自己紹介
バタバタと階段を上る音が聞こえる。
「……師匠!持ってきましたよ!」
俺が部屋でバンシーのお腹をぐにぐにやっていると、ベガが慌てた様子で扉を開け、入ってきた。
「今だ!言え!」
「ほんみょー!」
「からの!?」
「べがー!」
決まったぜ!
「いや何覚えさせてるんスか!?」
真実は白日の下に晒すべきだろ?
「言わぬが花、知らぬが仏!隠したままの方が良い事もあるってのは昔から言われてるッス、というか何で俺の名前を覚えさせる事にそんなに神経をそそいでるんスか!?」
「まぁ落ち着けよ。ベガくん」
「ほんみょー!」
「落ち着けるかァ!」
ベガお前、語尾が……
と、まあからかうのはこの辺にして。
「マジでマサルの識別番号持ってたのな」
「……当たり前ッスよ。今に至るまでネットが使えるってのが異常なんスよ?」
「まあ、そうだが。あの番号結構長くなかったか?」
「そりゃしんどかったッスけど、やらなきゃいけない事ッスから」
いやー、優秀な弟子を持てて俺は嬉しいよ。
したり顔でうんうんと頷く俺を、呆れたように見つめるベガ。
「……とりあえず、コレ」
「おう。うわぁ、びっしり……これ確認すんのか……」
「というか俺がやりますよ」
「あー、その方が早いってか?」
「そうッスね」
マジ?有能過ぎかよ。
それじゃあ頼んだ、とばかりに再びバンシーの腹を枕にして寝転がった俺を、ベガが信じられないモノを見るかのように見つめてくる。
「……どうした」
「え、あ、いや……そりゃ俺がやるとは言ったッスけど……もっと、こう、無いんスか?」
「あー……じゃあ、アレだ。魔狼あげる。移動用に使うも良し、愛玩用で拠点に置いとくも良し。どうだ?」
「どうだ?って……いやまあ貰うッスけど」
と言いつつも少し頬が緩んでいるベガ。
へっへっへ。口はそうでも身体は素直だなぁ?
タカ:マサルの識別番号、一致してたぞ
鳩貴族:おお!
ガッテン:一致したはいいが、これからどうするんだ?
ほっぴー:ちと会議開くぞ。カーリアちゃん別務で暫く来れないっぽいし、今がチャンスだ
タカ:本当に来ないんだろうな?
ほっぴー:嘆願書を通じて届いた情報だ。詳細は省くが、信憑性は高いぞ。
ガッテン:嘆願書?何の?
ほっぴー:マサルの捜索だ。あと天の石くれっていう要望を
紅羽:何てめぇだけガチャ引きまくろうとしてんだ
ガッテン:仄かに香る内ゲバの臭い……!やめようね!
タカ:流石に異世界の件についての話し合いの方が急務だと思うぞ
ガッテン:タカがまともだと……?
ジーク:こわい
七色の悪魔:タカさん何かあったんですか?
鳩貴族:よほど酷い爆死を経験したとしか
タカ:いい度胸だ。位置情報晒せコラ。ぶん殴りに行く
ほっぴー:タカ……天の石返そうか……?
タカ:うるせぇ!!!!なんなんだよ!!!当たり前の事言っただけだろ!!!あと天の石は可能なら返してくれると嬉しいな!!!!
紅羽:平常運転だな
ほっぴー:びっくりマークの合間に潜んだ厚かましさ……間違いない、タカだ!
Mortal:会議やるのか?
ガッテン:モータルは何気に常識人だったんじゃないかと睨んでるよ、俺は。そうだね、会議しなきゃね
Mortal:皮剥ぎ終わったら参加する
ガッテン:たった一文で希望を打ち砕くのはやめようね
Mortal:いや単なるリスやぞ
ジーク:リスの皮を剥ぎながらスマホを弄る神経
ガッテン:はい!終わり!!!もうこれ以上お喋り駄目!!!
ガッテン:ラインの通話で会議するぞ!
タカ:ブロックしたままやから無理やぞ
ガッテン:だったら解除しろばーか!!!!!
ジーク:草
ガッテン:勝手にグル作るからな!参加しろよ!!!そして半数集まったらもう通話始めます!以上!
鳩貴族:えらく強引ですね
ガッテン:だってお前らこうでもしねぇと動かねぇだろうが!!!!!
突如として始まった通話会議に参加するべく、慌ててラインを開く。
「とりあえずブロック解除して、と。あ、おいベガ」
「何スか?」
「俺の仲間共の会議が始まる。一応参加しとけ……ああいや、近くにいりゃ済む話か」
「よく分かんないけど、了解ッス」
既に作られていたグループを開き、参加を押す。
見れば、既に9人が集まっていた。
「お代官さん……」
そう少し寂しげに呟くと同時に、グループ通話が開始された。流石にここで参加せずガッテンを煽るような事は……うっ、ぐっ……し、しない……!
「師匠、なんでそんな苦悶の表情浮かべてるんスか?」
「危ない、危ない。理性をもってかれる所だった」
『ねぇ凄く物騒なワードが聞こえたけど気のせい?』
「気のせいだ。というか誰が誰の声とか分からないんだが」
つーかノイズえっぐ。誰か外で通話してやが……モータルか。あいつ……
『広報部は一旦リビング集まれ。面倒だから一つのスマホでやるぞ』
今の声はほっぴーだな。
「了解。ベガも連れてくが構わないな?」
『ソイツ俺らの広報部の業務理解してたっけ』
「理解させた」
『了解。とりあえず、俺とタカ、紅羽、スペルマンはリビングに来い。あ、いや、紅羽は厳しいな』
『おう。別の避難所に居るからな』
『うわ紅羽マジで女かよ』
『誰だ今の。焼いてやるから出て来いやコラ』
結構な低音だったな。発言内容から察するにジーク、か?
まあとりあえず、ほっぴーの指示通りにリビングに移動しますかね。
俺はベガを連れ、部屋を後にした。
そうやって俺が階段を降りていく最中にも通話は続いている。
主な内容は、誰かが紅羽を煽り、紅羽がその誰かを必死に特定しようとする。とまぁ、そんな感じだ。会議やれや。
その不毛な煽り合戦はとうとう俺がリビングに到着しスペルマン、ほっぴーと合流するまで続いた。
『え?じゃあ、煽ったのはガッテンって事でいいのか?』
『ソウダヨー(高音)』
『騙されるな!今の高音の奴だ!』
『あぁ!?だからどれだよ!?』
「……なあ、ほっぴー」
「言うな。分かってる。俺らに会議なんて無理だったのかもしれん」
「タカ氏~、なんとかしてよ」
そんな風に言われてもな。俺は件の万能青ダヌキではない。
ちなみに俺が到着してから二人は通話からそっと抜けた。しれっと俺に発言任せようとしてんじゃねぇよ。
……仕方ねぇな。やってやるよ。
「……あー、聞こえるか。十傑共」
『タカか?』
「おう、紅羽。あー、そうだな、お前ら……一旦そのー、アレだ」
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