狂いの源
「さて、何から説明したものか」
ドラグが顎に手をやり、思案気に唸る。
「そうさな、まずは古の大狼が狂狼病を与えてくる理由について話そうか」
しんと静まり返った場で、ドラグの声だけが響く。
俺は、座学ならこんな庭先じゃなく室内でやらないか? という言葉をぐっと飲み込み続きを待った。
「あの狼は、自身の魔力が常に暴走状態にある」
そこでほっぴーが挙手をする。
ドラグが片眉をあげつつ、顎でしゃくるようにして質問を促した。
「魔力が暴走って結局何が起こってんだ? 狂狼病もその暴走が原因で死に至るらしいが」
「我々には魔力を受け止める管のようなものがあり、その管が圧迫されて破裂するほどの勢いで魔力が駆け回っている状態……かの」
「その状態が続くとどうなる?」
ドラグが手をぐっと握った後にパーの手を作る。
「爆発、消失、融解、崩壊……ろくなことにはならん。世界と自分との境界が崩れることで肉体と精神がバラバラになるらしいぞ? そうじゃろ、聖女レオノラ」
レオノラが不服そうに頷く。
どんだけ自分で説明したかったんだよ。
「ほらの?」
「……分かった。それで、大狼が死なない理由は?」
「わしの見立てではの、狂狼病は魔力暴走の押し付けでな」
「押し付け?」
ドラグが頷く。
「何度も息継ぎを繰り返して何とか命を繋ぎ続けているようなもんじゃ。とめどなく溢れる狂った魔力を押し付け、その個体の内部を使って多少鎮める」
思わず表情が歪んだのが分かる。
「入れ物扱いかよ」
「そうさな。そして用が済んで死ぬか殺すかすれば鎮まった魔力が回収される。再度魔力を過剰駆動させ、強くなる。暴走を押し付ける……それをどれほどの年月繰り返したんじゃろうな」
絶句している俺達に向けてドラグがにやりと笑みを浮かべた。
「強者との闘いを求める気高い狼……なんて呼ぶものもおったらしいが、何のことはない。生きているだけで害を生む、浅ましく下種な獣じゃ。わしらの手で地獄に送ってやろう」
「銀弾は既に撃ち始めている」
ドラグは指を4本立て、その内の1本を下げた。
そして続ける。
「銀弾の1発目は着弾済み。残りの3発じゃがな……タイミングが鍵となる。エリー嬢とオリヴィア嬢の2人を両方組み込んでいないのは、息が合わないと致命的じゃからじゃの! ははは!」
ほっぴー:定例報告っつーことで、古の大狼の討伐隊に配属されました
タカ:討伐隊を辞退予定です
ほっぴー:は?
お代官:すまない、少し待ってくれ
Mortal:俺も配属予定
ほっぴー:予定じゃなくて確定なんすよね、あとタカはうまいことエリーさんとオリヴィアさん宥めといてくれや
タカ:俺がいなかったら揉めないと思うんすよね
お代官:情報を整理しようか
ほっぴー:お前がいなかったら揉めない根拠は?
タカ:俺がいない時に揉めてるの見たことないから
ほっぴー:そりゃお前がいないんだからお前が見てるわけねぇだろ屁理屈こねんな殺すぞ
タカ:こわ
お代官:きみたち~~~~
ほっぴー:つーかお前は機動力あるから分かるけどなんで俺まで指名されてんだよ、ふざけんなや
タカ:まともに司令塔やれるのお前くらいのもんやし……
Mortal:エリーさんかオリヴィアさんのどっちかしか組み込めないなら機動力あるエリーさんじゃない?
タカ:いやだから俺が抜ければ両採用できるんすよ
ほっぴー:タカとオリヴィアさんのコンビは無限火力コンボのシナジーがあるからだろ。サブプランなんじゃね
Mortal:あー
お代官:……
砂漠の女王:お待ちくださいお代官様、遠隔でそのアホどもに電撃が落とせないか試しています
お代官:やめなさい
タカ:こちとら聖樹の国におるんやぞ、かかってこいや
お代官:とりあえずタカ君の書き込みを制限してくれ
タカ:!!??????!??
ほっぴー:あざす
紅羽:は? ログ多、なにこれ
ガッテン:何? とりあえず十傑は一旦休憩入れさせた方がいい?
お代官:ああ、頼むよ
ガッテン:了解っす
ジーク:俺らがせっせと仕事してる時にお祭り騒ぎ始めないでもらっていいすか???
鳩貴族:元気そうですね
スペルマン:来たよ~
七色の悪魔:会議ですか?
