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並び立つ

「いや、押せば一生俺のターンにできそうだなと思って」


「大規模戦闘の後にめんどくせぇことするな」


 モータルと紅羽に引き摺られて入れられたテントの中。

 勢揃いした十傑ばかどもを眺めながら口を開く。


「言うて俺が喋り倒してただけじゃんね。何も悪くなくね?」


「こいつマジでさぁ」

 

 ほっぴーが続けて俺を罵倒しようとしたところを遮るようにして続ける。


「で、魔女の作品の強さだったよな」


 その言葉に、皆が一様に黙った。

 よしよし。さて、どう語るべきか。


「正直お前らだけじゃ厳しいと思う」


「……マザー個体はやれたぞ?」


 紅羽が不満そうな顔で反論してくる。


「アレは作品とは違う。魔女の思い描く平等な世界に生息させる予定だった種、の試作品だったはず」


 魔女の作品ってのはあんなモンじゃない。

 

「作品はなんつーか……いや言うほど違わない気もしてきたな……」


「なんなんだよ」


「一応作品の方がシンプルにパワーが高い……多分」


 喋ってる内に、龍人状態の紅羽なら立ち向かえる範囲内な気もしてきた。

 うぅん、どうすべきか。


「紅羽を主軸にすれば何とかならないか?」


 悩んでいる内にほっぴーがそんな事を口にする。

 いや、確かにそうなんだよ。


「何とかなる可能性は結構ある……けどな」


「けど何だ?」


「あ」


「「「あ?」」」


 顔が少し熱くなる感覚。

 あぁクソ、気恥ずかしい。


「危ない……からな……」


「保護者か?」


 ジークの発言を無視して視線を逸らす俺に、紅羽がぐいっと詰め寄ってくる。


「お前とモータルが散々命賭けてんのにあたしらはダメなわけ?」


「いや、まぁ」


 自分の頭をくしゃくしゃと掻く。


「たまたま強くなれたからな、役割分担だろ」


「強さで言えばあたしのが上じゃね?」


「あークソ……お前らな、もう個人で動いていいレベルの役回りじゃないだろ」


 俺はずっと異世界で暴れ回ってたから良いにしても、お前らは違うはず。


「そういう堅苦しい理由に縛られるのやめね? ってお前が言ったばっかじゃん」


 ジークにそう言われ、言い淀む。

 それは、そうなんだが。


「タカ」


 そこでモータルが口を開いた。


「どこにいても死ぬ時は死ぬよ」


「……そうだけどよ」


「待って今の伝わったの!? 俺よくわかんなかったけど!?」


 騒ぐガッテンを無視し、俺は本音を喋ることにした。


「お前らに死んで欲しくない」


 一呼吸置いて、続ける。


「俺は、お前らとまた馬鹿やれるようになるために頑張ってる。お前らが死んだら元も子もない」


「言うほど馬鹿やれてないか?」


 いややれてるけど。

 そうじゃなくてだな。


 そこで紅羽が合点がいったような顔になる。


「ははーん、なるほど。つまりあたしらを舐めてる?」


「マジでこいつヤバくないか? 知性焼かれてね?」


 妹に悪影響与えないか心配なんだが。


「いえ、紅羽さんの言うことはある程度は的を射てますよ」


 次は七色の悪魔さんが前に出てくる。


「総力としては作品集めができる水準ではあるのでしょう?」


「……ギリギリだぞ」


「ええ、ええ。でしたら砂漠の人材から無理やり引っ張ってくるなり、人目にさえ付かないなら魔物を起用する手すらあるはず。我々はその程度の補強もできず、むざむざ作品に殺される集団だと思われているのですか?」


