集結
「どうもー、援軍でーす」
そんな間の抜けた声と共に、見慣れたバカどもがぞろぞろとやってきた。
「砂漠軍の方ですか? 異世界から遠路はるばるお疲れ様です!」
「はぁ?」
先頭のジークから、お前気が狂ったのか? と言わんばかりの視線がぶつけられる。
狂ってないんだなこれが。
「おい、お前さん達……話がある」
俺の後ろから、マジメくさった顔でドラグがやってくる。
一瞬乗っかるか悩んだが、少し待ち疲れてたところだ。
「え? マジで1人1人にやる気か?」
俺の言葉に、ドラグが片眉を上げる。
継続するか悩んでるな。
「……うわはは! 舌がつってしまうな、やめておくか」
流石に悪ふざけが過ぎると判断したのか、ドラグは破顔し俺と肩を組んだ。
「まぁ、つーわけで俺らが異世界人ってのバレたんだよな」
「その上で教皇様が改宗の機会を与えると判断したようなんでな、わしはとやかく言うつもりは無いぞ」
簡潔に結論を述べたドラグに、なおも懐疑的な視線を向けるジーク。
いや、後ろの他の面子も同じだ。
……流石に納得できないか?
「信用できるのかよ」
「ああ」
間髪置かず頷く。
6人はこそこそと話し合うような素振りを見せた後、代表として七色の悪魔さんが前に出てきた。
「本日はよろしくお願いします」
「ふむ」
「故郷は違えど、目的は一つ。共に歩けるという認識でよろしいですかね?」
ドラグが握手に応じる。
「ああ、相違ない。よろしくさん」
「はい」
少しばかり緩んだ緊張の糸に差し込むようにして、後方のレオノラが手を叩いた。
「素晴らしい! これで憂いなく魔女討伐に挑めるというもの!」
それに追随するように拳聖が声を張り上げる。
「なんだよ! 内輪揉めしてくりゃあちっとは難易度が上がっただろうにこれじゃあ……簡単にぶっ殺して終わっちまうだろ!」
「……いやはや。拳聖殿に比べればわしの助力なんぞ微々たるものでしょう」
「謙遜すんなよ! 微々たる中じゃあイイ線いってるぜじいさん!」
拳聖が、それじゃあ行くぞ! と叫びながら勝手に森に突貫していく。
知性が微々たるものだから仕方ないな。
「はぁあ……では者ども、出発だ」
レオノラが呆れ返ったような声音でそう宣言する。
やや締まらない号令だったが、士気が足りてないようなヤツはもう居なかった。
ただ、俺は言うことがあったので黙って手を挙げた。
「なんだ、タカ」
「あのさ。ドラグさんに質問」
「ほう」
ドラグが興味深げな声を漏らす。
「魔王軍も一枚岩じゃねぇって、あんた言ったよな」
「ああ」
「砂漠の女王に追従したヤツがいたとしたら?」
ドラグが目を細める。
「……ふむ」
「あんたがそこまで予想できたんだ。砂漠の女王含めて、教皇サマはもっと多くのことを把握してるだろ。それに……追加戦力なんかいくらあっても良い」
「魔族、か」
「砂漠の女王だって魔族だぜ?」
ドラグが好々爺然とした態度を消し、真剣に考えこむ様子を見せる。
「あやつらは生き方からして異端そのもの。教徒達が納得するかどうか」
「生き方は今からでも変えられるだろ? アンタが俺達を認めたように」
ドラグが、少し崩しそうになった相好を取り繕う。
「わしは認めたわけではない。ただ、教皇様の判断は妥当性があると。そこを認めただけのこと」
「頑固だなぁ。じゃあ良いじゃねぇか。教皇サマはきっと把握してるぜ」
ドラグは、腕を組んだまま唸るような声を出した。
流石に厳しかったか。
「わしは教皇様の事は敬愛しているが、それは聖樹の教えを高度な状態で実現しつつ統治をおこなっているから。軸は聖樹にある」
「……魔族は、そんなにまずいのかよ」
「転移の多用は特に最悪と言って良い」
これまずいな。俺らがポンポン転移してるのがバレたら話がひっくり返るかもしれん。
「転移の要になってた魔族は俺らが殺したぞ?」
「意図的に、魂に魔力回路を刻んではならない」
「……」
呪術のことか。
カーリアちゃんは風の魔法を刻み込んでるし、アルザは……アルザは一度錬成された身だからちょっと違うか?
あとアレだな。紅羽がちょっとまずいかも。
「はぁ、しかし」
「おっ! ……しかし?」
ドラグが苦虫を嚙み潰したような顔で続ける。
「魔族の世界の次に、お前たちの世界。異世界との衝突頻度は高まっている。排斥し続けるだけでは、いずれ立ち行かなくなるのは目に見えている。教皇様には何か良い案があるのかもしれんな」
「つまり?」
「呼んでみろ。わしは……この場は、見逃すことにする」
やったぜ。
教皇サマの信頼が厚くて助かった。
俺には何とかする手段は思いつかないし思いつく気もしないからな。
せいぜいが見て見ぬフリってとこだ。
「つーわけだからさ、レオノラ!」
「……拳聖は、まぁよいか」
あっ。
レオノラは視線を、時折破壊的な音が響く魔女の森に向けた後、すぐこちらに戻し言った。
「更なる援軍を待つべく、手前の村へ戻り待機とする!」
「いやいや、拳聖殿はどうする気じゃ」
ドラグの困惑した声に、レオノラがハッキリと返す。
「飯時になれば勝手に帰ってくるッ! アイツはそういう男だ」
「えぇ……」
ドラグさんでもそんな情けない声が出るんだな。
そんなこんなで、俺達は追加で待機することになった。
次の日の朝。夜明けと共に村を出て、再び魔女の森の前へやってきた。
そこにはいくつかの人影がおり、こちらに気付いて近寄ってくる。
「えぇと、カーリアです。本日はよろしくお願いします」
「アルザだ」
「蝙蝠屋敷の主ですぞ」
「何だ? 自己紹介の流れか? 俺は拳聖ヴリリアント、よろしくなぁ!」
アホが混じったが、ドラグは完全にスルーしてカーリア達に視線を向けている。
流石だぜ。
「ふむ。少なくとも、今回限りは味方じゃの。その後は教皇様次第じゃが」
「どうだか」
「こら! アルザさん、ダメですよ。そういう態度は」
「……」
アルザがむくれてそっぽを向く。
その様子が意外だったのか、ドラグが目を丸くした。
まぁ、魔族って感じのやり取りじゃないわな。
「あー……そう、じゃな。聞きたいことはあるが、魔女討伐の後にしておこうか」
一旦は納得したようだ。良かった。
本当は俺以外の十傑の初期魔物を含めて呼びたかったのだが、異形の集まり感が凄まじいことになるので止めにした。
それに、いくら安定してきたとはいえ砂漠を手薄にしすぎるのは怖かったからな。
「さて。戦力は十分。ようやくだな」
「おう! 完全に温まったとこだ! さっすが魔女の森の魔物――」
「ものども! 必ずや、かの異端の魔女に鉄槌を下してやるぞ! 総員、出撃だッッッ!」
拳聖の声をかき消すようにして、レオノラが叫ぶ。
俺達は、おーだのあーだの、思い思いの返事をして魔女の森へ踏み入った。