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はじめてのキル


「よし。一旦あそこの路地入って迂回しつつ接近するぞ……おい!モータル!聞けや!」


「分かってるって」


 絶対分かってなかっただろ。これから人殺しをやる羽目になるかもしれないってのに。


「いいか、モータル。話し合いで何とかなりそうならそうするからな。殺すのは本当の本当にやばくなった時だけだ。最悪、俺らなら、いい感じに逃げて撒く事もできる訳だし」


 そんなやり取りをしつつ塀を登りあの民家を視界に捉えられるマンションの二階部へ飛び移る。


「うーん」


 うーんじゃねぇよ。分かってるのか!?人殺しだぞ!?


「見ろよアレ。もう半分くらい死んでるぞ」


 モータルの指す方向へそろりと顔を出す。


 見れば、既に5人程が頭から豪快に矢を生やして死んでいた。


「……結構なお手前で」


「やるなぁ。俺も燃えてくる」


「今すぐ鎮火してくれるか?」


 話し合いでいけそうならそうするつったろ。


「いいか。そもそもの話なんだが、簡単に構図やキルスコア的な問題で、あの親子の方が悪者である可能性は割りとある。というか一般論で見れば悪者はあの親子だ」


「何でだ?」


「電波塔を必死に守ってる連中ぶっ殺して物資横取りしてるんだぜ?そりゃもう完全に悪者だろ。俺らみたいにネットに依存してる人間にとっちゃ特に」


「だから掲示板使えって言ってたんだよ俺は」


 そういや掲示板の使用をえらく勧めてきてたな。


「電波塔の守護隊、だったか?アイツ等に何か恨みでも?」


「人類の守護者は俺達だとか何とか言って、物資の独占、娼婦提供の強要、老人への戦闘の強要……あと、俺を協調性に欠けるつって追い出した」


 英断じゃねぇか。……っと、危ない危ない。最後のに印象全部もってかれるとこだった。


「つーかお前、最初東京に居たのか」


「おう。東京出て隣県の山とかでサバイバルやってた」


 逞しいな……。しかも完全ソロで、か。


「……お前さ。まさか、さ。やってねぇよな?」


「何を?」


「出くわした奴ぶっ殺したり、とか」


「?攻撃してきた奴だけだぞ。殺したのは」


「その中に人間は?」


 俺のその質問にモータルは一瞬だけ眉を顰めた後、さらりと言った。


「まあアレは魔物みたいなもんだから」


 そっか……魔物か……まあ、そうだな……















「確実に守護隊が数を減らしていってるようだが。俺らはどうするべきかね」


「主殿。303が鍵無し、かつ多少の物資が」


「おう。ナイスだおっさん」


「おい、モータルとやら。俺の出番は?」


「モフられ」


「おい、冗談は止せ。俺を召喚したからには人を狩るんじゃないのか!?」


「声がでけぇぞライカン。おい、モータル。そろそろ決めようか。どちらの助太刀をするか」


 俺の問い掛けに少し驚いたような表情を返すモータル。

 何だよ、何か変な事言ったか?


