魂リテラシー
「補足。捕食した魔族から断片的に情報をサルベージしました」
気絶したメンバーの回収をしていると、ムカデ女がそんな報告をしてきた。
胡乱気な目を向けると、心なしかドヤ顔を浮かべている。
「街に人形を使った自爆まがいの攻撃を仕掛ける気だったようですね。その鍵となるのが肥大化の魔族で、作戦に非協力的だったところを殺して憑依したようです」
「自爆特攻か。最悪だな」
しかも残機付き。
なにが穏健派だ。ろくでもねぇやつらだな。
「他には」
「はい。街を派手に破壊して、せめて一矢報いてやれ、という派閥と、街を人質に取ろう、という派閥の二つがあり、前者が過激派、後者が穏健派と呼称されていました。これ以上は流石に、サルベージするよりも先に消滅してしまったので……」
「十分だ」
穏健派も全然穏やかじゃないってのが本当に最悪だな。
さっさと殺して安心して眠れるようになりたい。
「エリーさん、俺はもう大丈夫だ。他のやつらの回収を頼む」
「そうですか? 分かりました」
さて。
短剣を握り、軽く振る。
どうも動きが鈍い。虚栄で痛覚をカットしたはいいが、違和感がすごいな。
ヒールが使える鳩貴族さんに後で回復を頼もう。
「やあやあ、しばらく見ない内に素敵な物を刻んでいるじゃないか」
声の先に目を向ける。
ジークに背負われたアルザだ。
「何が言いたい」
「いきなりフルで使おうとしちゃいけないよ。それは、もっとじっくり浸み込ませていくものだ」
「……わかった」
呪術の先輩が言うのだから間違いないだろう。
一時、これ以上の活用法を探すのは停止だ。
今使える法の習熟を目指す。
「痛覚完全遮断ってのは逆に厄介か。思考を邪魔しない程度に認識できるようにしないと」
俺は道中、何度も試行を繰り返しながら、領域へ帰還した。
タカ:帰宅
ほっぴー:おかえり
七色の悪魔:どうでしたか?
タカ:気絶数人以外はそこまで重傷は負ってない。魔族は五匹殺して情報も得た
お代官:医務室に通した。状況は把握している。鳩貴族君が軽傷なお陰で、回復はすぐ済みそうだ
タカ:助かります。俺も後で行くんで
お代官:む、怪我を?
タカ:はい。今んとこ痛覚全カットしてるんで掲示板呑気にやってますけど
ほっぴー:やってる場合じゃねぇだろ。医務室に来い。殺すぞ
タカ:はい
七色の悪魔:詳しい報告は医務室で聞きましょう
タカ:はい……
お代官:ちょっと待ってくれ。痛覚全カット?
タカ:はい
お代官:はいじゃなくてだな。それはいったい何の代償なのかね?
タカ:自分に刻んだ呪術の効果の一つです。移動が楽になるので……一時的に……
お代官:緊急時だけにしなさい。痛覚をなくすのは、基本的にデメリットだ
タカ:わかりました
医務室は、それなりに混雑した状況だった。
十傑とその魔物だけでなく、数人ほどだが領域民が混じっている。
「何かあったのか?」
部屋から出ようとしていた男を一人引き止め、話しかける。
「え、いや、それはこっちのセリフというか……俺はちっとばかし持病の相談で来てただけなんで……」
「なるほど。引き止めて悪かった」
「いえいえ」
数人いるのは通常運行か。
異常事態っぽくなってるのは完全に俺達がいるせいだな。
「よう、タカ。お前紙装甲なのによく平気な顔してられるな」
「紅羽……ボロボロだな。ヒールはどうした」
「なるべくヒールを使わずに治した方が龍人回路の完成が近づくんだとよ」
そりゃ難儀なことだ。
「痛覚切れるか試してみようか?」
「は? 別に痛くねぇけど」
ああ、うん。
そうですか。
「あんま無理すんなよ」
「お前がそれ言う?」
だって俺は別に無理してねぇし。自発的には。
無理な状況に追いやられる時があるだけ。
次に青い顔でベッドに倒れ伏している鳩貴族さんに声を掛けに行く。
「やばそう。大丈夫?」
「いやぁ、専門職でもないのにかなりの量のヒールをやりまして……魔力の回復薬が無いのが厳しいですね……」
「ところで俺も結構怪我してんだけど」
「……ほっぴーさんを呼んでください」
あいつも専門職じゃないけどな。
ヒーラー専はお代官さんだったんだが、運悪く異世界側にぶっ飛ばされて魔法が使えないからなぁ。
いや、砂漠の女王のことを考えると運良く、というべきなのだろうが。
俺は空いているベッドに腰掛けると、掲示板魔法を起動した。
タカ:ほっぴー
ほっぴー:どうした
タカ:ヒーラーが欲しい
タカ:つまりお前
ほっぴー:は? 無理だけど
タカ:なんでだよ
ほっぴー:仕事だよ。クソ、フェアリー軍団も量産しとくんだったな……
タカ:フェアリー、多少余ってなかったっけ?
ほっぴー:領域各地に派遣してんだよ、ゴブリン軍団とセットで
タカ:まいったな
ほっぴー:ちょっと待てよ
ほっぴー:カーリアちゃんってフェアリーの親玉みたいなの従えてなかったっけ
タカ:シルフィード?
ほっぴー:そう
ほっぴー:だからさ、ひょっとしてカーリアちゃんってちょっとしたヒールなら使えるんじゃないかって
タカ:なるほど。確かに
ほっぴー:ちょっと聞いてみる
掲示板魔法を閉じ、ベッドから立ち上がる。
そして医務室の皆に向けて言った。
「カーリアちゃんがヒーラーとして入ってくれるかもしれないってさ」
途端に医務室にわざとらしい苦悶の声が満ちる。ヒールされたがってんじゃねーぞ。
……やれやれ、本当の最優先患者ってやつを見せてやるか。
「俺は痛覚を遮断して色々と動き回ったからな。今その効果を無効にすれば誰よりも真に迫った悲鳴をあげる自信があるぞ」
「お前はマジで何やってんだ」「寝てろカス」「おイカれ遊ばせてる?」
次々と罵倒が飛んできた。
やっぱり元気じゃねぇか。
「タカ君だったね」
肩を叩かれ、振り返る。
いたのは、白衣を着た中年男性。
「医務担当の佳月です。聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど、事実かな?」
「あっはい」
「寝てなさい。ベッドで。あまり医者を怒らすもんじゃないよ」
「すいませんでした」
俺は言われるまま、大人しくベッドに入った。
今日は説教が多い日だな。
4/30から過疎萎えの第二巻が発売されています!
皆よろしくね!
ただ、お住まいの場所によってはもう数日遅れるとの事なので、書店に問い合わせ等行って確認した方が良いかも。(作者のとこは4日遅れぐらい)