現状の把握、今後の計画
「ふぉっふぉ!我輩を呼び出したのは貴様かね?……その、随分と……大丈夫か?」
「キッツ……」
俺が引いたのはSR、蝙蝠屋敷の主だった。
というか引いた後思ったんだが俺の部屋に魔物いるとか超不愉快だな。追い出したい。
タカ:爆死した……
ガッテン:乙wwwwwww
何出たの
タカ:蝙蝠屋敷の主
ガッテン:短剣スキル持ちだし火力出るじゃん
タカ:いやなんか冷静になったら謎の貴族風色白おじさんと同じ部屋に居るとか恐怖でしかない
ガッテン:笑うわ。まぁすぐ慣れるでしょ。お前ゲーム脳じゃん
タカ:それな。さっきまであんなに怖かったゴブの死骸、今となってはドロップ品出てねぇじゃんどうなってんの以上の感想が持てない
ガッテン:あ、それなんだけどさ。もしかして某狩りゲーみたいに素材剥ぎ取るんじゃね?
タカ:それあるな。おっさん初期装備に短剣持ってるしやらせてみる。あとお前もはやく引け
ガッテン:分かったよ。ちょっと待て
「さて、と」
正直動揺が無いかと言えば嘘になる。
なんで有名所でなくこんなマイナーな過疎ゲーが現実化してるのか、という点も勿論あるが、それよりも聖樹の国の魔物使いか、なら大丈夫だわ、と簡単に割り切ってしまえた自分自身への動揺だ。
「おい、おっさん」
「不遜な態度だな。身の程を弁えよ」
「蝙蝠屋敷とか言いつついい歳してベッドに熊のぬいぐるみ置いてやがったおっさん」
「何なりとご命令を。主殿」
即落ち二コマかな?
まあいい。
この蝙蝠屋敷の主は、ハロウィンイベにてボス枠として登場した魔物である。
あの時は苦労したなぁ。過疎ってるせいで推奨人数を満たせず滅茶苦茶苦戦した記憶がある。というかプレイ人口に合わせて弱体化させとけや。
余談だが、そのイベマップの寝室というエリアにひっそりと熊のぬいぐるみが配置されていたのだ。あの時は皆でドン引きしたなぁ。
「下の階にゴブリンの死骸がある。魔石を回収してこい」
「御意」
さて、と。
タカ:どう思う?
ガッテン:あのゲームの開発スタッフの中に異世界人でも居たんじゃねぇのかな
どう思う、の一言で俺の訊きたい事を把握するガッテンは、別ゲーでも上位に食い込む実力を持っているだけあって、鋭い。
タカ:まあ、こんなものを見せられちゃそんな風に解釈するしかねぇよな
ガッテン:だろ?あと何で俺とお前しか反応がねぇんだよ。他の十傑はどうした
タカ:知るか
ガッテン:はあ、心まで過疎っちゃってまぁ……
タカ:あとはやく引け
ガッテン:実はもう引いてな
ゲーム時代の推しだったヴァンプレディだったわ。やっぱお前とは運命力が段違い?みたいな?
俺は無言でガッテンをブロックした。
「ゴブリンの魔石……ゲームのグラフィックの通りだな」
赤い石ころ。
ゲームの通りであればコレを五つ程集めればゴブリンを生成出来る。
そしてそのゴブリンを進化してホブゴブリンにして所持してる物攻補正Ⅰを付与してある程度上げたら今度はホブゴブ同士混ぜて……
「その、主殿。コチラも」
「ん?……お、ゴブ皮じゃん。初期の皮装備でも作るか」
でもアレ緑色でてかてかしててダサいんだよなぁ。
「というかコレどうしたんだよ。わざわざ剥いだのか?」
「魔石の回収と同時にゴブリンの身体が消滅し、ソレだけが残された。魔力によって支えられていた身体が魔石の摘出により崩壊した訳ですな。主殿、何でしたら詳しい原理を――」
「ちょっと黙っててくれ」
よし。とりあえず状況とこれからすべき事を整理しよう。
俺のゲーム脳が発動し分かる事と分からない事を仕分けしないまま事を進めてしまいそうになっている。一度思考を冷却し、よく考える必要がある。
まず、この世界が聖樹の国の魔物使いをモチーフにして作り変えられた。これはどうやら間違いないようだ。この際、「何故?」という疑問は一度置いておく。考えた所で分かるはずも無いからな。
そして俺の召喚した魔物について。俺の言った「熊のぬいぐるみ」という言葉に反応したという事はこの魔物達は矢張り聖樹の国の魔物使いの設定に準拠している事となる。少なくともこの蝙蝠屋敷の主においては。
またコイツは本当に俺に対し絶対服従なのか。だがコレに関しては仮に疑った所でどうしようもない。敵意があるなら早々に俺はぶっ殺されている。一旦服従しているという前提で動く。警戒はするが、あまり意味は無いだろう。
そして「俺」のステータスはどうなっているのか、という問題。聖樹の国の魔物使いでは、プレイヤー自身も戦闘に果敢に参加していた。下手なSRよりも余程強い為、俺が使い物になるかならないかで難易度は大いに変化する事だろう。
最後に、この突如として顕現したある種のデスゲームに、ゴールはあるのか、という事。これの有無によって俺の行動も大きく変化する。
「さて、これらを踏まえた上でどうするか、だな」
まずは……
「とりあえずあと四つゴブリンの魔石を稼いでこい。あ、奴等にこの拠点を特定されないようにな」
「御意」
蝙蝠屋敷の主の初期所持スキルは確か連撃Ⅱ、回避補正Ⅲ、ブラインドシャドウⅠの三つだったはずだ。
正直これだけ見れば中々優秀だ。そもそも聖樹の国の魔物使いにおいてスキルは別の魔物から移植したり鍛えたりする事で充実していく物である為、初期スキルである程度の戦闘力が確保できている事を考えれば、蝙蝠屋敷の主はそれなり以上に強い。
ただ、蝙蝠屋敷の主には致命的な弱点がある。
蝙蝠屋敷の主は、ヴァンパイア系列の蝙蝠路線の最終進化であり、それ以上の伸びしろはない。
短剣も装備できるし種族補正による回避率の上昇もある……部分的にSSRを超える事は不可能ではないが、その手間暇をSSRまで進化する魔物の育成に回せばよっぽど強い魔物に出来る事は言うまでもない。
「召喚石はクエで獲得かレイドボス報酬だったな。後はログボ……あるのか?ログボ」
聖樹の国の魔物使いをモチーフにしているのだから、ログボくらいはあっても良い気はするが。
ダメそうならレイドボス討伐が妥当な所か?クエが受けられそうな場所なんてありそうにないし。
「俺が戦えるかどうか、だな」
可能であればゴブリンキングにカチコミ入れに行く事も考えなければ。レイドソロのチャート引っ張り出すか。
いそいそとPCを起動する俺。
なんだかんだ、サービス停止したゲームがまた遊べるという事実が嬉しいのかもしれない。
既に死者すら出ている。そんな事は分かっていても、俺はPCのファイルのメモに記されたチャートを読み返す事を止められなかった。