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処理完了

「連れてきた。これで全員だ」


 尖り耳の後ろから、五人の魔族がついてきた。

 一方こちらも既に他の十傑とも合流を果たし、準備は万端だ。


「穏健派はかなり少ないんだな」


「……過激派よりはな。あっちは十人以上いる」


 十人以上? 正確な数を把握してないなんてことがあるか?


 どうも嘘臭いな。

 数を大きく見せようとしているのか、その逆か。


「どんな魔法を使う?」


「自分の切り札だぞ。そう易々と教えるか」


「へえ」


 尖り耳だけでなく、後ろの五人も視線に入れる。


「じゃあお前らは? 教えてくれるよな。使ってる魔法」


「それは、そうだな……可能なら、聞かないでくれると助かる」


「はあ? 俺らがお前らにお情けをかけてやるのにどれだけのリスクを払うか分かってねぇの? 領域に連れてくのだって、街を通らねぇように特殊なルート取りをするってのに」


 おっと。

 今、ガードが緩んだよな。

 街を通らないと優位性が崩れるのか? なぁ。


「わ、わかった。教える。俺は、肥大化の魔法が専門だ。攻撃や防御の転用もできるが、基本は生産性の向上に使う。魔王軍じゃ兵糧生産課で働いてた」


 肥大化。なるほど。


「次」


「お、俺は――」


 次々に入ってくる情報を整理する。

 肥大化。

 ネクロマンス、三人。

 透明化。


 どれを一番に殺すべきか。


「過激派の能力は一つも分からないのか。その、何とか課ってやつで多少推測できるんじゃないのか」


 俺の問いに、透明化を使うらしい魔族が口を開いた。


「行方不明の魔族で、同じ潜入課だったやつならいるが……過激派はどうも……俺らみたいな下っ端と違って独立した役割を持っているやつが大半で」


「そうか」


 ネクロマンスだと答えた三人のうちの一人と、肥大化と答えたやつはほぼ確定で嘘をついている。

 放った法が惜しさの欠片もなく弾かれたからな。


 リターンも無いのに手の内を公開することは屈辱的だ。

 よって普通はデバフが通る。もっとも、通ったのは一番緩い認識狭窄のデバフだが。


「それじゃあ、特殊なルートを通ると言ったな。護送車を使うんだ。上を見てくれ」


 俺に言われ、上空を見る魔族達。

 この段階では、まだ俺の様子をうかがう余裕がある。

 もっとだ。

 

 上空から、準備中に掲示板魔法でほっぴー越しに頼んだ、ブーザーが魔道具に乗って現れる。

 ほっぴーが細工をして陸用のを無理やり飛ばしているそうだが……果たしてどうやったのやら。 


 魔族の方を確認する。


「……」


 二人ほど、多少こちらを気にしているが、基本は真剣に上を見ている。

 どう隙をつけば途中で街に行けるのか、どの程度の高度で飛ぶのか。

 さぞ熱心に考察しているのだろう。


 ブーザーが手を振りながら、クラクションのようなものを鳴らす。

 これが合図だ。



 まず透明化の魔族の身体が貫かれる。

 それと同時にムカデの甲殻が一番手前にいたネクロマンス使いの頭部を叩き潰した。


「なっ!?」


 驚いている内に肥大化の魔族の喉笛に斬りかかる。


「ぐっ!?」


 届いた、そのはずなのに。

 眼前の魔族は無傷のまま、バックステップで距離を取った。


 そのすぐ隣では、龍の吐息で魔族二人が全身を黒焦げにされている。


「人形か?」


「待て、待て待て待てッ! 話が違うぞ!」


「紅羽ッ! ムカデ女ァ!」 


 俺の法は、挽回を許さない。

 一度、劣勢にさせたなら、どこまでも食らいついて後を引かせ続ける。


 ムカデ女、そして地中から飛びだしたエリーさん。二人による拘束。

 脱しようと一気に魔族が膨らむ。

 その身体に、紅羽が近づき――


龍人回路ドラゴニックサーキット……死に続けろッ!」


 魔族の口に腕を突っ込み、龍の焔を流し込んだ。


「ぐむ!? むぐぅ!?」


 魔族が赤熱しながら膨らむ。

 数秒と経たず、残機を使い切ったらしい魔族が破裂。



 そして、内部に溜まっていたオーバーキル分のドラゴンブレスが一気に解放された。



「うおおおおおおお!!?!!?」


 身体の芯を揺るがすような衝撃。

 俺はその辺のコンクリートを粉砕しながら数メートルは吹き飛んだ。


 耳鳴りがする。


「……大丈夫ですか?」


 目を開けると、エリーさんが心配そうにこちらを覗きこんでいた。

 小脇に抱えているのは……ムカデ女か。

 一緒に地中に逃げ込んだらしい。


「悪い、虚栄で張ってたバフが消えた。しばらくは厳しい」


 被弾するまで継続するバフ。

 虚栄の法の一部だ。傲慢と馴染みやすい法のお陰か、手持ちのバフの中では最大の効果を持っている。

 それが先ほどの爆発で持っていかれてしまった。

 もっと汎用性が高いものを編み出したいが……まだ検証が浅い。じっくり練っていくべきだろう。


 周囲を確認する。

 おっさんがダウン。というか、魔物勢は殆どがダウンだ。主人を守ったせいだろう。

 立ち上がってるのは、モータル、ガッテン、紅羽、ジーク。

 膝をついてはいるが、まだ戦えそうなのが鳩貴族、ミノタウロス、アルザ。

 スペルマンは魔物共々、道路の上で伸びている。


 なるほど。


「一旦、撤退だな」


「はい」


 エリーさんの肩を借り、立ち上がる。

 

「拒否。殲滅が済んでいません」


「あ?」


 ムカデ女がエリーさんを振りほどき、空に向け口を開いた。

 ミシミシと音を立て、ムカデの脚を詰めたような管が射出される。


「ピギャッ」


 そんな断末魔のような叫びが聞こえた後、管が咀嚼のような動作を数度繰り返す。

 やがて、管はムカデ女の中に戻っていった。


「……処理完了。憑依型の魔族がいたようです。事前情報から、人形の所有者と術者がイコールでない可能性が高いこと。その割には効果が強すぎることから疑問を持ち推測。的中しました」


「お、おう」


「憑依型は一見、無敵に見えますが、魂の状態はノーガードに等しくなります。対策可能な魔法が多数あり、その殆どに一撃でやられてしまう、というのが欠点ですね。その欠点をなくすべく数多の者が研究を深めているようですが……私は強度の改善は不可能であると推測します」


「早口で説明してもさっきのえっぐいのが取り消されるわけじゃないぞ?」


「ブーメランであると推測します」


 余計なことを学習するんじゃないよ。


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