奴が来る
タイトル変更しました
「東京行くわ」
「は?」
唐突な俺の上京宣言に呆気に取られた表情を浮かべる紅羽。
「お前……またサボりか?」
お前な。またって何だまたって。
おいおい何だその構えは。メテオか?落ち着けよ。
いやほんとに落ち着こうか!一旦!一旦聞こう!分かった、分かった!分かるぞ?俺が悪いよな!でもな、一応聞いてみようぜ!?何でもかんでも否定から入るってのはよくねぇと俺は思う。だから、な?
「お前が早口になる時ってだいたいろくでもない企みがあるよな」
はいはい出たよ。そういう妙な心理学もどき……おっと。知ってた?俺メテオでも直撃したら死ぬんだぜ?
「……はー……まあいいか。何だかんだ言って結果は出すからな。お前は」
「あざーす!」
見事紅羽の説得に成功した俺は用意していた荷物を引っ掴みそそくさと退室――
「待てや!!いやお前準備良すぎってか今から行くのかよ!?」
「東京行くわって言ったじゃん」
「言ったけど!言ったけども!」
「やっぱ俺が言ったの認識してんじゃん。ほっぴーとスペルマンにはもう了承取ったし、ほっぴー経由でカーリアさんにも話が届く。という訳で、じゃあな!」
思い立ったが吉日だぜ!
背後から射出されたメテオを避けつつ俺は家を飛び出た。
「主殿。お待ちしておりました」
「……敬語勉強したのか?」
「はい」
ドヤ顔で頷くおっさんの肩にチョップを入れつつ、紅羽一家及び俺の妹警護組の魔物達へ向けてぐっとサムズアップする。
「任せたぞお前ら」
「がぁうー!」「ぶもおおおおお!!!」「……任せるのじゃ」
グール、ミノタウロス、時の呪術師。あと特に反応は返してこなかったが、フェアリー数匹とザントマン一匹が屋根に腰掛け周囲を警戒している。警戒してるよな?なんかサボりにしか見えないけど大丈夫?
まあ、いいか。紅羽経由で妹の方にも話がいくだろうし。出発しよう。
タカ:東京に向けて出発
ガッテン:東京なあ……なんか電波塔守護隊みてぇなのがいて、独裁体制敷いてるらしいぞ
タカ:萎えるからやめろよ
紅羽:おいタカてめぇコラ
タカ:ん?
紅羽:なんで妹に何も言ってねぇんだよ!!!びっくりしたわ!!!
タカ:お前が言ってくれるって信じてたからさ
紅羽:無理やり良い話にしようとしてんじゃねぇ!!!そのくらい自分で言えや!!!
Mortal:東京俺も行ってる
タカ:マジか
ガッテン:モータルが活動的なの珍しいな
Mortal:今の内にグッズとかパクろうかなと思って
ジーク:安定のサイコ
タカ:俺お前とだけは会いたくないわ。ガッテンと同じレベルで会いたくない
ガッテン:あいつと俺同列なの!?すげぇ心外なんだが!?
ほっぴー:気をつけろよー。言ってくれりゃカーリアさんに助太刀頼むから
鳩貴族:未だに魔王軍のスタンスがよく分からないですね。カーリアさんが親人間派というのは分かりましたが……
タカ:あと脚がえっち
鳩貴族:うむ……
ガッテン:うむ、じゃないが
ジーク:深い理解
ガッテン:まあうちには最高に可愛いヴァンプレディって魔物がいるんですけどね
タカ:じゃあ、殺すね!じゃあ、殺すね!
ガッテン:何故二回言った
ジーク:タカは二度刺す
タカ:いやまあそろそろ気持ちも落ち着いてきた頃なんだけどね殺す
ジーク:殺意はみ出てますよ
ガッテン:やっぱ一番サイコ野郎なのタカだよ間違いない
タカ:俺は復讐心に囚われてるだけやぞ。普段は虫も殺さぬ人畜無害な男
ガッテン:それにしては倫理観が無さ過ぎるんだよなぁ
タカ:そりゃお前アレだよ。この世界に魔法持ち込んだ奴の思考誘導のせいだ
ガッテン:なんでこんな奴に大義名分を渡してしまったんだ……
ジーク:言い訳の材料手に入れてうっきうきで草
タカ:何言ってんだ。パニックになった初日にゴブリン殺した時とか俺結構震えたんだぞ
Mortal:初日で狩りか。気が合いそう
タカ:お前東京くんなやマジで
ジーク:印象操作が完璧すぎる
ほっぴー:モータルの一言で震えの解釈が真逆になるの面白すぎだろ
Mortal:?
ガッテン:モータルのはてな単体はマジで怖い
タカ:絶対お前とは直接会わないからな。絶対に!
ジーク:フリかな?
「主殿。前方に」
「ああ……はぐれゾンビか?こっちまで流れてきてるって事は……こりゃ東京に入らずに済むならそうした方が良いかもなぁ……」
近寄ってきたゾンビをおっさんに狩らせつつ、俺は今後の計画の見直しを始めた。
今回の俺の東京遠征の目的は大きく分けて二つある。
まず一つ目。
グールの進化素材の確保。
高純度の魔結晶の確保がネックだが、そこは給料に期待するしかない。
そして二つ目。
電波塔の様子の確認。
あまりに危機的な状況であった場合、助太刀も辞さない覚悟でいる。まあ俺に出来る事なんてたかが知れているのだが……
ただ現状、ここまでゾンビが来ているという事は……
「厳しいかもな」
「何がですかな……でしょうか」
「無理すんな。喋り易い方でいい」
「いえ。これは我輩の決意、ですので」
「そうか。まあいい」
俺もおっさんも、多数を相手取るような戦法は出来ない。逃げ切る事なら出来るかもしれないが。
そんな二人が数で押してくるゾンビを相手に期待されるような戦果がはたして出せるのか、と問われれば答えは勿論ノーだ。
そもそも普通に死ぬ可能性だって大いにある。
「ヤバそうならさっさと撤退だ」
「言われなくても把握しておりますよ」
イケおじ系のコイツが言うと様になっててなんか腹立つな。
俺がその白い髭を数本ぶち抜いてやろうか悩んでいる内に、おっさんがゾンビの魔石回収を始めてしまった。
「チッ」
「主殿。どうかいたしましたか?」
「いや何も。魔石と素材ゲットしたならさっさと進むぞ。これじゃ日が暮れる」
「御意に」
――山道を歩く二人の短剣使い。
その内の一人が、何やら音が鳴った端末を確認し、顔を青ざめさせた。
Mortal:タカっぽいのみっけ
「おいおっさん!!周囲探せ!!」
「!?ぎょ、御意に!」
Mortal:すげぇキョロキョロしてる。なんかあんの?ちょいそっちまで行くから待ってろ
「あの野郎、望遠鏡かなんか持ってやがるな!?」
「____い、タカ~」
「聞こえる!!聞こえるぞ!!!おっさん!殺せ!」
「え!?あ、え!?」
「だあ畜生ッ!やっぱ正直勝てないし逃げるぞ!!」
俺がそう言いこれまでの進行方向と逆を向いた瞬間。
そいつは、居た。
「お前タカだよな?意外に若いなー」
中肉中背。目元が隠れる程伸びたぼさぼさの髪に伸ばしっぱなしの髭。
かなり年季の入った登山服。
「とりあえずアキバ行って色々漁ろうぜ!」
十傑きってのサイコ野郎、Mortalがそこには居た。