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未だ熱は冷めず

「うぎゃああああああ!?」

 

 何かが倒れる轟音、それに負けないぐらい野太い悲鳴。


 俺の意識はそんな最悪な音で目覚めることになった。


「まだ、戦闘中かよ……」


 発声すら億劫なほどに疲れている。

 だがまだ残党狩りは終わってなかったようだ。


「……あー、身体、マジで重いな」


「グゲ!?」


 ぎゃあぎゃあと騒がしい声が耳に入った。

 なるほど、ほっぴーのゴブリン隊が俺を運んでくれてたのか。

 こういう時に便利だな。


「悪いな、ちょっと立つの手伝ってくれ」


「グゲゲ」


 ゴブリンに補助されつつようやく起き上がり、周囲を確認する。


 見れば、ほっぴー、ジーク、スペルマン、ガッテンの4人とその仲間の魔物達がせっせと蒸気の魔族とやり合っている。

 紅羽がいたとしても炎で攻撃が通りづらいし、魔物の中に水魔法の類いが使えるやつがいた覚えもない。

 だからこそヴァンプレディの血液魔法に期待したんだが……やはり決定打に欠けたか。


「クソ、マジで動きづれぇ」


 痛覚だけでなく他の色々な感覚も軒並みカットして無理やり動いているが……戦力になれる気がしないな。

 元からあの蒸気野郎相手には戦力になれてなかったけども。


「よし、ゴブリンども、ちょっとこっちに来い」


 呼び寄せたゴブリンの上であぐらをかく。

 それに気付いたヤワタが、俺を守るように蛇の胴を展開した。


 どうせ出来る事もねぇので高みの見物といこう。

 


「あっ、あそこに見学してるクソサボり魔がいるぞ! おーーーいクソサボりーーーー!」


 見つけるのが早すぎるだろ。

 ひとまずジークに渾身の力で中指を立てる。


「やめてやれ、限界だ」


「人間性が?」


 おい、少しは煽りの口を止めろ。

 蒸気のやつも困惑してるだろ。


「仲間割れをしてる場合か? 劣等ども!」


 シュッという排気音と共に蒸気の魔族の姿がブレる。

 直後に鈍い金属音が反響した。


 ガッテンの盾だ。

 流石は熟練のタンク、完璧なガード——


「いっっっっってえええええええええッッッ!!!」


 ではないらしい。

 悲鳴をあげつつも盾と身体の軸を一切ずらさないのは流石だが、なんとも格好がつかないな。


「大袈裟なんだよ、ヒールはまだ投げねぇからな」


「ああ! 大丈夫だ! めちゃくちゃ痛いけど!」


 ガッテンにより動きを止められた蒸気の魔族に攻撃が殺到する。


「くたばれ!」


 ジークからは爆弾が。


「今だッ!」


 アルザからは矢が。

 他にも火属性魔法混じりの一斉攻撃が仕掛けられる。


 見ようによっては綺麗だな。


「まー、蒸気の魔族側がジリ貧かね。逃走だけ要警戒だな」


 遠くから傲慢の法で認識狭窄を仕掛けられないか何度か試してみるが、流石に通らない。

 強いようで痒いとこに手が届かねぇなこれ。

 無いよりは有った方が圧倒的に強くなれはするんだけど。


「おいそっち行ったぞ!」


 ガッテンの怒声。

 いったいどっちに行ったんだ。


 ……あ、俺か。


「助けてーーーーー!!!!!!」


「お前もうマジで帰れや!!!!!」


 確かにね、そりゃ俺狙うよね!

 ヤワタなら一回は防いでくれる、そっからはガッテン達に何とか引き受けて貰って撤退しよう。


 そんな考えは、地面から飛び出た鉤爪と共に打ち捨てられた。


「エリーさん!?」


「遅れてごめんなさい、スルーグさんが、そんな事まで手伝ってやる義理はないなんて言って止めてきたので……撒くのに時間がかかりました」


 撒いたの!? 本当に!?

 気絶させたりしてない!?


「あとムカデ女の妨害にも時間を取られまして」


 何やってんの!?


「あァ、臭うな……あの忌々しい魔女の、臭いだ……!」


「あなたこそ肥溜めのような口臭ですね」


「殺す!」


 炎と土煙が舞う。


 明らかに人体を殴るだけじゃ出ないような殴打音が響く。

 アスファルトは紙切れのごとく破れ、廃墟が次々に廃材の山に変わっていく。


 まぁ、つまるところ……大怪獣バトルいつものである。


「やっぱでかさは強さだな」


「タカさん! 今私のこと褒めましたか!?」


「うん。つよいおんなのこさいこー」


「頑張ります!」


 涙が出てきた。

 もう何の涙かもわからない。

 感情の矢印がでかすぎる。


「お、おい。あのおっかないの、アンタの知り合いか?」


 ボロボロになった擬態の魔族がしれっと俺の隣までやってきてそう問う。

 見れば、他の面々もわらわらと俺の周りに集まってきている。


 おい、やる気をなくすな。アシストしろ。


「あのおっかないのはタカの嫁だよ」


「そして僕はジークのパートナーさ」


「違うよ」


 やめろ、感情が渋滞する。

 

「……アルザ、エリーさんならあの蒸気のやつに勝てるか?」


「勝てるだろうね。僕らがそれなり削ったから」


「あー、圧勝か?」


 アルザは暫く悩む素振りをした後、答えた。


「それなりの怪我は負うね」


「……クソ、認められるか。お前ら何とか支援しろ」


「ひゅー、色男」


 殺すぞ。

 自己再生があるのかもしれねぇけど、圧勝できるならそうするのが当然だ。

 

「でもどう支援すんだよ。生半可なもんじゃ逆に邪魔しちまうぞ」


 ガッテンがぼやく。

 確かにそうだな。


「ほっぴー、案」


「結局お前なんもやらねぇじゃねぇか。エアプ指示厨か? コラ」


「あー、魔力切れで頭が回んねぇな〜〜〜〜」


「クソが」


 ほっぴーが少し下を向いて思考を始める。

 数秒としない内に、案を口にした。


「どう足掻いても火力面での貢献は不可能だ。バフとデバフ……あとバインド系の魔法があればかなり良い支援ができる、できた、か。そんなやついねぇし」


 ほっぴーの草を結んでひっかける初歩的な魔術も、流石にああやって燃え盛られると厳しいだろうしな。

 じゃあ順当にバフかけてデバフ撒くか……そうやって皆が動こうとした時だった。


「ま、待つのじゃ。わしならできるぞ」


 ……?

 

 誰?


「あ、時の呪術師か。久しぶりだなぁ」


 ガッテンがすぐに納得したような声を出す。

 時の呪術師…………あぁ、スペルマンの初期魔物か。


「マジかよ、やるなスペルマン。良い技覚えさせてんじゃん」


「え?」


「は?」


 え?って何。

 その魔物のマスターですよね一応。


「あ、わしは勝手に1人で鍛えて勝手に上達しただけでじゃな……」


 おい。

 スペルマンに一斉に視線が突き刺さる。


「あっ、いや、だってさ。なんかね。育成って……大変じゃん?」


 こんなんもう育児放棄だろ。許されねぇぞ。


 良い魔物当てるだけ当てて放置しやがって……クソ、そういやゲーム時代もそんな感じだったなコイツ。

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