お代官:うむ。ほっぴー君、説明を頼むよ
ほっぴー:はい。まず俺達は魔女を殺すための武器の素材として「古の大狼」の死体が必要になりました。
ジーク:は?
ほっぴー:んで当然、そのための討伐隊が組まれるわけで
ほっぴー:メンバーは俺、タカ、モータル、スルーグ、オリヴィア、レオノラになりました
鳩貴族:狂狼病の対策が見つかったという事ですか?
ほっぴー:「狂狼病」に関する概要は情報保存用のグルんとこに投げてあるから各自勝手に読んどいて
ほっぴー:読みに行ったか? つーわけでこっちでは討伐手順の説明しとくからな。まず、倒すための策は4段階に分かれてる
ほっぴー:1段階目。古の大狼の獲物に魔力暴走を激化させるための着火剤を混ぜ、何度か回収させる。この仕込みは既に終わってる
ほっぴー:2段階目。着火剤に火をつける役割を持った弾丸をぶち込む。
ほっぴー:そうするとだな、暴走の押し付けが半自動化されてるあの狼は、周囲に狂狼病をバラまいてしまうらしい
ほっぴー:するとまぁ、本体の魔力がずいぶん目減りする。流石にそれはまずいから暴走状態であっても回収を試みるわけだ
ほっぴー:生きてる獲物からの即時魔力回収、ってのはほぼやったことがないだろうってのがドラグの見立てでな
ほっぴー:そして3段階目。その回収は大きな隙になるらしくてな、その隙であればオリヴィア嬢が「悪化のギフト」で作った毒が通る
ほっぴー:1段階目の比にならん魔力暴走を引き起こすらしい。ま、そいつがメインの弾丸だな
ほっぴー:4段階目。時間が大狼を殺す
ほっぴー:悪化のギフトの追加付与なり弱らすなりしてりゃ、討伐できるほどの戦力はいらないとさ
ほっぴー:ただ問題があって、それは2段階目の自動狂狼病付与から回収までの流れは恐ろしく速いだろうって事
ほっぴー:ほんの少しの時差で2・3の弾丸は着弾させなきゃならない。連携力がめちゃくちゃ要る
ほっぴー:しかも多少ガードが緩む瞬間でなきゃ弾丸を躱されかねない。だからそこまでは真っ向からやり合って隙を引き出さなきゃいけないわけだ
ほっぴー:まぁその辺はレオノラに策があるらしいけど……
ほっぴー:討伐手順は以上。質問は?
お代官:ふむ。タカ君、そろそろ書き込んで良いぞ
タカ:俺要らなくないすか?
ほっぴー:他には?
鳩貴族:大狼の逃走リスクは? また魔力暴走を再度起こしたとしても、まだ誰かに押し付けて終わりなのでは?
ほっぴー:まず再度押し付けについて答えるか。普通、あの狼の呪術は長期スパンで運用することを前提としてるらしくてな……俺ら風に言うなら「クールタイムが終わってないから無理」だな
ほっぴー:で、逃走リスクなんですが
ほっぴー:まぁ、技量でいい感じに
ほっぴー:頑張って追います
鳩貴族:^^;
ジーク:おい
ガッテン:だからモータルがやたら機動力重視してたのか
タカ:俺要らんやんね
紅羽:一番要るじゃねーかボケ
ジーク:速さだけが取り柄さん!?
タカ:は? 他にも脅迫とかマウントとか色々あるが?
ガッテン:それは取り柄ではないね。汚点やね……
タカ:何度か役に立ってたと思うんですけど
ほっぴー:どう転ぼうがお前は要るので諦めろ
ジーク:タカさん、汚点が多すぎてもはや汚線やね――
鳩貴族:点と点が線で繋げられてますね
タカ:OK、ジークも討伐隊に組み込まないか?
ジーク:あ? 機動力も統率力もないが? やんのか?
ガッテン:何を競ってるんすかね……
ほっぴー:くだらんこと言ってねぇでエリーさんのメンタルケアしてこいボケ、あの人がいた方が楽になれるんだからよ
タカ:クソがよ……
ジーク:2人もいると大変すね^^
紅羽:1人いるだけで大概だろ。薫ちゃん越しにアルザからメッセージきてるからお前後で返信しろよ
ジーク:……
鳩貴族:なるほど、ジークさんとタカさんの汚点が繋がって汚線になっていたわけですか
お代官:……
ほっぴー:夏のヤンデレ大三角形が見えるな
砂漠の女王:私をその辺の木っ端と同じにされるのは気にくわないですね
スペルマン:1つだけ輝き強めなのも含めて夏の大三角形っぽい