前へ次へ
296/323

繋がる

コピペをミスってぐっちゃぐちゃになってたのでお直しして再投稿。

お騒がせしました……。




 

 あれから、魔女の森へ到着するまでは珍しくトラブルがない平和な旅だった。

 

「そら、寝坊助ども。到着だ!」


 荒々しいノックと共にレオノラの声が聞こえる。

 うたた寝したせいで若干ぼんやりとする意識を無理やり覚醒させ、馬車を降りる。


 魔女討伐隊は既に全員が下車しており、後は現地集合の援軍を待つのみといった次第だ。


「夕暮れまでには着くそうだ」


 何とは聞くまでもない。援軍、というか十傑だな。

 それに対しドラグが笑みを絶やさないまま返した。


「ふむ。わしは命が惜しくてやっぱり来ませんでした……となっても責めんぞ」


「私は困るし責めるぞ」


 正直、異世界関連のごたごたは俺とモータルで何とかするから砂漠に避難していて欲しいという気持ちはある。

 でもそれで引っ込むような奴らじゃないからな。

 

「おい、タカ」


 名前を呼ばれ振り向く。

 呼びかけてきたのは、意外にもドラグだった。

 怪訝に思いつつ言葉の続きを待つ。


「お前さんは、なんで聖女レオノラについてきた?」


 ついてきた。

 強制的に道連れ状態になった、というのが正しいのだがそれを言うわけにはいかない。

 俺が答えに窮していると、レオノラが助け舟を出してくれた。


「聖樹教徒なら異端を滅することに理由が必要か? タカは、もはや何度も肩を並べた戦友だ……私が引きずってでも戦場に連れ出したいというのもあるが」


 肩を竦めながら、同意を促すような視線を俺に送る。

 俺はもっともらしく苦笑いをした。


「ま、そんな具合――」


「そうさな。聖樹教徒なら理由は要らん。その上でわしは理由をきいた。返答は如何か」


 一瞬、眼前に突き付けられた銃口を幻視した。

 

 やや時間をおいて、じわじわと状況を理解する。


「ドラグさん。俺の信仰心を侮辱する気か? そもそも魔女を殺すこと自体にわざわざ理由が必要かよ。アイツは街1つ消してんだ」


「ふむ」


 ドラグがこちらを探るような視線のまま、自らの顎鬚をさする。


「こんな大事な戦いの前だってのに、言いがかりつけて揉める気かよ」


「魔王軍とて、一枚岩ではなかった」


 ドラグは俺の言葉を無視して語り始めた。

 何なんだ。


「砂漠の女王と呼ばれる個体が最たるものだったな。魔王に協力しない派閥……」


 内心の焦りを顔に出さないよう努める。

 こいつ、マジかよ。


「砂漠は、聖樹の国の戦力をもってしても容易に落とし得ぬ厄介な土地だった。ま、突如として消失したがな」


 そこの点をどこの点と繋げる気だ。

 俺は何を言われているのか分からない、といった顔でレオノラの方を見た。

 険しい顔だ。誤魔化しは無理ってことか?


 ドラグはここで殺すか?

 ただ、オリヴィアに見られるのがまずい。


「魔王軍の挙動が怪しくなった時があった。具体的に言えば、散見された幹部級の一部がまったく顔を出さなくなった」


 カーリアちゃんにアルザのことか。

 いや、日本だけで2人だから全世界単位で見ればもう少し居たんだろうな。


「それから少しして、魔王軍側から、新規の部隊が現れた」


 新規の部隊?


「人に無理やり魔物のパーツを付与して改造したような部隊。通称・魔人部隊。こいつがなかなか手強くてな。何らかの量産体制を確保したのなら厳しい戦いになる、と参謀本部は戦々恐々だったそうだ」


 魔人部隊。ああ、覚えてる。

 アルザが魔王軍だった頃に改造して利用していた、元・人間だ。

 俺は、あの頭部から一対の捻れた角が生えている男の姿を思い出していた。


「まぁ、ここ最近はとんと姿を見せないらしいが」


 アイツらは、結局砂漠に来なかった。

 どうなったのかは、アルザに聞けば分かるのかもしれない。


「それで話を続けるぞ。わしはその魔人の解析を頼まれたことがあってな」


 解析。

 そうか、死者がいないわけがないか。

 

