行方不明と伝手
部屋中を満たしていた光が徐々に一所へと収束していく。
「……おお!」
その光の中心には、完全に血の気の失せた顔色と目の下の隈を除けば、美少女と呼べるであろう容姿をした魔物が立っていた。
「バンシー……!」
「あうー!」
どうだ!とばかりにダブルピースを決めるバンシー。
すげぇな。ナチュラルにカーリアちゃんを煽ってやがる……ああいや、本人には自覚無いから煽れないか。
「あれ?バンシーって普通にボイスあったし喋れるんじゃないのか」
「うーあー!」
ブンブンと首を振るバンシー。その影響で腰まである黒い長髪がばっさばっさと振り回され、俺にビシビシと当たる。
「グールから進化した影響か?……あれ、バンシーってお腹飛び出てたっけ」
「ううーあー!」
どこか誇らしげに張ったお腹をぽんぽーんと叩くと、バンシーが両手を広げた。
何だ?すしざんまいか?
「うーーー!」
ああ、成る程。
バンシーの意図を理解した俺は、バンシーに導かれるままに、お腹をぐにぐにした後それを枕にして寝転がった。
いやー。多分バンシーにこんなお腹無かったけど……まあいいか。
「うあ……あーうう」
……色々と考えるの疲れたし、一旦IQ下げるか。あうあうー。
「あうー!」
だよねー。マジあうあうって感じ。あうー。
タカ:あうあう
ほっぴー:お。進化どうだった
タカ:あーううー!
ガッテン:普通にドン引きなんだが
タカ:あ?コラ
ジーク:正体現したね。
タカ:進化は大成功だ。無事バンシーになった
ほっぴー:おめっとさん
ジーク:おめ
ガッテン:マジかよ。早くね?
ガッテン:俺まだヴァンプレディしか手持ち居ないんだけど
タカ:つーかガッテンはどこで何やってんだよ
ガッテン:周辺でひたすら狩り。たまに移動
ほっぴー:パーティー貧弱すぎっと死ぬぞ
タカ:さっさと場所晒して誰かに迎えに行って貰えや
ガッテン:あー。じゃあ東京目指そうかな
タカ:東京じゃなくて俺らの拠点は千葉だっつの
ガッテン:うーん
ガッテン:四国の方いってもいいけど。徒歩しんどいなぁ
ほっぴー:魔狼に乗るだけでかなり違うぞ
ガッテン:分かった。ただなぁ……ヴァンプレディが狼に乗るのを良しとしてくれるかどうか
タカ:いやーーーーーー俺のバンシーちゃんは従順だしお腹が気持ちいいし最高だわーーーーーーーー!
鳩貴族:バンシーに進化するとあの素晴らしいお腹は凹んでしまうはずですが
タカ:あ、やっぱりそうだったよな?なんかな、そこだけグールの時と変わってねぇのよ
鳩貴族:……ふむ。まぁ実物と多少異なる点があってもおかしくない、と言ってしまえばそれまでなんですが
タカ:まぁ進化ってだいぶすげぇ事してる感あったし
タカ:もし石で直接手に入れてたらお腹引っ込んでたのかもな
鳩貴族:……バンシーのお腹画像とかって
タカ:幾ら出せる?
タカ:おっと。ここからは個チャの方で話そうか
ジーク:さすが広報部(白目)
ガッテン:ノータイムで幾ら出せる?の返しは慣れてないと出ないぞ……
ほっぴー:魔王軍広報部は今日も平和です
「弟子共の様子を見に行こう」
「べがー!」
多少は人に見せられる容姿になったバンシーに、紅羽から色々と融通して貰い、まともな服を着せた。
これで立派などこにでもいる体調がかなり悪そうな妊婦……
駄目じゃね?
「バンシーはお留守番かなぁ……」
「!?……がるるるる!」
はっはっは。そうスネるな。
掴み掛かられ、脱臼した肩を入れ直した後、バンシーに向き直る。
「俺は、お前に傷付いて欲しくないんだ。分かるな?」
「……あうー」
渋々といった感じで頷いたバンシーの頭をぽんぽん、と撫でてやる。
「じゃあ、行ってくるから。ここの警備を頼んだぞ」
「あう!」
そう返事をしたバンシーに軽く手を振りつつ、俺は部屋を出て避難所の場所へと向かった。
街の静寂を、足音で破りつつ進む。
「……これカーリアちゃん効果か?」
いや違うか。フェアリー別に殺してもいいですよ、とカーリアちゃんに許可貰ってから気が変わらない内に、と俺らが殺しまくったせいか。
すぐ不毛の地になっちゃうなぁ。参っちゃうぜ。
そんな事を考えている内に、避難所に着く。
どう入ったものか、と俺が門の付近をうろうろしていると、それに気がついた警備隊の一人が嬉しそうに手を振ってきた。
とりあえず手を振り返していると、キィ、という音と共に門が開いた。
「タカさん!待っていましたよ!是非中へ!……ああ、他の仲間の人は今日は来られなかったんですか?」
門から慌てて飛び出してきて、俺の手を引きぐいぐいと中へ連れ込もうとしているこの人は、ここの集団のリーダー。西川さんである。
「あー、すみません。西川さん。ちょっとベガとマサル呼んできて貰えますか」
「……は、はい!」
西川さんが校舎の方角へ走っていった数分後。ベガと……見たことの無い男一人が俺の所へやってきた。
「……ベガ、隣の奴は誰だ?」
「ホラ、やっぱり言ったじゃないッスか。呼んでるマサルはこっちの事じゃないって」
「……じゃ、持ち場に戻っていいか?」
「はいッス。あ、いいッスよね?師匠」
「お、おう」
師匠呼び久々すぎて、素で「は?」と返しそうになった。危ない危ない。
「んで?俺の弟子の方のマサルはどうした?」
「えっと……俺はてっきり師匠の所に行ってるもんかと」
……?
「避難所にお前と一緒に配属したよな?」
「でもある日急に居なくなって……多分師匠の所だろうって」
「んな訳あるか。もし俺のところに来るにしても、何かしら連絡はあるはずだろ」
「いや、まあ冷静に考えればそうなんスけど……あの時はバタバタしてたし、師匠の方針もよく分からなかったッスから」
「……」
俺にも非はある、か。しかし参ったな。マサル見かけないなーと思ってたらまさか行方不明だったとは。
「分かった。……つー訳だ、西川さん。暫くここには来れそうにない」
「分かりました」
門の隙間から西川さんがひょこっと顔をだし、了承の旨を伝えてくる。
なんかゆるキャラ感パないな。太ってるし。
「師匠……」
「任せろ。人探しのプロに伝手があってな。しかも機動力が凄い」
「……分かりました。先輩を頼むッス」
「おう」
ベガを安心させる為にグっと親指を立ててみせる。
任せろ。俺らにはな……魔王軍とかいうバックがついてんだ。人ひとり見つけるくらい、造作も無い。なあ、カーリアちゃん!
俺はカーリアちゃんにアポを取るべく広報部拠点へと急いだ。