検体報告
「おはようございます、タカさん」
「…………? おはよう」
何だ?
ゆっくりと身体を起こし、周囲を確認する。
寝心地の良いベッド、所狭しと並んだ薬品の棚。
清潔感のある白い壁や床、天井。
俺の真上に設置された照明器具。
そして、俺を見下ろして微笑むオリヴィア。
……どうも、レオノラの屋敷ではなさそうだ。
「身体の調子はどうでしょうか」
身体の調子? いつも通り——いつも通り!?
慌てて魔力の流れを確認する。
「な、治ってる……!」
「良かった。しばらく様子は見ますが、レオノラ様の屋敷には戻れますね」
いや、待て。
おかしい。記憶が途切れている。
拳聖とやり合って、オリヴィアの屋敷に向かうことになって、オリヴィアが用意したらしい馬車に乗って……そして。
何も記憶がない。
「俺は、どうなってた?」
「ぐっすりと寝ていましたよ」
眠らせたの間違いでは?
「しばらく様子なんて見なくていい。今すぐ出る。作品狩りもやりたいからな」
ベッドから降りる。
さて、俺の荷物はどこだ。
「待ってください」
振り向くと、笑みを崩さないままのオリヴィアが立っていた。
「タカさん」
「……何でしょうか」
「呪術は禁止されていますが——それはあくまで人の話。呪術を刻んだ兵器に関する戒律は少ない」
呪術。
そうだ、コイツは俺の身体を隅々まで調査したんだ。
流石にバレていないはずがない。レオノラは何を考えているんだ。
「魔女討伐隊。その全てが決戦用の兵器という事ですね?」
「……」
なるほど。
俺をムカデ女と同類だと勘違いしたか。
聖女自身が呪術を使っているとは思わなかったらしい。
「そして、おそらく魔女を殺した後に廃棄される……そんな予定なのでは?」
廃棄か。
その名目で領域の方に連れ込んで匿うのもいいな。
そうしよう。
しかし、オリヴィアに対してはどう誤魔化そう。
ボロは出したくない。
レオノラに話を投げる、あたりが賢明なとこか。
「あー、悪いが、そういう事は聖女レオノラに聞いてくれるか」
「ふむ。流石に枷も無しに歩かせているわけではない、と……」
俺の言い回しを、レオノラに口封じされているためのものと思っているらしい。
好都合だ。
「お互いの為にも、一度レオノラに会うべきだ。そう思わないか?」
「……兵器だと薄々察したからこそ、私は購入を申し出たのですよ」
購入。
そうだった、コイツは俺を武器として欲しがっていた。
まさか比喩抜きの表現だったとは。
「婚約者がいるぞ?」
「それは、表面上何かを取り繕うための設定ですよね。その何かは不明ですが」
設定のはずだったんだけどな。
なんかガチっぽいんだよな。
会話しつつ部屋の確認は済んだ。
俺の荷物は無さそうだ。そもそも手荒に逃げる利点もない。
「何にせよ、レオノラに聞かねぇとどうにもならん。俺には不可能な交渉だ」
「貴方の意思を聞いてるんですよ」
俺の意思?
お断りだが。
そこまで考えたあたりで、ふと既視感を覚える。
ああ、似たようなやり取りをした。立場は逆だったが。
ムカデ女だ。魔女を殺した後、アイツだけは間違いなく廃棄処分になる。
今のところ止める気はないが——
「俺は、そうだな」
どうしたい?
もう一度聞くべきだろうか。
「思考停止で何でもかんでも廃棄、ってのは好きじゃない。ついついやりがちな事なんだけどな」
「貴方にできる言い回しではその言い方が限界ですか。しかし意思は分かりました。購入の計画を進めます」
「……好きにしろ。他のやつにも意思を聞いておくんだな」
オリヴィアが僅かに目を見開く。
「なるほど。わかりました」
ムカデ女がもし生きたいと言ったなら。
一応、保険は用意しておこう。
その後、俺は簡単なバイタルチェックをし、レオノラの屋敷へと送還された。
タカ:復活しました
ほっぴー:うわ出た
ガッテン:お前さぁ
紅羽:死にかけないと気が済まないの?
タカ:いや……命懸けでやんないと倒せないぐらい敵が強いというか…………
タカ:ぶっちゃけ人手不足感あるというか……なんか俺が休んでる間も全員フルで作品狩りやってたみたいだし
ほっぴー:はぁ、人手不足ね
七色の悪魔:正体不明の傭兵団みたいな感じで助っ人できませんかね
スペルマン:なにそれかっこいい
ジーク:悪魔さんが七色ゲロ薬を取りに行きたいだけでは?
七色の悪魔:報酬として要求するだけです
タカ:七色ゲロ薬ってなんすか……?
鳩貴族:貴方が飲んでダウンした薬ですよ
タカ:一応アレ魔力ポーションだぞ
タカ:ゲロをメインコンテンツに据えるな
ほっぴー:メインコンテンツはお前だぞ
タカ:あぁ? コラ
ジーク:え? ほっぴーさん、密着取材でコンテンツに成り下がってませんでしたっけ?
ほっぴー:なんだてめぇ
ガッテン:ジークも出てたじゃん
タカ:おい何の話だ
ガッテン:えっとね
ほっぴー:やめろ何か恥ずかしい事言ってた気がする何も話すな
タカ:教えてくれた人に物資融通します^ ^
ほっぴー:先日、俺のとこに密着取材が来てな。それがドキュメンタリー番組として放送されたわけよ
ほっぴー:いやぁ、どこぞの誰とは違ってテキパキ仕事やってるとこが領域内に広まっちゃったみたいな?
スペルマン:!?
ジーク:自己申告マ?
ガッテン:え?
タカ:???????
ほっぴー:物資、融通するらしいっすね
ガッテン:あっ
タカ:は?
ほっぴー:どうせお前の事だから、弱み見せたら買収してでも詳細知ろうとするだろうなって
ジーク:なるほど。やるやん
スペルマン:あえて隙を見せて飛び込ませる……ワザマエ!
タカ:昏睡しすぎて腕が鈍ったか……
ほっぴー:ガハハ
タカ:クソが。おい待て、映像は残ってるんだろうな。帰ったらチェックさせてもらうぞ
ほっぴー:どうぞ。俺がまともに仕事やってるとこしか映ってないんで^ ^
タカ:………………
タカ:融通する物資は七色ゲロ薬です
七色の悪魔:おっ
ほっぴー:は?
ジーク:ゲロをメインコンテンツに据えるな
ガッテン:最悪のカウンターで笑う
ほっぴー:飲まんが……
タカ:飲む飲まないとかではなく物資を融通するだけの話なので
ほっぴー:クソ、何人か買収してサクラやらせて詳細条件詰めさせるんだった……!
スペルマン:買収するまでもなく、ちょっと待てば誰かが物資の指定とか、いくらまで出す?みたいな話始めてたとおもう
ガッテン:やりそう
タカ:判断が早い
ジーク:左近次!!?!!?!?!???
ほっぴー:下の名前呼び捨てにすな
スペルマン:厄除の仮面じゃなくて厄呼の仮面かぶってそう