな。
「天の石一個で我慢してやるよ」
『この世界だと滅茶苦茶貴重じゃないか?入手キツくね?』
まあ確かにそうか。だがバンシーへの進化も済ませたし暫くは高純度の魔結晶は要らないよなぁ。というかソレも天の石と同等の入手難易度だし。
「タカ氏、普通こういうのって冗談として一旦流すんだよ……何マジ顔で要求物について悩んでるの……」
『え?そいつそんな事してんの?ねぇ正気じゃないよ考え直して』
『俺知ってるよ。タカはいつだってガチ』
なんか含みのある言い方だな。
あと紅羽の耳は誤魔化せても俺のは誤魔化せないぞ。お前ぜってぇジークだろ。
まぁいい。自己紹介の手番を回してやれば自然と明るみに出る。
「仕方ねぇな。一旦保留してやるとして、ガッテン。お前の現在地はどこだ?」
『福岡だ』
こりゃまた遠い場所に……
「この中で九州に居る奴は?」
『…………』
「はー……これだからガッテンは」
『何で!?俺悪くなくない!?』
四国にいるジークと七色の悪魔さんと合流しようにも、海で隔たれているというのがなかなかにキツい。
「まあいい。じゃあ次はジーク」
『……』
おい。
紅羽からバレるのが怖いのか?なら最初から煽るなや。
『あー、俺がジーク。現在地は愛媛』
「次、七色の悪魔さん」
『七色の悪魔です……あ、いや、我が名を呼んだな!そう!我こそはかの』
「あ、そういうの良いんで」
「タカ氏手厳しいね……」
いやだって付き合ってたらキリないよ?
ホラ、ほっぴーも、よくやった!みたいな顔でこっち見てるじゃん。
『えーと、七色の悪魔です。現在地は愛媛です』
よし、残りは……まぁモータルは把握してるし最後でいいか。
「次、鳩貴族さん」
『どうも、鳩貴族です。現在地は京都です』
「京都……京都かぁ……」
どうやって集まればいいんだろうなぁ、コレ。
「じゃあ、次、モータル……モータルいるか?」
そう言えば少し前からノイズが消えている。交戦状態にでも入って、通話から抜けたのだろうか。
「……居ないみたいだな。じゃあ俺が補足しておこう。モータルの現在地は東京だ。知ってるだろうけど」
他のメンバーからあー、とか、そういやそうだな、等の声が返ってくる。
そんじゃ次は今リビングに居る二人だな。
「ほい、自己紹介しろ」
「あいよ。えーっと、俺がほっぴーだ。現在地は千葉。改めて、よろしく」
よろしくー、等の若干やる気なさげになってきた声が返ってくる。
まだ会議のスタートラインにすら立ててないんだけど?何でもうそんな、終礼の時の学生並みのモチベなの?
「えーっとスペルマンでっす!現在地は千葉です!よろしく!」
「よし、これで自己紹介が終わったな。ようやくスタートラインという訳だ」
『なんか既に紅羽とモータルが通話から抜けてるけど』
頭痛くなってきた……
「本当もう何なのお前ら……」
『盛大なブーメランやめろ』
いや、分かってるよ?分かってるけども。
『お代官さんの不在が悔やまれるな……ガッテンも何だかんだアホだし』
『流れるようにディスるんじゃねぇ!お前、ジークだろ!声覚えたからな!』
ホラもう揉め始めた!
「タカ氏ー、通話だとカオスがより凝縮された感じするしさ……後日、マサルって人も加えて掲示板魔法で会議やった方が良いんじゃない?」
「……だ、そうだが?」
スペルマンの意見を吟味しているのであろう、数秒ほどの沈黙の後に、十傑達は結論を出した。
「「『『異議無し』』」」
はい!以上!会議終了!!!各自解散!!
通話会議が自己紹介に終わったその数分後。ほっぴー、タカ、スペルマンの三人が再びリビングに集結していた。
「よし、皆集まったな?」
ほっぴーの問い掛けに、二人が神妙な面持ちで頷く。
「これより、カーリアちゃんPR動画第二段について会議を行う」
「……え?」
ポカンとするスペルマンに構う事なく、タカが早速提案を行う。
「コスプレさせようぜ」
「いいね」
その意見をサラサラと書面に認め始めるほっぴー。
「……あ、じゃあほっぴー氏、候補の一つに女教師のコスプレ……」
先ほどまで、これでいいのかと悩んでいたはずのスペルマンの姿はもう無い。
会議に参加どころか個人的趣向を堂々と晒し始めたスペルマン。だがそれを咎める者はここには誰一人居ない。
「定番どころは必要だろう。動画の再生の伸びも違ってくるだろうし……何より、やはり王道はイイ」
この場にツッコミ役等という無粋な存在は居ない。
居るのは、ただ一つの信念を胸に突き進まんとする漢が三人。
「ナース、婦警、チャイナドレス辺りは定番か」
「そうだな。外せないラインだ」
「アオザイ、なんてどうかな?」
「――――へぇ」
「やるな。スペルマン」
漢達の会議は、ただの一度の脱線もなく、2時間程続けられた……