 言葉が出てこない。

 いや、俺は。


「タカ氏〜、俺らだってもうちょい荷物背負えるよー」


「そうですよ」


 スペルマン、鳩貴族さんに続いてやんややんやと抗議の声が俺に投げつけられる。

 困ったようにモータルを見ても特にリアクションは返ってこず、犬耳を出したりしまったりし続けているだけだ。

 あのさぁ。


「あー、うるせぇうるせぇ! 分かったよ! こっちから作品の情報送るから勝手にシバいてこい!」


 根負けしたせいか、虚栄のバフがべりべり剥げる感触がする。

 ほんとにこの呪術なぁ。


 項垂れる俺とは対照的に、皆は明るくぎゃあぎゃあと騒ぎ始めた。

 作品討伐時の編成の話を始めたらしい。


「……心配した俺が馬鹿みてぇだな。じゃあ俺は自分のテント戻って休んどくから」


 数人からまばらに手を振られつつ、俺はテントを後にした。





 自分のテントに向かう道すがら、避難民達とすれ違う。

 皆一様に沈んでいる。


 そうだよな。

 故郷が滅んだみたいなもんだ。


「あ、タカさん」


「あぁ、エリーさん」


 エリーさんが笑顔でこちらに駆け寄ってくる。

 

「スルーグさんとブーザーは?」


「ブーザーさんなら避難民の一部と酒盛りをしてます」


 何やってんの? マジで。


「一応、中心部で処分薬を散布したんですよね? 勝利記念だ何だって言ってましたよ」


「それは建前で飲みてぇだけでしょあのアホは」


「フフ、そうですね」


 結構な力技で腕を組まれ姿勢を崩しつつも前に歩く。


「スルーグさんは……避難民の子ども達と遊んであげてるみたいですよ」


「そっか」


 それでもまぁ、気分は晴れない人は多いよな。


「王都は近い内に奪還できると思う」


「そうですね」


「後援部隊も来るし」


「オリヴィアさんですか?」


 まぁ、そうだけど。

 腕の絞められ方が強くなったので言及を避けよう。


「エリーさん達には本当に助かってる」


「そうですか?」


「正直、最初にこの魔女殺しに巻き込んだ時。いくつか嘘も吐いた」


「嘘、ではないですよ」


「……魔族ってのは、嘘だ」


「こちらの人たちは異界の人を皆魔族と呼びますから。あと迫害の対象となる人種も」


 エリーさんが俺の目を覗き込んでくる。

 相変わらず綺麗で、寒気がするほど底が見えない。


「他の3人も、薄らと分かってますよ。でもそんな事はどうでもいい」


 バレてるのはもう分かってた。

 途中から隠す気もなくなってたしな。


「タカさん。貴方の魔女への殺意が揺らいだ瞬間を見たことがなかったから。それに」


 組んでいた腕を解いて、エリーさんが俺の前でばっと手を広げる。


「私達に居場所を与えようともしている。だからリスクを承知で砂漠の中にも招き入れて、住民と交流させた」


「……」


「だから」


 エリーさんが広げた手をそのままに抱きついてくる。

 衝撃で思わず呻き声をあげたが、エリーさんは気にした様子も無く続ける。


「だから、全部許します。全部。何もかも」


 しばらくしてエリーさんが離れる。

 俺は少し咳き込んだ後、エリーさんに手を差し出した。


「?」


「他の3人にも、同じことを打ち明けるつもりだった。でもまぁ、とりあえずエリーさんが第一号」


「えへ」


 エリーさんが笑う。


「なんで、まぁ。改めて協力者になっていただけますか……っていう確認というか」


 語気が尻すぼみになる。

 全部許すとか言われた後に言いづれぇよ。


「意外と形式に拘りますね。今後の参考にします」


 今後の参考って何?

 何の参考?


 そう思い、ツッコもうとした所でぐっと手が掴まれる。


「ええ、喜んで協力します」


「良かった」


「最初の頃は利用されてる感が否めなかったですけど。やっと対等ですかね?」


 嫌なことを言うな。


「まぁ、そうっすけど」


「このまま尻に敷けるように頑張りますね」


 そこはあんまり頑張らないで欲しいかな。


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