ロール
とにかく尊大に。
余裕を見せる必要がある。
何せ、こちらの手札の数を錯覚させなきゃならないんだからな。
「素晴らしい性能だ。流石は砂漠産の怪物だな」
ゴブリンに乗ったまま、蒸気の魔族から見える場所までやってくる。
エリーさんが驚いたようにこっちを見たが、察してくれたのか、すぐに正面に向き直った。
「ガァ……砂漠産……そうか、結局砂漠の女王頼りか。劣等共め」
砂漠の女王頼りなのは全くもってその通り。
おっと、素を出してる場合じゃない。
ロールプレイを続けよう。
「ハハハ! そうだ、お前らの親玉も、お前らも! 砂漠に呑まれて消えるのさ! 結局砂漠頼りだの何だの……そんな言葉は敗北宣言にしか聞こえねぇなぁ!」
傲慢を這わせる。
まだ、相手の怒りが足りない。
「劣等だ? ああ、そうだな。魔王とかいう砂漠の女王にあっさり殺された劣等の話か? 無能な上司を持つと大変だろうよ。そこに関しては——心底、同情するね」
傲慢と虚栄が相手の感情の端を掴む。
激昂を誘う。
「黙れッッッ!!!」
例の、ガードが緩む大技ではない。
だが俺を絶命させるには十分な威力の炎が射出される。
「ごめんな、エリーさん」
着弾寸前。
エリーさんの尻尾が炎を弾いた。
一瞬で影がさす視界。
喉が焼けるような熱。
エリーさんの表情を見る限り、尻尾の損傷はそこまで深く無さそうだ。
良かった、これでボロボロになられたら本末転倒だからな。
さて、これで条件は整った。
俺達の姿は蒸気の魔族の目から外れていて。
尚且つ、俺達の目の前にはエリーさんの尻尾がある。
「触ったかよ、擬態の」
俺が乗るゴブリンの一匹に化けた擬態の魔族がコクリと頷く。
では、大袈裟に焦燥を抱いたフリをしようか。
尻尾が上がっていく。
それまでにしっかり腰を抜かしておいた俺の姿が蒸気の魔族の目に入る。
「ふ、ふざけるなッ! 危うく死ぬところだぞ!? あんな直前にガードするなんて!」
ゴブリンに立て直してもらいながら、何とか座り直し、撤退する。
「クソ、おい怪物! いいからアイツを早く殺せ! ……というか、たった1匹だけの貸し出しなんてケチ臭い真似しやがって……おい! お前! 呼べるんだろ!」
「許可は与えられています」
うお、返事が来た。
エリーさんがそこまで乗ってくれるとは思わなかったからびっくりした。
正直、察しが良すぎて怖いが……この場をどうにかする上では好都合だ。
「なら最初から呼べ!」
「タダではありませんよ」
ん? なんか寒気を感じたが……そんな事はどうでもいい。
「なんでも構わん! 呼べ! 長引いて、俺が殺されるような隙ができたらどうする!?」
「わかりました」
瞬間。
エリーさんの咆哮が、空に響いた。
「————ッ!!!!」
唐突に音が消えた事から自分の身に起きたことを何となく理解しつつも、周囲を確認する。
ゴブリンは、ちゃんと1匹いなくなっている。
ここからだ。
地響きがしている。
エリーさんは本気になれば音もなく地を泳げる。
だが擬態の魔族はそうじゃなかったのだろう。
ただ、演出としては最高だ。
俺の傲慢と虚栄がずぶずぶと相手のメンタルに沈み込む感触が伝わってくる。
「……いけ」
土煙と共にエリーさんと瓜二つの姿をした擬態の魔族が現れる。
蒸気の魔族は擬態の魔族の方の突進を受け流した後、エリーさんの方を向き——。
蒸気が、止まった。
予想通りだ。
ヤツは2匹以上エリーさんが出現したなら、撤退を選ぶ。
あんな場から撤退するとなると、瞬時に1匹の行動を封じでもしないと不可能。
よって新規で現れた個体でなく、ある程度戦って疲弊させているエリーさんに大技を決めようとするはず。
まぁ、どちらを狙おうと大技を出そうとした時点で詰んでいる。
耳が死んでいても、皮膚に伝う振動が教えてくれる。
鐘の音が鳴っている、と。
「やっちまえ! エリーさん!」
蒸気の魔族の顎から下がエリーさんの拳で砕け散る。
脳震盪どころの騒ぎではない魔族に更に畳み掛け——。
ずるり。
舌らしき物が引っこ抜かれ、蒸気の魔族は痙攣を繰り返しながら地に伏した。
意外と野性的なハンティングをなさるんですね。
タカ:耳治んなくて草!w
ジーク:草に草を生やすな
ほっぴー:でも掲示板はできるから良かったね、とはならねぇからな
タカ:色々と酷使し過ぎたんで今日一日は定期的にヒールかけてじっくり治さないと厳しいでしょうって言われた
紅羽:薫が呼んでたから後で行けよ
タカ:は? 絶対説教じゃんね
紅羽:リアクション含めて報告しとくわ
タカ:家族の言葉ありがてー!
ジーク:草
鳩貴族:やばいですね
ほっぴー:コイツが人の子であるという事実
ガッテン:怖すぎ
紅羽:^ ^
ジーク:あっ……
タカ:本当に怖いやつやめてくれませんか
ほっぴー:モータルのはてな単体に並ぶ怖さだろこれ
Mortal:?
ガッテン:それが怖いんですよね
Mortal:^ ^?
ジーク:泣きそう
ガッテン:夜中トイレ行けなくなるのでやめて欲しい
ほっぴー:その合わせはやばいだろ
タカ:既に指何本かぶつ切りにした後の表情だろこれ
ジーク:^ ^ ←こわい。怒ってそう
? ←こわい。人の心無さそう
^ ^? ←本当に怖い。夫婦集めてデスゲームとかさせてそう。苦痛の先にこそ救いがあると思ってそう。部屋一面に今まで殺した奴とのツーショット貼ってそう
Mortal:そうなの?
タカ:そうじゃないと俺は嬉しいよ
Mortal:そうじゃないよ
タカ:そっかぁ。良かったぁ
ジーク:安心した
スペルマン:めでたしめでたし
タカ:罪人、でたわね。開廷します
ほっぴー:死刑
タカ:異議なし。死刑です
スペルマン:ねぇ民主主義
タカ:悪いがここは独裁国家だ
スペルマン:待って欲しい。弁明を聞いて欲しいんだ
タカ:^ ^?
ほっぴー:草
鳩貴族:これは処刑人の顔ですね
ジーク:サイコ絵文字が似合いすぎる男
ガッテン:習得するのが早すぎるんだよなぁ
公判に続く