大胆な暗殺
紅羽の炎が炸裂し、敵が蹴散らさられる。
とんでもない殲滅力だ。俺達はただ後ろをついていく以外にする事がない。
「ほっぴー、あの状態はどのぐらい保つ?」
「あぁ? ……そこそこ身体があの術に適応し始めたらしくてな、あと1時間半は保つぞ」
なるほど。
マザー個体をぶっ殺してる間に効果が切れる、みたいな事態にはならなそうだ。
「着いたぞッ!」
前方から紅羽がそう叫ぶのが聞こえる。
同時に、皆が臨戦態勢に入った。
紅羽の後を追い、どこか見覚えのある広間に突入する。
ここは……謁見の間だ。
「……でかくねぇ?」
本来人間の王が座るはずだった座席には、あの街で出会ったものよりも巨大なダニが、鎮座していた。
そのマザー個体を囲むようにして、ダニ頭の兵士が数十人構えている。
さて、呆けている暇は無さそうだ。
「紅羽ッ!」
「っしゃオラ! ドラゴンブレス!」
紅色の吐息が謁見の間を塗り潰す。
「では行きましょう」
七色の悪魔さんが先陣を切った。
流石に対策を打っていたのか、兵士は半数以上が残っている。
魔法使いのダニがいるな。
いかにそいつを速攻で始末してドラゴンブレスを通すかが鍵になりそうだ。
「アクセラレーション」
速度バフがとんでくる。
「おい俺らより前に出んなよ! 紙装甲!」
「多少改善されてっから大丈夫だっての!」
ガッテンの横をすり抜け、兵士に斬りかかる。
金属同士がかち合う音が響き、遅れて肉を裂く音が続く。
兵士の一匹の首がずしゃりと地面に叩きつけられた頃には、俺はガッテンの後ろまで後退していた。
一撃目を合わされた。
流石にマザー個体の警備はそれなりの個体にやらせてるらしい。
「やべぇな」
「え、そうなの? 余裕そうに見えたけど」
「一撃でやれないと追撃貰っちまう可能性が高い」
「追撃を貰うとどうなる?」
「知らんのか? 死ぬ」
「やっぱ紙装甲じゃねぇか!!!!」
まぁな。
七色の悪魔さんとガッテンが敵を引き付け、剣を振るう間に魔法使いの位置を確認する。
かなり後方にいる。数は五匹か?
「おい、タカ」
隙を見てもう一度ヒット&アウェイしようとしていると、ほっぴーから声をかけられた。
「んだよ」
「氷這わせて支援できねぇか? 足元かっさらう感じで」
「いいね。採用」
前衛の攻めに合わせて氷を這わせる。ガッテンをすり抜け兵士の足元へと到達した氷は、見事に兵士の足元をすくうことに成功した。
直後に兵士の首が飛ぶ。
「ナイスアシスト!」
「まぁな」
敵の魔法使いが慌てて俺の氷に対応を始めたのが見える。
氷が破壊される感触。ま、こんなもんか。
「今、斬り込み時だったか?」
「かもな」
「おい、タカ! ちょっとこっち来てくれ! やばい!」
後方からジークの悲鳴じみた叫び声。同時に爆発音。
砂埃がこちらにまで舞ってくる。
「チッ。裏から追加のダニ兵士どもか」
「やばくないか?」
「だからやべぇんだって!」
今はジークの爆弾で何とか押さえられているが、これはまずい。
「紅羽! 一発頼むわ!」
「おう!」
紅羽のドラゴンブレス。
流石に防御態勢が整っていなかったのか、かなりの数が焼き焦がされたのが見えた。
しかし増援は尽きない。さっさとケリをつける必要があるな。
「ちょっと無理するわ」
「は?」
「バフと回復よろ」
氷を身体と床に這わせ、スケートのように身体を滑らせて高速移動する。
