関係悪化
「シェラード家次女、オリヴィアです。本日はよろしくお願いします」
目の前で、黒髪の少女が頭を下げた。
メイドに連れられるままやってきた応接室。
俺を待っていたらしいその少女に、どう声をかけたものか。
「……ああ、よろしく頼む。さっそくだが作戦を練りたい。作品についての情報は?」
こういう時は仕事に集中して誤魔化すに限る。
少女の向かいのソファに腰掛け、メイドに目線を送る。
ウィンクすんな。
「これですねー」
机に広げられた資料に目を通す。
ふむ。
「遠いな」
「その点はご心配なく。足はこちらで用意します」
「そうか、助かる」
というかシェラード家?
貴族なのか?
「タカさん、貴族にタメ口ですか。凄いですね」
「メイドてめぇこの野郎」
やっぱそうじゃねぇか。
慌ててオリヴィアに頭を下げる。
「いえいえ。ギフト待ちの姉妹を産んだ、その褒賞で成り上がっただけの歴史も威厳もない平凡な家ですから」
「そういうわけにはいかないでしょう。姉妹でギフト待ちですか。すごいですね」
「……私は出涸らしのようなものですけどね」
そうなのか?
確認しようにもこの場ではできない。
というかそもそもコイツのギフトは何なんだ。
「ひょっとして私のギフト、ご存知ないですか?」
うげ。
「すみません。田舎者なもんで……」
「悪化のギフトです」
悪化……悪化?
「強そうに聞こえますけど」
「支援用のギフトですから、火力確保が難点なんですよ。特級というのも、私単体の評価ではないですから……」
オリヴィアが懐からカードのような物を取り出す。
ギルド証だ。
シェラード・オリヴィア、研究区分特級、駆除区分……1級?
「姉が死んで以降、度々検討されていたことですが、ようやく反映されたようです」
そう言って自嘲気な笑みを浮かべる。
確かにギフトだけを聞けば、駆除区分において特級とするには力不足な気はする。
武器次第……姉が武器だったわけか?
「1級でも充分凄いことですし、何より研究区分はまだ特級じゃないですか。どのような成果を?」
「下水なんかに溜まった低級の魔物を全滅させる薬剤を。他にも魔物払いの薬剤に……きりが無いですね。とにかく、悪化のギフトがそういった毒薬の生成に役立つのでそこで特級区分に昇格しました」
おお……納得の査定だな。
「そう聞くと駆除区分が特級のままでも良い気もしますが……」
「あはは。理由は貴方達の帰還にもあるんですよ?」
俺達の?
どういうことだ?
「姉が生きている、その根拠の一つになった。貴方達が帰ってこれるなら、姉がむざむざ死ぬはずない。探しに行かなきゃ……と、なる事を避けたかったんでしょうね。駆除区分特級ならその場に向かう権限がありましたが、研究区分の特級ではその手の無茶は通せません」
「……悪いが、俺が思うに」
ビリ、と背筋に寒気が走る。
殺気だ。それは、紛れもなく正面のオリヴィアから発せられたものだった。
「姉は死んでません。私は、この魔女討伐に協力して、査定を見直してもらい……探しに行くつもりです。その為に今ここにいるんです」
いや、死んだんだ。
俺達が、罠にハメて、殺した。
そんな事が言えるはずもなく、押し黙る。
だが俺が姉の生死を肯定的に捉えていないことぐらいは伝わったのか、オリヴィアの目がすっと細められた。
「まぁ、いいです。同意を求めに来たわけではないですから。仕事をしましょう」
「ええ、そうですね」
その後、数十分ほど作品の討伐作戦について話し合い、オリヴィアは帰っていった。
タカ:気まずすぎ!!!!!!!!!!!
紅羽:お、馬鹿がやっと生き返ったか
ほっぴー:お前さ、本当にさ
ジーク:毎回死にかけるの本当に心臓に悪いのでやめて
タカ:それをやめるにはもう死ぬしかないが
ジーク:じゃあ死んで
タカ:は?
タカ:言葉には気をつけな、その気になれば俺は今すぐ凍死できるぜ
ほっぴー:????????
紅羽:ふざけんな
ガッテン:また命で遊んでる……
ジーク:自分を人質に取りだしたら人間おしまいですよ
鳩貴族:まだ治療できていないという事ですか?
タカ:いや、治療はできてる
タカ:治療ではねぇな
鳩貴族:要領を得ませんね……
ほっぴー:今回はどんな方向で人間をお辞めになったんです?
スペルマン:とっくに辞めてね?
タカ:何回か戻ってるだろ
ジーク:人間引退のプロ
七色の悪魔:禁煙のプロみたいな響きですね
ジーク:おっ、言うねぇ
ほっぴー:どっちかと言うと人外がデフォなので、人外引退を何度も失敗してる方が近い
七色の悪魔:なるほど
タカ:悪魔さんの教育に悪いのでやめてくれませんか
スペルマン:年上やぞ
ほっぴー:罵倒は何歳から始めてもいいんだよ
紅羽:凍死の件、薫に報告してきたから
タカ:!!?!?!?!!?!?!??!?
ほっぴー:草
ガッテン:ナイスゥ!
ジーク:やったぁ!
七色の悪魔:おお……
タカ:待って、わかった、説明する
お代官:なるほど、報告会はそうすれば進むのか……
ガッテン:お代官さんが議長として着実に成長している
タカ:まず、トラップ踏んでモンスターハウスに閉じ込められた
ほっぴー:はい馬鹿
お代官:うぅむ……
タカ:うるせぇ。んで、でけぇ蛇の魔物の魔法に被弾した。本体火力はそれなりだけど、じわじわ凍傷が侵食してくる感じのやつ
スペルマン:うわぁ
ジーク:こわ
タカ:で、その氷を武器代わりに使ったり、戦いの最中に呪術の深度を深めたりして、何とか地獄のモンスターハウスから脱出した
紅羽:外で凍ってたって聞いたぞ
タカ:まぁその辺は記憶があやふやでな、モータルに聞いた方が良いかも
ジーク:モータルに聞いた方が良いことってあるんだ
ほっぴー:笑うからやめろ、一応真面目に聞いてんだから
タカ:で、まぁ、とにかく。帰還してレオノラに治療してもらった。その治療の途中である事をきかれてな
タカ:その氷、誰の物だ?って。せっかくなので呪術に組み込んで俺の物にした。以上だ
お代官:まって
ガッテン:異常だよ
ほっぴー:唐突に爆弾を投げるんじゃねぇ
鳩貴族:は……?
ジーク:異世界ジャイアン始まったな……
スペルマン:何? 被弾した魔法奪えるの?
タカ:いやー、危ない橋すぎるから流石にもうやりたくねぇな。武器として振り回してたのと、その時に呪術の深度を深めたのが良かったんだと思う
鳩貴族:えぇと、えぇ?
鳩貴族:スペルマンさん、呪術の研究担当ですよね? 何か、こう、詳しい解説できませんか?
スペルマン:ごめ、研究サボってる
ジーク:原稿サボってるくせに!!?!!?!?!?!?!?
スペルマン:うっ
ガッテン:死んだな
ほっぴー:あー、領域民の中から編集担当さん見つけたんだっけか
スペルマン:生きてて……よ、良かったよ、うん。本当に
タカ:それは誰に向けてのセリフ?????
スペルマン:じゃあ俺、原稿あるから……
鳩貴族:困りましたね
お代官:少し、砂漠の女王に話を聞いてみるよ
鳩貴族:お願いします
紅羽:薫には多少弁解しといてやるからさっさと生きて帰ってこい馬鹿が、二度と心配させんな