「俺の意見をまともに聞いてくれるのか?」


「ああ。聞くだけの可能性もあるが」


「……守護隊はどうも様子がおかしい」


「つまりは?」


「俺が望むのは親子の助太刀だ」


「了解。ゾンビもちらほら来てるし、さっさと始めるぞ」


 そう言って俺はおっさんとライカンに指示を送った。


 指示の内容は、あえて姿を見せつつこのマンション内へ入ってくるように、というモノだ。


 追っかけてきた数人に説得を試みる。駄目なら――まぁ、やるしかない。








 カツン、カツン……


 聞こえる。階段を上ってくる音だ。


「止まれ」


 俺の言葉に、その足音がピタリと止まる。


「あんた、守護隊だな?あんな所で何を大騒ぎしてるんだ?」


「二組目の生存者グループ……いやコンビか?物資は持ってるか」


 ……ああ、嫌な感じの受け答えだ。


 だが、俺とマンションの廊下部分を曲がった先の階段に居るであろうソイツは、まぎれもない同族だ。

 言葉が通じない、はずは……無い。


「持ってたら?どうする?」


「おお、どのくらいだ?」


「止まれ、と言っただろ」


「……てめえ何様のつもりだ?」


 明らかな怒気を含む相手の声に冷や汗が垂れる。


「すまんな。このご時勢だ。ちょっとばかしの警戒は大目に見てくれ」


「まあ、そうだな。仕方ねぇ。物資だけこっちに寄越せ……あぁそうだ。そっちに女は居るか?」


 駄目かもしれないな。まさかここまで会話が噛み合わないとは思っていなかった。

 だがまだ、決定的には拗れていない。まだ、まだ説得の芽は……


 ……いや、仮に嘘をついてのらりくらりと誤魔化した所で意味は無いだろう。俺が、いや俺達が知りたい事は、もっと踏み込まなければ知り得ない。


「俺達は。物資を持っていない」


「……あー……お前ら、武器とかは?」


「武装も、無い」


「……はー……おい、上がってこいお前ら。食料要員の確保だ」


 ……食料要員?


「食料がねぇんだよ。かと言ってゾンビの肉は食えないしな。まあ残さず使ってやるから恨むなよ」


 カツン、カツン、と足音が近づいてくる。


 いや、まさか。そんな事を。



 そんな事を同じ人間がする筈――――



「メテオ!」


「うおおおあああッ!?」


 俺の後方からモータルのメテオが飛び、階段から上がってきた男を吹き飛ばし、壁に叩き付けた。


「クソ!?魔法使いがいるぞ!一旦撤退……うああああああ!!?」


 一階に潜んでいたライカンとおっさんにやられたのか、階段の方から男達の断末魔が響いた。


 

 未だに呆然と立ち尽くす俺の肩がポンと叩かれた。

 見れば、モータルが肩を竦めこちらに視線を投げ掛けてきていた。


「言ったろ?魔物みたいなもんだって」


「……ああ」


 俺は、そんな掠れたような声を出すので精一杯だった。


「言っておこうか迷ったけどよ。楽しそうだったから」


 ……ああ。楽しそうだった、か。確かにそうだな。

 クソゲー、クソゲー言いつつ、結局俺は楽しんでいた。


「……ごめんな。つーかさ、コレの元凶潰したいってのもあったから東京に来たんだ。一緒に来てくれるタカにはもっと早く言うべきだったよな」


「いや、いい。過ぎた事だ」


「歩けるか?」


 モータルが俺に肩を回す。


 ふわりと香る人間らしいモータルの臭いに、俺はどうしようもなく泣きたくなった。













Mortal:重大な報告があるんだ


ほっぴー:お。どうした


Mortal:東京の電波塔を守ってる連中は、人間を食ってる


鳩貴族:一応私の耳にも入っていますよ。ガセ情報として、ですが


鳩貴族:ただモータルさんのは……現場情報ですよね?


Mortal:おう。というかその一端を担いかけた。結果として山に逃げたけど


ガッテン:ただでさえ人間の数が減ってるってのに何考えてんだよそいつら


紅羽:ただ、合理的ではある


ジーク:普通に吐き気するんだが


Mortal:タカがちょっと落ち込んでる


ほっぴー:うーん。モータル的にはどうしたいんだ?


Mortal:潰したい。でもやり方が分からない


七色の悪魔:人を殺すのが許せないからぶっ殺す、じゃあ道理が通らない気がしますけどね


紅羽:ただその人肉で命を食い繋いでる奴もいるんだろ?


Mortal:とりあえず現地の人間と一旦共同戦線張ってる。もうちょっと色々考えてみる


ガッテン:人を生かす為に人を殺して、その殺しが許せないからまた殺す……厄介な事になってるな


ほっぴー:ゲームみたいに善か悪か色分けなんて親切な事はやっちゃくれねぇって訳か





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