 俺は何度も混ざって、おそらく精神強度のバフすら剥がれている。

 この死も、今からドラグを殺すことも、正面で受けきらなきゃならない。

 でも大丈夫、コールト国の時ほどじゃない。


「魔力回路が異常でな。まるで何か外付けられていたとしか思えないほどにスカスカで……ああ、そうさな。魔人というよりは」


 短剣を握る。


「異世界人」


 ガチャリ。

 気付けば、額に冷たい感触が押し付けられていた。


 銃口だ。

 いつの間に。


「まぁ、待て。推理は最後まで聞かんか」


「そうだな。推理は最後まで聞くのが犯人の様式美だろう」


「ハ。聖女は良いことを言うわい」


 レオノラの言葉で我に返る。

 確かに、ドラグは不意だって討てただろうにわざわざこの話をした。

 何か意味がある。


 俺は短剣を握りつつも、話を続けろ、といった視線をドラグに送った。


「協力感謝する。では続きじゃ――」


 殺気をぶつけてきているのはもう俺だけでもないだろうに、ドラグは平然と話し続ける。


「前述した砂漠の消失。その行方も絡めて話そうか」


 砂漠の消失。こいつはどこまで迫ってきているのか。


「魔王軍の新規部隊が異世界人だと仮定する。そうなると、魔王軍側の領土で異世界との衝突が起きたことになるの」


 銃口だけじゃない。ナイフまで首元に突き付けられたような気分だ。

 

「魔王軍は、これ幸いとばかりに異世界に赴き、“補給”を行った。幹部級がいなくなった理由じゃな」


 後ろにモータルがやってきているのを感じる。

 かなり殺気だっているが、大丈夫だよな。


「同時期の砂漠消失。これは――魔王をよく思わない砂漠の女王と異世界人で利害が一致し何らかの同盟が組まれた、のかもしれん。こればかりは動機が不明でなぁ。わざわざ砂漠を、おそらく異世界に移したのであろう点がどうにも。あの土地から動けば流石に弱体化は免れないように思うちょるんじゃが」


 そこはバレるわけがない理由がある。

 愛ゆえに全てを棄てた、なんて大胆な発想は流石にできまい。

 バレなかったら何なのか、という話でもあるが。


「これで陣営は見えてきた。わしら聖樹の国と、魔王軍と、魔王に反乱する魔族及び異世界人の混合部隊。長いの、便宜上砂漠軍とでも呼ぶか」


 砂漠軍ね。

 まぁ、俺らの主軸に砂漠があるのは間違いない。


 ドラグが銃を持っていない方の手でぴっと人差し指を立てた。


「ここでお前さん達の出会いを考えてみようかの。聖女レオノラは、魔王軍の転移罠にかかった。しかしその窮地を砂漠軍が救い、秘密裏に手を組むことにした」


「俺は、コールト国から雇用された兵士だ」


 思わず、反論する。

 自分でもあまり意味があるとは思えない反論を。


「既存の兵士の身分を使わせたのか、それとも砂漠軍が偵察として最寄りの国家にお前さんを派遣していたのか……ふむ。派遣していた場合の方が転移罠に砂漠軍が駆け付けられた理由がすっきりするのう」


 細部はややズレているが、ドラグは俺の反論も飲み込み、確実にその考えを補強していく。

 そもそも転移罠は俺達が仕掛けて、俺達はレオノラを殺した側だ。


「何が言いたいか。ま、お前さん達は砂漠軍で、異世界人なんじゃろ? というのがわしの結論じゃな」


 そして、とドラグが続ける。


「教皇の言葉を繰り返そう。魔女討伐の褒章として、望む物を1つ何でも用意しよう。だから、勝手に帰ってくれるなよ」


 ああ、そう言っていた。

 ドラグが気付いたんだ、より情報が手に入るであろう教皇も気付いた可能性が高い。

 ということは……なんだ、どういう意味だ?


「わしはこれをこう読み解く。免罪と改宗の権利をやるから魔女を討伐して聖樹の元へ来い……とな」


 額の冷たい感覚がふいに消える。

 即座にドラグに斬りかかろうとしたモータルを手で制した。


「待て! モータル!」


「……さて。わしの推理を聞いた上で問おうか、異世界人。お前は何の目的で、いま、ここにいる?」


 何と答えるべきか。

 上手くやれば少なくとも魔女討伐の間は、ドラグは仲間でいてくれるだろう。

 俺は。


「平穏を取り戻せるなら何だってやる。魔女殺しだってな」


「ふむ……異世界衝突は魔女が絡んでおったのか?」


 絡んでいるかどうか。

 いや、微妙なところだ。利用はしようとしていたが。


「不明だが、アイツのせいで死んだ人、これから死ぬことになるかもしれない人は多い。明確な外敵だ」


「そうか、そうか」


「そして、聖樹の国はそうじゃない」


 ドラグが目を瞑る。

 明確な隙だが、斬りかかる気にはなれなかった。


「……良かろう。改めて、銀弾のドラグがこの魔女討伐に協力することを誓う」


 ドラグが右手を差し出す。

 俺はそれに応え、握手を交わした。

 そうすると、ドラグは先ほどの様子が嘘のようにぱっと笑顔を浮かべ。


「いやぁ、若者に一方的に話を聞いてもらうのは楽しいのう! 後からやってくる他の砂漠軍ひとりひとりにも同じことをやろうか!」


「ふざけんな」


 思わず罵倒してしまい、口元を抑える。

 しかしドラグは上機嫌に笑うばかりだった。


 ……食えないジジイだな。


 

前へ次へ目次