このままでは兵士と衝突するルートだが……。
「あっぶねぇなお前!?」
ガッテンの盾によるバッシュ攻撃で兵士が吹き飛ぶ。
よし、ルートができた。
「魔法使い殺すわ。直後にドラブレよろ。俺は何とかして避ける」
「いや、お前馬ッ鹿じゃね……」
ガッテンの声があっという間に遠ざかる。
氷を瞬時に階段状に展開し、兵士数体を飛び越え魔法使いの場所まで一気に跳躍する。
滑走は十分。良いジャンプだ。
「っしゃオラァ!」
「……」
杖でガードされたが、その杖を氷が侵食する。
つーか魔法使いが俺の攻撃に普通に対応すんなや。
「虫はビビらねぇのが最悪だよな」
傲慢のバフが乗らない。
後方からの兵士の攻撃をかわしつつ、魔法使いに二撃目を食らわす。
右腕で構えた短剣をフェイントとして使い、左手に形成した氷の刃で貫く。
致命傷だ。
「ギギ」
「ヒット。まずは一匹だな」
近距離で発射された杭のような魔法を咄嗟にしゃがんで回避する。
次の魔法使いだ。サクサク殺ってこう。
「ぐッ、う」
兵士の剣が腕を掠める。
浅い傷だ。氷で塞いで更に進む。
時折、炎の援護射撃が飛来し、それを魔法使いが防御するといった攻防が続いている。
ナイスだ。これで魔法使いの場所が把握しやすい。
「そらよ」
「ギ」
杖でガードしようとしたところで、短剣を手放しその柄を掴む。
そしてもう片方の腕で魔法使いの首を掴んだ。
「ギギギギ」
「よう。寒そうだな?」
掴んだ魔法使いを盾に兵士の攻撃をやり過ごしつつ、侵食が取り返しのつかない段階まで進んだところで蹴り捨てる。
手首に氷で付着させておいた短剣を掴み直し、次の標的を目指す。
「う、おッ」
その途中で兵士が割り込んできた。
思ったより俊敏な個体がいた。まずい。
「ギギ」
まずいな。かなり手痛い一撃を貰う。
だがそれを許容すれば前進は可能だ。氷で塞いで奥の標的に――
そんな事を思考している間に、ぐい、と身体が後方に引っ張られた。
これは。
「無茶しすぎだろッ! 馬鹿か!」
「お、ナイスアシスト」
「うるせぇ!」
ガッテンの自分と他者一人を磁石のごとくくっ付けるスキルだ。
この感覚は魔王戦以来だな。
「二匹やった。あと三」
「わかってるよ。クソ、実際助かってんのが腹立つ」
ガッテンに庇われつつ兵士を二匹ほど始末しながら後退。
さて。残りはどう片づけるか。
「ほっぴー、策は?」
「タカは後方の支援。紅羽にさっさと突っ込ませる。魔力量が心配だったけど、まぁ魔法使いが三匹になったならいけるだろ」
「あいよ」
「おっけー」
紅羽と俺の返事が重なる。
すれ違うようにして、俺は後方へ、紅羽は前線へと向かった。
「ジーク、どうだ」
「爆弾オンリーきちー。つーか製作士とかいうカスジョブほんとに何なの」
「まぁネタジョブだしな」
「GMも災害想定してたならジョブ固定にしとけよなー」
「……一応ゲームの体裁保ちたかったんだろ」
氷を這わせてアシストしつつ、短剣を構えて獲物を見定める。
雑魚ばっかだな。今はまだ氷と爆弾で何とかなるだろう。
「ギャハハハハ! よく燃えるなァ!」
紅羽の笑い声と炎の轟音が部屋中に響く。
やってんなぁアイツ。
「こっちはマイペースにやってこうや」
「せやな」
たまに反応が良い個体がいる程度で、しょせんは烏合の衆。
紅羽がマザーをぶっ殺すぐらいの時間は何とかなるだろう。